十一話 情報は値千金だし
荒浜での一件の後、調査報告書をしたためた正一郎は自らのパソコンに向き直る。
今回は正直に言って失策もいい所であったと正一郎は考える。相手の力量を違え、更には嘱託ですらない一般人(あれを一般の域に収めていいかどうかはさておいて)に助力してもらっての達成であったからだ。
一歩間違えれば未曽有の大災害を引き起こしかねなかった今回の事案について、海岸という監視カメラも特にない状況下であったことをいいことに調査報告書の中に剣士の名を入れることはやめておいた。デカブツのあの巨体は遠方から確認できたかもしれないが、細かいとこまでは確認できないことを利用し由美の力により完全撃破したことにしたのである。
正一郎は別にこの地位にしがみつきたいわけでもないし、失態を隠したいわけでもない。ただここで剣士の名を出してしまえば、上層部はきっとこういうだろう。
『じゃあ、剣士くん一人いれば部署が回るから確保よろしく』
それは正直避けたい。というかそんなことやってしまえば同時多発的にマルテンの事案が発生した際に対応しきれなくなるし、武装の強化も出し渋られるだろう。何より、一人で回す部署とか絶対不健全である。
「何パソコンとにらめっこしてんだ?」
眉をひそめながら情報を見ていた正一郎に、ノレンが声をかける。由美は正一郎が”今回の一件は宝来さんの力で何とかしたことにするから、そのための能力説明よろしく”と言ったため、なれない事務仕事に悪戦苦闘している。中学時代は稀代の悪であった由美は、かつての情報の授業で習うはずのパソコンがほとんどできないのであった。
「荒浜の件からいやというほどこっちの実力が足りてないことが分かったからな、人員充填の情報収集だ」
画面から目を離さずに正一郎が答える。ほうほう関心とノレンが画面をのぞき込み
「んで、なんでChopStick見てんの?」
SNSを熱心に確認する正一郎にツッコミを入れた。
「宝来さん加入の件で失踪届のない失踪者もいるってわかったからな、相互監視社会のこの世の中だ、特定のキーワードを入れていけば……御覧の通り、転生者を発見できる」
検索タブにただ「転生者」と打ち込んでも、直近のものかバズったものしか引っかからない。そしてそのほとんどが宮城県外のものである。正一郎が入力したワードは「帰ってきた 年ぶり 記念 魔法」の四つ。そこに表示されたのは『五年ぶりにおじさんが帰ってきたら魔法使えるようになってた!』というなんとも分かりやすい動画タイトル。その動画の中でおおよそ二十代前半と思しき男性が、調子に乗った顔で外にあった車を浮かせてみせた。投稿はおよそ三か月前のもののようである。
「コラの可能性は?」
ノレンの指摘ももっともであるが、それを正一郎は否定し、投降したユーザーのページへ飛ぶ。
「投稿者は中学生女子、普段の投稿内容は簡単な顔補正しただけのダンス動画が三件に日常の写真が二十二枚。急にコラージュにハマりだすとも思えない」
なるほどなるほどとノレンは頷き、更に気になる点を指摘した。
「で、これが県内である根拠は?」
それに対しても正一郎は眉一つ動かすことなく答える。
「確かにこの動画やユーザーの投稿した画像にはヒントがないが、よくコメントしているこのユーザー、恐らく同級生だな、コイツが投稿している……この写真だ」
正一郎の拡大した三人の女子中学生が並んだ写真には、はっきりと「仙台市立北中学校」と記載されていた。ネットリテラシーのかけらもない写真を見てノレンが言う。
「駄目だねえこういうのは、全くけしからんよ。身内だけのものにしとかないと悪い大人に悪用されちゃうからねぇ」
そんなノレンの口角はグイッと吊り上がっていた。正一郎もつられて笑いそうになるが、手で押さえてなんとか我慢した。
「オレこっから口座情報まで引っ張れる自信あるけどやる?」
悪い顔をしたノレンがノリノリで立候補するが、さしもの正一郎も部下の犯罪行為を咎めないわけにはいかない。
「させるか馬鹿。こういうのは写真の角度から外の情報を確定させて、住所特定までにとどめとくんだよ」
犯罪行為スレスレを低空飛行する悪い大人二人をよそに、純粋な大人は人差し指二本で頑張って報告書を作っていたのであった。
特定って怖いね。みんなも何か投稿する時は、身バレしないよう気を付けようね!




