第30話 賢者、前を向く
帝国暦1401年
フランティア王国パリース城シズクの部屋
シズクが私に爵位をくれた後、会議は何事もなく終わり、私とシズクとアイはシズクの部屋に来ていた。
「シズク、アイ、今まで本当にごめん。そしてありがとう。お前達のお陰で今の私がいる。」
一足先にソファーに座った私はソファーに座ろうとしている二人に優しく声をかける。
「アオイ様、どうされたのですか。そんな事を言うなんてアオイ様らしくありません。」
アイが言うとシズクもそれに同調して
「そうですよ。いつものお姉様ならお礼をいうにしろもっと偉そうで恥ずかしそうに言います。そんな優しくお礼を言う姿、全くお姉様らしくありません。」
と心配そうに言った。
「思い出したんだ。残された者の苦しみを。私は今まで他者を、自分の大切な人を守るためだったら自分を犠牲にしてと良いと、それで誰かが救われるなら、私の命なんて捨てても良いと、そう思っていた。でも違ったんだ。それで残された者は、私に救われた者は一生自分の事を悔やむ、苦しむ、自分の存在を否定する。それこそお姉様を失った時の私のようになってしまう。私は忘れていたんだ。お姉様を失い、どれだけ苦しんできたか。どれだけ自分を嫌いになったか。残された者が苦しんで苦しんで苦しんで苦しんで、自分を殺したくなる。それでも生きなくてはいけない。自分の命を救ってこの世からいなくってしまった人のために必死に生きなくてはいけない。命をかけて相手を守るということは、相手に死にたくても死ねない。そんな足枷をつけることになってしまう。その事をようやく思い出したんだ。3000年前に私が味わった地獄と共に。それを思い出したらさ、自分が正しいと思ってやった行動が、シズクの事をどれだけ苦しめることになるのか。どれだけシズクの心に傷を与える事になるのか。想像しただけでも辛い。そんな事を自分はシズクにしようとした。今、私の中は謝罪の気持ちと私を止めてくれたシズクやアイへの感謝の気持ちで一杯で、そんな相手にいつもの態度で接する事ができるわけなくて…。」
気づいたら私は泣いていた。
そんな私の思いを聞いたシズクは泣き出しながらも笑顔で言った。
「お姉様って、本当に馬鹿ですよね。そんな大事な事にやっと気づいたんですか。遅すぎますよ。そんな事、お姉様がお姉様を失った時から分かっていた事じゃないですか。それなのにその事を忘れて、私の事を助けようとした。私は確かに悩みがあるとは言いました。けど、お姉様を失ってまで叶えたい悩みではなかった。それなのにお姉様は…。本当に、良い迷惑ですよ。けど、そんな所が大好きです。本当の妹ではない、義理の妹である私の事を家族だと受け入れてくれた。世界一大切な義妹だと思ってくれた。そんなお姉様の事がだ〜い好きです。だから、そんなに自分を責めないでください。私はそんな事を望んでいません。今の私の望みは、お姉様と一緒に、平和に生活することだけです。気持ちを切り替えて涙を拭いてください。そして、私が死ぬまでず〜〜〜っと私の事を好きでいてください。」
そう言い終わったシズクは私に飛びついてきた。
ふと、窓の外を見ると無数の星々が輝いていた。まるで私を励ましているように。
とある王族のメモ
3000年前の地獄…お姉様が4000年間の人生の中で最も悲しく、苦しかった事件。この事件の結果、お姉様のお姉様が亡くなった。




