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第8話 オークの宴会

 オークの村は勝利を祝って宴会が行われていた。

 巨大三毛猫のベヒーモスを鎮圧し、それどころか舎弟にしてしまった白蛇リュウイチに感謝を捧げる為だ。


 「リュウ様、お酒いっぱい呑んでくださいね」

 「エヘヘー、いやー悪いねー?」


 リュウイチはオーク女性に囲まれ、お酒を呑まされていた。

 最初はオークの女って時点であまり乗り気じゃなかったのだが、誠心誠意尽くされるとオーク女子って悪くないなと、感化されてしまう。

 オークは女性でも皆恰幅の良い体格、愛らしい顔はしているが、それでも豚面だ。

 だが見た目に反して、性格や気質は人間の女性となんら変わらない。

 むしろ自身の容姿に負い目などないくらいだ。

 そんなオークの女性たちにお酒を継がれると一気に飲み干し、気分は高揚していた。


 「いやー、リュウ様はよく呑みますなー」

 「うむり、まさにウワバミ、まるで無尽蔵じゃー」


 リュウイチの呑みっぷりは大食らいのオーク男性たちをしても、相当の酒豪である。

 だが実はそれを一番不思議がったのはリュウイチ自身だったりするが。


 (おかしいなー、全然酔えない。ビールだったら三本あれば酔える体質なのに)


 彼らが提供するのは森の果実を醸造させたワインのようなものだ。

 独特のフルーティさで、程よく甘みも感じる。

 決してアルコール度数が低い訳ではないのだが、ここ一時間飲みっぱなしなのにまるで酔えない。


 (あの神様ー、蛇神様ー、酔えないんですけど、バグですかー?)

 『それはバグではない、仕様だ。まぁ真面目に答えるとさ、蛇神の眷属ってさ、毒無効なんだよね』

 (つまりアルコールは毒扱いだと?)

 『そういうことっ、酩酊感を味わうには、そういう魔法しかないねー』

 『ニャハハ! 酔えないなんて可愛そうやねー!』


 念話に割り込んでくる猫神は酔っているのか、笑い方がちょっと汚い。

 思わずリュウイチもイラっとする程だ。


 『その点猫は酔えるからねーニャハハハ!』

 『ごめんねー、猫神今マタタビ決めててさ?』

 『ニャハハハ! 蛇っちも楽しめー!』


 どうやら猫神に絡み酒ならぬ絡みマタタビされているようだ。

 酔えないのは蛇神も同様か、『ごめんね』という謝罪を最後に念話は途切れた。


 「フニャー兄貴ー、なんだかアタシ気分が悪くなってきたニャー」

 「あー、ベヒーモスは無理するなー、横になっとけ」


 宴にはベヒーモスも参加していたが、酒豪の多いオーク族の宴会はアルコール臭が凄くてダウンしてしまった。

 ベヒーモスの気分を悪くさせるほどなのだから、オーク族の酒は凄まじい。


 「リュウ様、どんどん食べてね!」


 給仕を務める女性たちは、忙しく走り回り、木の皿に乗った料理を運びまわる。

 ドンっとリュウイチの前にも、コンガリ丸焼きされたピラニアみたいな焼き魚が置かれる。

 だが白蛇の腹は既にパンパン、流石にリュウイチも苦笑いで料理を押し返す。


 「ああはい、とは言っても流石にもうお腹いっぱい」

 「駄目だよリュウ様、いっぱい食べなきゃオークみたいに大きくなれないよ!」


 貫禄のついたオークのおばさんにそう言われても、蛇とオークでは種族特性が違いすぎるだろう。

 オーク族は皆力士みたいな横に太い体型だが、肥満体ではない。

 むしろ筋肉の(かたまり)であり、彼らが食べる量は凄まじい。

 ついついオーク女性たちはリュウイチに振る舞う料理の量もオーク基準になってしまう。

 体長60センチの白蛇でしかないリュウイチに、その体重以上の料理が出されても完食は物理的に無理であった。


 「マーダーグリズリーの熊鍋だよー、早いもの勝ちさ!」


 調理を担当する所帯持ちの主婦さん方が、大きな土鍋を持ってきた。

 今日のメインディッシュはマーダーグリズリーの熊鍋のようだ。

 いわゆる水炊きだが、様々な野菜やキノコ類からダシをとり、切り分けられた肉が大量に入っている。

 オークたちは大人も子供も我先にと詰めかけた。


 「うぷっ、本当によく食べるなオーク族って」

 「それがオーク文化だ」


 リュウイチの横に狩人のバルボが腰掛ける。

 バルボはチビチビと木製の小皿に注がれた酒を嗜みながら、視線をリュウイチへと向けた。


 「リュウイチ様は、本当にバア様の言う白き翼の龍なのか?」

 「うーん、俺にはさっぱり、俺的にはただの白蛇だしなー」


 【蛇神の眷属】と言っても、能力的にはクソ弱く、かろうじて強力なスキルでなんとかなっているのが現状だ。

 ベヒーモスと比べるともう、まさに大人と赤子の差、この大森林にはまだまだ未知の強力な魔物が潜んでいるのだろう。


 「リュウイチ様には感謝してもしきれねぇ」

 「いいよそんなの、たまたまなんだし」

 「だけんど、オラたちだけじゃベヒーモス相手にはかなわねぇ」


 ……結果論であるが、ベヒーモス被害を食い止めたのは確かにリュウイチである。

 バルボにとって、オーク族にとって、リュウイチは英雄以上の意味がある。


 「リュウイチ様は神様だ。こう言うのはおこがましいと思うけんど、どうかオーク族を導いてほしいだ」

 「俺がオーク族を?」

 「バア様も納得しているだ、お願げぇします!」


 バルボは至って真面目に頭を下げた。

 リュウイチは考える、このままオーク族とともに歩むのは蛇神の眷属として正しいのだろうか。

 自分は弱い、いざと言うときオーク族を守れるだろうか。

 きっと無理だ、ベヒーモスでも敵わない魔物が現れたなら、その時自分の命運も、この村も終わるだろう。

 それでも……リュウイチはこの暖かさがひどく恋しかった。

 まだ人間の(さが)が残っているのだろうか、孤独は寂しい。

 つい、暖かさを求めてしまう弱い己がそこにいた。


 「あっ、バルボも食え! お前が仕留めた獲物だろ!」

 「いや、それは違う、マーダーグリズリーはリュウイチ様が」

 「リュウ様! これ食べてー!」


 子供達は木のお椀につがれた水鍋を持ってくる。

 わざわざ自分の為ではなく、リュウイチのためにだ。

 リュウイチは苦笑した、子供の前で泣き言は言ってられない。


 「ありがとう皆、いただくよ」


 子供達からお椀を受け取ると、子供達ははしゃいだ。

 水鍋は熱々で腕の無い身体で食べるのは中々苦戦した。

 毒は完全無効でも、熱は別で、汁物は鬼門である。

 火傷しないように注意しないと。

 それでも……水鍋の中にあったのは、食べてくれる人への暖かな想い、そして沢山の感謝であった。


 「(あっつ)いなぁ、火傷しちゃうくらい熱量が籠もっているや」


 そう言ってリュウイチは水鍋を喰らった。

 蛇神の眷属リュウイチとオークたち、そしてベヒーモス。

 楽しい夜はいつまでも賑やかに続いていく。

 今だけはこの優しい時間を享受しよう。

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