第35話 賢者、夢の世界で。
「アオイ、明日はあなたの誕生日でしょ。何がほしい?」
「私は…が欲しい。」
誰かの声が聞こえる。
う〜んと目を開ける。
そこには、楽しそうに話している白銀の髪をした少女と赤色の髪の女性がいた。
「あれは…」
私は思わず自分の目を疑った。それは確かに私とお母様だ。
「お母様!」
私は大声でお母様を呼ぶ。
しかし、お母様はそれを無視する。いや無視というよりも聞こえていない、という表現の方が正しい。どういうわけか、私の声はお母様には聞こえないようだ。
どうしてだろう。
そもそも、なぜ私は私の15歳の誕生日の記憶が蘇ってきているだろう。なぜ、私が人生で一番楽しかった時、そして私がこの人生に絶望した事件の前日の記憶が…。
私はお姉様を抱きしめた後、記憶を失ったはず…。
そうか、これは夢なんだろう。きっとそうだ。そうであれば早く、この夢の世界から出なくては。シズクが待っている。
私は辺りを見渡した。
ここは私が15歳の誕生日の前日の記憶。つまり4000年近く前。場所はセンテリア皇国の首都、センシティの中にあるセンテリア城、女神の間。時間は月の位置から恐らく21時位。明日はあの事件が起きる。
あの事件の事を考えると強いトラウマからか手足の震えが止まらなくなる。
現に今も手足が少し震えている。
何としてでも今日中にこの夢から出なくては。私は自分の頬をひねったり、叩いたりした。井戸まで行き、水を頭の上から思いっきりかけた。
やれることは何でもした。
それでも私は"夢"という監獄から出れなかった。
なぜだ。
そもそもなぜ私はこんな記憶を今さら見ているんだ。4000年間、あの事件があってから、私のトラウマになったあの時の記憶を…。
考えた。私は誰もいなくなった後の女神の間で一晩中考えた。この夢から出る方法。なぜ自分はこの記憶を見ているのか。考えても考えてもついに答えは出てこなかった。
今日はあの事件が起こる日。
私の人生を大きく狂わしたあの忌々しい事件が起こる日。
私の家族を奪ったあの事件が起こる日。
嫌だ。見たくない。いっそこのまま遠くに、それこそパリースまで逃げようかと思った時、どこからか聞き覚えのある声がした。
「アオイ、逃げるな。それは私が見せている。私を助けたいならその記憶から逃げるな。今のお前ならその事件のすべてが終わる頃には私がなぜその記憶をお前に見せたか、その意図がわかるはずだ。」
ユヅキお姉様の声がどこからかした。
「お姉様は逃げずにこの記憶を見ろというのですか。私がどれだけこの記憶に苦しめられてきたか分かっていないのですか。」
感情的に声が聞こえた方向に向かって言う。
「わかっているさ。お前がその記憶のせいでどれだけ苦しんできたか。その事件のせいでどれだけ人生を狂わされたか。私は全部見てきた。その上で言っているんだ。逃げるなと。」
「だとしても…。」
そんな会話をしているうちに女神の間のドアが大きな音を立てて開き、中から何も知らない無邪気な少女が出てきた。
とある王族のメモ
センテリア皇国…かつて大陸を支配していた国。ある事件が原因で王国は崩壊した。




