第32話 賢者、成功する。
帝国暦1401年5月
―フランティア王国パリース城披露の間―
「お姉様、ダンス上手に踊れてますよ。」
「それはシズクが上手く私のことをエスコートしているからだろ。」
私達は優雅に踊りながら話をする。
そのうちに周りの視線もこちらに集まる。
私達が締めに素晴らしいターンを披露した。辺りが歓声に包まれ、シズクは貴族達と共にに奥の席に戻っていった。
私は生まれて始めて人前で上手くいった事に強い喜びを感じながら少し夜風に当たろうとバルコニーに行き、柵に背中を任せて夜空を見てリラックスしていた。すると、横に誰かが現れ、次の瞬間"バーン"と銃を上に向かって撃つ。
その銃声と共に銃口が私の頭に向けられる。
そして、私に銃口を向けているガラの悪い、山賊のような男が「全員動くな、動いたらこの女の命はないぜぇ。」と下品な目でこちらを見ながら言った。
「お前達の目的はなんだ。」
銃声を聞きつけてこちらに飛んできたシズクが堂々と言う。
「俺達の目的はただ一つ、これだよこれ。」
男は人差し指と親指を上に向けて円を作っていた。
「金か。」
「そうだよ。金だよ金。一杯持ってるんだろ。それをすこ〜し分けてくれるだけでも良いからくれよ。王女様。」
相変わらず下品な口調と目つきで言う男にシズクはその男の顔を見てキッパリと「お前らにやるような金はない。諦めてお姉様を解放し降参すれば命は助けてやる。」と言い切った。
すると山賊はブァ〜ハッハッハッハッと笑いだし「王女様は状況が分かっていないようだ。こちらには人質がいるんだ。そんな態度を取っていたらこの人質の命はなくなるぞ。」
面白そうに言う山賊にシズクは「別に構いませんよ。できるならさっさとやってください。」と平然と言う。
その予想外の返答に驚いた山賊は「舐めるのも大概にしろよ。」と激昂し、「これがお前の選んだ結末だ〜。」と叫びながら私の頭を向いている銃の引き金を引く。しかし、銃弾は出ない。あれ?山賊から間抜けな言葉が漏れる。
「どうしたんですか?やってみてくださいよ。もしかして銃、壊れちゃいましたか?」
シズクが山賊に完璧な煽りを披露する。
「たまたま銃弾が出なかっただけで頭に乗るなよ。」
怒りが頂点に達した男は私に向かって引き金を何回も引くが全て不発に終わる。
「いい加減諦めなよ。その銃の内部は私の魔法で凍りついているから銃弾は出ないよ。」
呆れながら私は男に言うが、それでもなお引き金を引き続ける男があまりにも無様で可哀想に思えた。
「可哀想だし、一発くらい撃たせてあげる。」
私はそう言うと魔法を解除する。
すると、パーンと銃弾が出て私の頭に直撃する。普通なら銃弾が頭を貫通して私は死ぬ。
しかし、銃弾はカーンというまるで金属製の何かにぶつかったような金切り音を立てて私の横に落ちる。
何が起こったのか理解できていない男の銃を取り上げながら私は話す。
「これでわかったでしょ。私に銃は効かないの。何故かは知らないけど銃弾を受けた時はそれが他者から攻撃であろうと強制的に長寿の亀が発動してしまう。その結果、さっきの様に超強力なバリアが貼られる。私を人質に選んだ時点であなたに勝ち目はないの。人質に選ぶならもっと弱そうな奴にしなくちゃ。例えば、あそこにいる私の弟子のアイとかね。」
その場で崩れた男の耳元で語りかけ、私はシズクの元へ行く。
「シズク、もう少し私の事を心配してくれても良いんじゃない?私にも、もしもの時があるのよ。」
「イヤイヤイヤ、お姉様があんな雑魚にやられる訳がないじゃないですか。そんなの心配するだけ損です。それよりもあの男、なんか臭うと思いませんか、お姉様。」
「それは私も思った。現れた時、気配を感じなかった。人一倍気配に敏感な私が。何か違和感を感じる。」
シズクと話している間に男は衛兵達に連行されていく。あの顔、何処かで見たことがあるような…。
とある王族のメモ
パリース城…市街地の奥にそびえ立つフランティア王国の中で最も大きな城。その中には玉座の間、真実の間を始めとした15の間と12の客室、そして王の寝室がある。




