第9話 白蛇は強くなりたい
オーク村で過ごすこと早くも一週間。
村は今日も変わらず平和なものだ。
だが白蛇リュウイチには悩みがあった。
「うーん……強くならないといけないよなぁ」
その日も白蛇は平和な森をのんびり飛行しながらボソリと呟いた。
自分は弱い、それこそまだまだ実力は大森林では下位だろう。
ステータスは大体☆☆から☆☆☆相当、大人しく安全に心掛けて暮らすだけなら、これといって問題もない。
丁度木々の間を飛んでいると、脇から粘性のある糸が放たれた。
「ブシュー!」
「おっとっと! これはかなわないな!」
白蛇の身体にがっつりと糸が絡みつく、巨大な蜘蛛【デビルスパイダー】だ。
毒々しい柄の蜘蛛の姿にお腹に悪魔のような顔が現れる☆☆☆魔物、実力で言えばリュウイチより僅かに格上である。
だがスキルも込みなら、五分五分といったところか。
デビルスパイダーは獲物が糸に掛かると急接近、そのまま消化液で溶かして喰うつもりだ。
当然タダで食べられるつもりはない。
糸は多少暴れても、白蛇を拘束し続ける。
「ッ!」
しかしリュウイチは光の翼を広げると、物理法則を無視して飛び上がった。
厄介な蜘蛛の糸も、光の翼の前では虚しく千切れ四散する。
「光の翼、攻撃モード!」
反撃、光の翼を大きく広げると、デビルスパイダー目掛け、無数の《エーテルショット》が乱れ撃つ。
光の翼を攻撃に転用したスキルで、動きながら使えない欠点があるが、強力な魔法攻撃だ。
デビルスパイダーは一瞬で蜂の巣にされると、ボロボロと肉片を地面へと落としていく。
地べたに住む小さな魔物が、跡は綺麗にお掃除するだろう。
完勝だ、☆☆☆程度なら、スキルで圧倒可能である。
「むぅ……とはいえ、これじゃ全然レベル上がんないし」
ここ最近リュウイチはレベルアップに悩んでいた。
最初はポンポン上がったレベルも、段々と上がりづらくなっている。
それも原因はあるといえばある。
それはリュウイチが格下ばかり相手している性だ。
だって魔物怖いじゃん? などと蛇神の眷属の癖にほざくのだから臆病者であろう。
「ニャオーい! 兄貴ニャー!」
地上から特徴的な声が木々の葉を揺らした。
リュウイチは地上に降下すると、巨大な三毛猫が笑顔で待っていた。
「ベヒーモスじゃないか、なにをして……て」
ベヒーモスの足元に転がるものを見て、リュウイチは顔色を青くした。
おそらく狩りをしていたのだろう、憐れベヒーモスに狩られたのは青い鱗の大蛇であった。
「うわぁ、《ステータスオープン》」
【 種族 】 アビスパイソン
【 レベル 】 70/75
【 ランク 】 ☆☆☆☆☆☆
【 攻撃力 】 458
【 防御力 】 397
【 魔法力 】 201
【 魔防力 】 305
【 敏捷力 】 277
【 スキル 】 毒の才 闇魔法 毒霧 まるのみ 毒耐性貫通
「うへぇ……それどうしたのベヒーモス?」
「ニャア、今日のご飯ニャ、オークたちにも食わしてやるニャ」
ベヒーモスはオーク達と最初こそ敵対していたが、今では和解し、力を合わせていた。
アビスパイソンはベヒーモスより更に巨体で、白蛇と比べたら100倍は違う。
これならオーク村の大食らい達も充分賄えるだろう。
しかしこれほどの大物さえ狩ってしまうベヒーモスとはどんなものか。
リュウイチはベヒーモスに向け「《ステータスオープン》」と呟いた。
【 種族 】 ベヒーモス
【 レベル 】 87/90
【 ランク 】 ☆☆☆☆☆☆☆
【 攻撃力 】 685
【 防御力 】 421
【 魔法力 】 729
【 魔防力 】 564
【 敏捷力 】 929
【 スキル 】 猫の加護 魔法の才 身体変化 大魔法の知識 状態異常耐性・強 魔力自動回復
「うっへぇ……正に天と地ほど」
ベヒーモスの圧巻のステータス、知らないスキルも多数あり、これこそが大森林の王者だろう。
とはいえ、ベヒーモスも実は蛇は苦手らしい。
生理的にキツいというくらいで、ニョロニョロ全般が苦手なのかも。
「しっかしこれって蛇神的に大丈夫なんですかねー?」
ガッツリ蛇な魔物が狩られた訳だが、リュウイチは蛇神に念話を送ると。
『神が眷属の子を殺すのは問題あるけど、弱肉強食に関しては気にする必要はないよ』
『ニンゲンかて、色んな動物や虫を殺すやろ? それでイチイチ目くじらを立ててたら、人神はずっと頭下げなあかんやん?』
念話には猫神も加わり、神ならではの視点で説明してくれた。
リュウイチは「なるほど」と納得、確かに人間活動にイチイチ生殺与奪を考える必要はない。
ベヒーモスが蛇族を殺しても、猫神も蛇神もそれは宿命でしかないというわけだ。
だがこの二柱でも例外はある。
『けどリュウイチ君、お願いだから君は命を大切にね!?』
『ムカつくけど、アンタが死なれたら、ウチらまで巻き添え確実なんやで!』
結局は安定の自己保身、相変わらず微妙に敬えないクソ神たちである。
言われるまでもなくリュウイチはこの蛇生こそ満足に謳歌するつもりだ。
安全に暮らすだけなら、オーク村に引きこもっていればいい。
けれどそれは本当に安全なのか……。
「なぁベヒーモス」
「なにニャア兄貴?」
「お前でも敵わないって魔物はいるのか?」
「……ニャア、あんまり考えたくないけど、この大森林にはアタシより強い魔物は少なくとも七匹いるニャア」
「な、七匹も!?」
予想外の言葉に絶句、ベヒーモスもしょんぼりする程か。
「その中でも筆頭と言えるのが、大森林深部の封印洞窟に鎮座する暗黒竜ニャア」
「暗黒竜……! 聞くだけで鱗が震える恐ろしさだな……けど、なんだ封印洞窟って」
「アタシもよく知らニャイけど、昔の偉い人族やハイエルフの賢者が、暗黒竜を封印するために創ったって聞いたニャア」
うーむ、それはまさにファンタジーの超王道展開が古代にあったのだろう。
強大な力を持つ暗黒竜は滅ぼすことは叶わず、大森林に奥地にて封印、決してこの封解くべからず……なんて、流石にお約束すぎるか?
「ちなみに誰に教わったの?」
「森の奥に住む偏屈なババアがいるニャア! そのババアが色々物知りだったニャア」
凄まじく広大な大森林は、まだまだリュウイチも訪れたことのない場所は多い。
オークも1週間前までは存在すら知らなかったし、つくづく井の中の蛙なのだな。
リュウイチはもっとこの森を知りたいと思った。
「おしっ、ベヒーモスよ、オーク村に戻るぞ」
「ニャー!」
ベヒーモスはアビスパイソンの死骸を咥えると、背中から禍々しい翼を生やした。
スキル【身体変化】の一環だろう。
二匹は勢いよく森から飛び上がると、オークの村を目指して飛翔した。




