第33話 賢者、傷を負う。
帝国暦1401年5月
―フランティア王国パリース城披露の間―
「あの顔、何処かで見たことがあるような…」
私は今までの記憶を遡る。
「あっ!」
そして、私はある一人の人物にたどり着く。しかし、あの人何だとしたらどうして生きているんだ。あの人はあそこで死んだはずじゃなかったのか。
ヤバい、もしもあの衛兵があの人なんだとしたら。
「シズク、すぐにあの衛兵を追うぞ。」
「えっ。どうしたんですかお姉様。」
「そんな事、話している余裕はない。行けば分かる。」
困惑するシズクの腕を無理矢理引きながら私は全力で走る。
いた!
私は地下に続く階段を降りようとしている衛兵を見つけた。
「おい、そこのお前、止まれ。」
走りながら衛兵に向かって強めの口調で言う。
すると衛兵はこちらを向いてきたかと思うと急にファイヤーブラストを撃ってきた。
大きな炎の玉がこちらに向かって飛んでくる。
本当ならば避けたいが今私がいる場所は狭い通路。しかも後ろにはシズクがいる。私が避ければシズクに当たる。それは避けなければいけない。つまり私に逃げ場はない。あれを受け止めなければならない。
あの大きな炎の玉を受け止められる魔法…、スノーウォールが適切だろう。
目の前に雪の壁を作る。
「シズク、私の後ろから出るなよ。」
「わかっています、お姉様。」
私達の声が辺りに響いたがすぐにドーーン、バーーンという炸裂音にかき消された。
目の前には真ん中がくり抜かれた様に薄くなっている雪の壁と一寸先も見えない程の煙が充満した。
「シズク、大丈夫か?」
「大丈夫です。お姉様こそ大丈夫ですか?その雪の壁、だいぶ削れているようですけど、お怪我はありませんか?」
心配してくれているシズクに「大丈夫だ。」と言ったと同時に、「お姉様、後ろ、危ない、避けて。」という声が響き渡り、私の背中に激痛が走った。
シズクは私の血を見て、動揺していて使い物にならない。
「うお〜。」
私は痛みを我慢しながら後ろにスノーヴァイトを放つ。
「やっぱりお前か。ベーン…。」
目の前にはあの時、レーヌ城で私の魔法で死んだはずの五賢者の一人、ベーンがいた。
「けど、意外だな。お前が私に一発食らわせれるなんてな。普段のお前ならあの規模の魔法を放ったら魔力切れで動けなくなるはずなんだがな…。裏に誰がいるんだ?教えてくれよ。」
私は血をダラダラと垂らしながらベーンに言うが、ベーンは何も言わずにこちらに剣を向けて突撃してくる。
「ベーン、さっきのは偶然だ。その事はお前もよく分かっていると思うが…。」
ベーンの剣を最小限の動きで交わしながらベーンの目を見る。
ベーンの目は死んでいた。何も考えていない。ただこちらを殺しに来るだけ。攻撃もそこら辺にいる野生のクマやオオカミと変わらない単純な物ばかり。
弱い、普段のベーンよりも断然弱い。重傷を負った私でも対応できるくらいには弱い。
「ベーン、少し眠っていてくれ。」
私はベーンの足に行動不能の一撃を叩き込む。
ベーンはその場に倒れ込むがそれでもなおこちらへの殺意を顕にしている。
放っておこう。まずはシズクを元に戻さなければ…。
とある王族のメモ
都市国家センシティ…フランティア、ジャポーネ、エルベニアの3つの国の国境が交わる点にある都市国家。どこの国にも属さない中立国家。多様な文化が混じったセンシティ独特の文化を形成している。




