一話 昇進という名の島流し
「おめでとう皆川正一郎巡査部長、移動だ」
警察署長から辞令書を受け取った皆川正一郎は、警察官にあるまじきぼさっとした髪を掻きながらあくびをした。
「ふあ……俺、っすか?資料編纂室で延々と整理してるだけなのに?」
「その整理もこのところまともにされていないと聞いているが?」
そう、この男、警察官としてまともな仕事をしていないのである。もっとも彼の得意分野はデジタル系統なのだが、そこでいろいろやらかした結果資料編纂室に飛ばされた、もとい流されたというのが正しい。だからこそ彼のやる気は地の底まで落ち、延々とソシャゲのガチャを回す日々が続いていたのだ。
「じゃあ、元のデジタル対策課に戻るってことで」
辞令書をひらひらさせながら、署長室を後にしようとした正一郎に、署長が待ったをかける。
「違う違う。辞令をよく見たまえ」
そう促された正一郎は、今一度辞令書を、今度はまじまじと見てみた。
「宮城県警、異世界対策課、課長に任命する……異世界対策課?」
そう聞いた正一郎は、ふとSNSで見た情報を思い出す。
転生者や、それに準ずるものが三年前から出現するようになったこの世界で、他なる世界、通称異世界からのものを保護、討伐、解析する部署が警察内部に誕生した。
「キミのデジタル能力はSNSでの情報収集、並びに解析など様々な分野で役に立つからね。存分に振るってくれたまえ」
署長の言葉に引っ掛かりを覚えた正一郎は、質問を投げかけてみることにした。
「俺が課長ってことは、同僚、つーか部下付くんっすよね。何人っすか?」
この言葉に、署長は表情を崩さず答える。
「まずは押野を付ける。その後はまぁ、嘱託になるな」
この返答に、正一郎は頭を抱えた。押野ノレン巡査。資料編纂室にすらその悪名は届いている。曰く、見た目こそ見目麗しい女性であるが、その口から発する言葉の八割は嘘、残る二割もマユツバものとして聞かねばならないとか。拳銃の腕前は誰よりも高いらしいが、そんなことは彼女の短所を消すには全く至らない。
それに残りは嘱託になると署長は言った。つまり外部の人間を取り仕切れということに他ならない。もっと言えば、だれが入ってくるかも予想できないということである。あまりにもあんまりな内容だったので、正一郎は正直やめてやろうかなと思ったし、実際辞令を破り捨てる寸前までいった。
「おっと、そうはさせないよ」
もっとも、署長の機転という名の腕力でねじ伏せられてしまったが。
「離してくださいよ!誰がやるんですかそんな罰ゲームみたいなところの課長!」
「キミしかいないだろう!既に押野はやる気だぞ!いいじゃないか女性と二人きりの課とか!」
「あーっ!発言がセクハラだー!人事部に訴えてやる!大体その女が罰ゲームの一端だってわかってんっすよね!?」
「キミこそ問題発言だぞ!」
こう、ワチャワチャしながらやめるやめないの問答を繰り返し、最終的に月給七万アップで手を打ったのであった。




