第十二話 普通警察来たら驚くし
「あ、極楽湯ある。オレ行きたーい」
「後にしろ後に」
ChopStickで動画を確認した次の日、正一郎とノレンはまだ見ぬ転生者を求め、泉区の富谷市寄りの所へやってきた。件の仙台市立北中学校がある場所である。
由美は緊急出動があった際の切り札兼、報告書がまだ書きあがっていなかったので置いてきた。正確には書き上げたものが小学生並みの感想でしかなかったので、正一郎がパパっと見本を作って置いてきたのをただなぞっているようなものである。まぁ由美曰く「これでもめっちゃしんどい」とのことだが。
「えーと、調べた住所は……ここだな」
正太郎が見据える先は、閑静な住宅街にあるいかにも普通の一軒家。しかし家の前には例の浮かばせられた車が置いてある。どうやらここで間違いなさそうだと、正一郎が持っている軽自動車から降りた。パトカーで来訪しようものならあらぬ噂が立ちかねないという正一郎なりの配慮である。
表札に「朝日」と書いてある家のインターホンを正一郎は鳴らす。インターホン越しに聞こえてきた声は、中学生くらいの若いものだった。例の動画を上げた子供で間違いないだろう。
『はい』
「あ、どうも。宮城県警の皆川と申します」
正一郎は警察手帳を片手に頭を下げる。ノレンもこういった時に正体を晒すのを嫌がったか、一緒にお辞儀をしていた。黙っていればかわいげのあるやつなのにと正一郎は思ったが、口には出さなかった。
『えっ!警察!?お母さーん!!』
いきなり警察官が訪ねてきて面食らったか、すぐ母親に知らせるために家の中をどたどた走る音が聞こえて、数十秒後にドアが開いた。
「あの、警察の方が何の用でしょうか……?」
不安そうな様子でドアから出てきたのは、三十代も後半に差し掛かろうかという女性。思わず若っと口に出そうになったが、正一郎の口は堅い。ギュッと本音を出さずに、すぐに本題に入ることにした。
「ああ、奥様ですね。宮城県警の皆川と申します。本日は旦那様の弟さんについて何点か伺いたいことがありまして伺いました」
「太陽くん?あの人が何かしたんですか?」
警察が来た=何かしでかしたと思われるくらいには素行が悪かったらしい。まぁ、調子に乗って兄家の車を浮かすような人間だものなぁと正一郎はぼんやり思いつつ、話を続けた。
「いえ、何かしたという訳ではなく、実は当局は娘さんの撮った動画から凄い才能があるなぁと、彼を新設された警察の課へ、その、スカウトに来た次第でして」
どうせ隠してもノレンほどの話術もないのでボロを出す、なら下手に隠さずに言ってしまった方がその後が楽というものだと、正一郎は目的を話した。
「はぁ、なるほど。でも太陽くんは一週間くらい前に東京に行くんだって言って家を出ていきましたよ?」
奥さんの言葉に正一郎はタイミングを逸したと頭を抱えた。ノレンが後ろでにこにこ笑っているが正一郎にはこの際どうでもよかった。なにより太陽氏が戻ってくる可能性もある。正一郎は話を続行することにした。
「ええ、と、その、太陽くんが戻ってくるかもしれないとか、ありませんかね?」
一縷の望みをかけて正一郎が奥さんへ話を繰り出すが
「さぁ?本人次第じゃないですか?なんでも大マジシャンになって故郷に錦を飾るんだとかいってたんでそのうち返ってくるとは思いますけど」
玉砕。多分戻ってこないだろうと正一郎は結論付けた。話を切り上げもう戻ろうかとノレンに目で合図すると、仕方ないなぁとばかりにノレンが話を切り込んだ。
「太陽さんのSNSってわかります?大道芸人になる前でも後でもいいんで」
今更そんなことを聞いてどうするのだと正一郎は訝しんだが、事の顛末を見守ることにする。
「分かりますよ?ええと……夕夏ー!おじさんのアカウントって何だったっけー?」
母親の呼びかけに、件の動画の撮影主、朝日夕夏がリビングから出てくる。
「おじさんのー?あ、こんにちは……」
警察という肩書を警戒してか、夕夏は正一郎たちに少し泣きそうな顔で挨拶をする。どうもと会釈した正一郎をどかすように、ノレンが前に出た。
「こんにちはー。おじさんChopStickやってたりする?お姉さんにアカウント教えて欲しいんだー」
凄い良い笑顔でノレンが夕夏に接触する。とても口座情報まで引っ張ろうとしていた女の顔には思えないなと正一郎は内心戦慄した。
「えっと、これです」
少しほっとしたような顔を見せて、夕夏はスマホの画面をこちらに見せた。なるほど確かに路上でマジックをしている太陽氏が見える。動画がアップされたのはどうやら昨日のようだ。
「……なるほど、ありがとうね!」
動画を確認し終えたノレンは自身のスマホで同じ動画を見つけると、ブックマークして夕夏にお礼を言った。
「ではわたくし共はこの辺で!ほら課長、行きましょう!」
「え?あ、ああ、ありがとうございました。では失礼いたします」
わざとらしいノレンの口調にちょっとドキドキしながらも正一郎は自家用車に戻る。
「おい、気づいたか?」
車の中に戻るなり口調の戻ったノレンが、正一郎に目線を送る。何かに気が付いたようだ。
「なにを」
しかし正一郎は皆目見当もついていないようで、頭の上に?マークを浮かべている。
「……なぁ、修学旅行は何で行った?」
「いきなりなんだよ。小中高大と全部バスか新幹線だよ」
なら仕方ねぇかぁとノレンは肩を竦めた。まだ正一郎にはノレンの掴んだ糸口が見えていない。ノレンは正一郎にスマホの画面を見せつつ説明する。
「この壁画、間違いねぇな。いいか?この太陽とかいう転生者がいるのは仙台空港だ。東京なんかじゃねぇ」
正一郎は目を見開いて驚いた。東京に行くと言っていた男がいるような場所ではないからだ。
「なんでコイツは仙台空港なんかにいるんだ?大道芸するなら仙台駅の東口とかの方が観光客の実入りもいいだろうし、何より東京に近いぞ?」
正一郎の真っ向からの疑問に、これだから情報だけの頭でっかちはと言わんばかりにノレンは目頭を押さえた。
「仙台駅だと自分の家族とブッキングする確率が高ぇだろ?東京行くっつった手前バレたくなかったんだろうな。そんで空港使うってんならデカい旅行だ。そういうのは事前に家族間で連絡が行くから遭遇しにくい、仮にバレても海外進出するんだとかなんとか言っとけば言い訳もたつ」
よくもまぁこんなに推理を並べ立てるもんだと正一郎は感心した。
「で、気が付いた一番の理由は……まぁ、オレもキャビンアテンダントにあこがれた時期もあったってことだ。ガキの頃入り浸っていてよぉ」
へへ、とノレンがはにかむが、正一郎は知らない。実際に気づいた理由は、ノレンがこの近くを根城に白タクを展開していた過去があったからということを。更に近くのアパートを何室か借りて勝手にホテル経営していたからということを。
「……お前、もしかしてなんかやばいことしてたんじゃ」
「ほぉら車出せ!今日もショーを開催するって予告してんぞ!開始まであと一時間!飛ばせば開始に間に合うぜ!」
正一郎に感づかれるよりも早く、ノレンの危機回避能力が働いた。急かされたことで考える暇もなく、正一郎は車を走らせた。
白タクもアパートの規約違反も犯罪です。




