第31話 賢者、踊る。
帝国暦1401年5月
―フランティア王国パリース城披露の間―
「そういえば、お姉様は踊らないんですか〜。」
会話を遮ってシズクが嫌らしそうに聞いてくる。
私は今、新体制への移行を祝う祝賀会に来ている。
目の前にはこの祝賀会に参加しているほぼ全ての貴族達が踊っている。
踊っていないのは私とシズクとドゥースル卿だけだ。
しかし、シズクは王として奥で座っていなければいけないし、ドゥースル卿はこの部屋の警備を任されているから踊っていなくて当然だ。つまり、踊れない事情がなくて踊っていないのは私だけである。
私だって踊りたい。けど過去にこの様な場でダンスをすると絶対にミスる。例えば、3000年前にシズクとやった時はシズクの足を何十回と踏み、最後の最後で思いっきり頭からこけて周囲から物凄い笑われた。この1回だけでは無い。他にも2500年前に『ダンスの天才』と言われていた貴族とやった時には最初っからこけかけ、耐えたかと思ったら足を踏み、足に気が向いている間に壁に衝突し、この時も周囲から物凄く笑われた。
練習では毎回上手くできるのに何故か本番では盛大にミスるのだ。
それ故に私は絶対に踊りたくない、だからこうしてシズクと楽しくお喋りをしていたのだ。
「シズク、私をからかうのも大概にしろ。お前は私がダンスが物凄く下手なのは当然知っているはずだろ。」
「そりゃ〜当然知っていますよ。前にお姉様と踊った時、まるで嫌がらせか、ってくらい足踏まれましたもん。その時思いましたもん。お姉様にも苦手なことってあるんだ〜、って。」
まるで他人事のように適当にシズクは話す。
「そりゃー、誰にだって苦手な事くらいあるに決まっているだろう。」
私も適当に返す。どうせ真剣に答えても無駄だと思っていた私にシズクはこんな話をしてきた。
「ちなみに、お姉様はなんで自分が練習の時はしっかりと踊れて本番になったら急に踊れなくなるか、気づいているんですか?」
「気づいていたら改善しているよ。何がダメなのか分からないから苦労しているんだろう。そう言うシズクは私が何故踊れないか知っているのか?」
どうせ分からないだろうと思っていた私の考えとは裏腹にシズクは
「えぇ知っていますよ。教えてほしいですか?」と言った。
「教えてほしいに決まっているだろう。ぜひ教えてくれ。」
興奮ぎみに自分の顔をシズクの顔に思いっきり近づける。
「うわっ〜!お姉様、近いです。少し落ち着いてください。」
驚いたシズクが私の顔を押しのける。
「すまない。つい興奮してしまって…。」
顔を赤らめながら謝る。
「それで私が踊れない理由は何なんだ。」
興奮から冷めた私が聞く。
すると「それを言う前に一つ確認しておきたい事があります。お姉様はダンスを踊る時、常に本気でやっていますか?」とあまり繋がりを感じられない事を聞いてきた。
「練習の時は少しリラックスしながらやって、本番の時は全力で、本気でやっているがそれが私が踊れない事と何か繋がっているのか?」
不思議そうに聞く私に当然と言いたそうな表情で答える。
「そりゃあ〜、だいぶ繋がっていますよ。さっきの質問の答えを聞いて安心しました。お姉様が踊れない理由はずばり魔力漏れです。」
その予想だにしていなかった解答に思わず
「魔力漏れ?」とまるでオウムのように聞き返した。
「そう、魔力漏れです。お姉様は本気を出す時、本気を出すあまり、お姉様のその膨大な量の魔力は少しずつ抜けています。お姉様は水属性が得意です。つまり、漏れた魔力が氷や雪のような滑りやすい物に変わっているせいで練習では上手くいくのに本気では上手くいかない、という事が起きていたのです。どうですか?納得しましたか、お姉様。」
「あぁ、納得したぞシズク。ありがとな。これで私も皆の前で自信を持って踊れるよ。」
シズクの説明を聞いてようやくわかった。私が本番で踊れなかった理由が。誰かと踊りたい。けど、私と踊ってくれそうな人は皆他の誰かと踊っている。今日は無理そうだ。と諦めていた私にシズクがこちらを向いて
「お姉様、私と一緒に踊りませんか?」と聞いてきた。
「良いのかシズク。お前はここにいなくてはいけないんじゃなかったのか?」
心配そうに聞く私にシズクは少し怒った顔で「良いんですよ、私だけ踊れないなんていくら王としての責務があるとしても不平等です。で、私と踊るんですか?お姉様。」
「あぁ、有り難く踊らせて貰う。」
私はその夜、シズクと初めて上手に踊れた。
とある王族のメモ
披露の間…パリース城の二階にある非常に大きな部屋。主に披露宴や社交会、祝賀会などで使われる。
中央にある大きな王家の紋章がシンボル。




