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第5話 おいでよ オークの村

 オークのバルボの放った黒曜石の矢は不幸にも遊覧飛行中の白蛇に直撃してしまう。

 狩人として獲物を探していたバルボは、言葉を話す奇妙な白蛇に目を丸くした。


 「俺を食べても美味しくないぞー! だから見逃してくれよーっ!」


 凄まじくみっともない恥も外聞も捨てた命乞いである。

 蛇神の眷属でありながらこの体たらく、まさに生への執着であろう。

 オークは無言で白蛇の前まで歩む、白蛇は顔を青褪めガタガタ震え上がった。

 嫌だ、こんなところで死にたくない、オークに喰われるなんて最悪だ。


 だが、オークは白蛇に向かって、深々と頭を下げた。


 「こっちこそすまねぇだ! まさかウイングスネークに当たるとは思わず申し訳ねぇ!」

 「……へ?」


 白蛇リュウイチは、このちょっと言葉が訛っているが、誠実な対応をしてきたオークにポカンとした。

 魔物、なんだよな……白蛇は一瞬ポカーンとした。

 誠実な謝罪をしたオークのバルボ、一気にリュウイチのオーク観が百八十度と反転する。


 「えーとそのー、そういやウイングスネークってなに?」

 「自分を知らねぇのか? ウイングスネークつったら秋頃に越冬して、春先戻ってくる渡り蛇だ」

 「わ、渡り蛇って?」

 「オラの村では、ウイングスネークつったら縁起の良い魔物、まさかウイングスネークを射っちまうなんて、オラなんて罰当たりを!」

 「待って待って待って! その俺は大丈夫だから、ね?」


 歪な黒曜石の鏃は既に抜け落ち、白蛇の身体は徐々に再生している。

 【蛇神の加護】の(たまもの)か、負傷からの復帰も早いようだ。


 「お、俺はリュウイチ、見ての通り白蛇さ」

 「白蛇? ウイングスネークつったら、みんな白だで?」

 「あぁ……そうなのね」


 地球では白蛇はとても珍しい、東京などでは弁財天の使いなど縁起の良い動物とされるが、ここはやっぱり異世界、白蛇はこちらではありふれている(コモン)らしい。

 ていうか空を飛ぶ蛇が普通にいるのかよっ、とそれまで感じていた飛行する優越感が一気に失せてしまった。

 だったら水中能力強化とかの方が特別感あったんじゃね? などと思ったり。

 どうせの四つの選択肢、どれ選んでもトンデモ能力だったのだろう。

 水中能力強化とか言って、水と同化したり、膂力強化で山くらいデカくなるというオチだったのでは?


 「(いて)て、でもまさか矢を使う魔物がいるなんて盲点だったな」

 「オークは手先が器用ではねぇけんど、弓や斧くらいは作れるだで」

 「なぁなぁ、そのオークの村、良かったら案内してくれよ」

 「ウイングスネーク様がか?」

 「気軽にリュウイチでいいぜ」


 男らしくサムズアップ(?)すると、バルボは前に尖った鼻をポリポリと掻く。


 「なーんもねぇ、村だけどそれでも良いなら」

 「それじゃお邪魔させていただきまーす」


 白蛇リュウイチはオークとはいえ、文明が存在する。その響きに心が踊っていた。

 なにせ深い森の中は弱肉強食の世界。

 野生の魔物が生きるために戦う大自然に、まさか弓矢を使う文明があるなんて想像もしなかった。

 欲を言えば、人間の文明を知りたいところだが、白蛇の姿ではおいそれと行けないだろう。

 だがバルボの反応を見る限り、ウイングスネークとかいう魔物が縁起の良い魔物扱いされている。

 決して問答無用で狩られたりはしないだろう。


 バルボは再び歩き出すと、リュウイチも後を追った。

 いくつか獣道を超え、川を渡っていくと、バルボは足を止める。


 「不味いだ、ありゃ【マーダーグリズリー】だ」

 「マーダーグリズリー?」


 森の奥、巨体の熊が巨大樹木に(つめ)を立て、樹皮をバリバリと削っていた。

 爪研ぎか、それとも縄張りを示すためか。

 赤毛の巨大熊は、見た目も恐ろしく、バルボが警戒するほどか。


 「マーダーグリズリーって危険なのか?」

 「危険だ、大人のオークでも正面からじゃ敵わねぇ、村はもう目と鼻の先だってのに」

 「……おし、なら俺が請け負った!」


 リュウイチは光の翼を広げると物理法則を無視してマーダーグリズリーの頭上に飛び上がる。

 バルボには一切(いっさい)音なく瞬間移動したように見えただろう。

 マーダーグリズリーも勿論気づいていない、リュウイチは一気に急降下すると、マーダーグリズリーの首筋に噛み付いた。


 「ガオオオオオオ!?」

 「おっとっと!」


 巨大熊は絶叫を上げて暴れる。

 白蛇は直ぐにバルボの下に飛翔すると、バルボは何をしたのか聞いてきた。


 「マーダーグリズリーが苦しんでいるだ、なにをしただ?」

 「毒さ、麻痺毒を注入してやったんだ」


 【蛇神の加護】により、《蛇神の毒》は治療不可能の極めて危険な猛毒だ。

 浴びるだけでも、並大抵の魔物は毒液一滴で死ぬほど。

 マーダーグリズリーの毒耐性はわからないが、マーダーグリズリーが(のど)を抑えて、泡を吹くと、そのまま倒れた。


 「おっ()んだか?」

 「間違いなく呼吸困難で衰弱死したと思うよ」


 念の為【熱源探知(サーモスキャン)】でマーダーグリズリーの体温を確認するが、ゆっくりと低下しているのが確認できる。

 毒耐性はあまりない魔物のようだ。


 「凄いだなぁ、けんどウイングスネークが毒を持っているなんて、聞いたことねぇだ」

 「そうなの? てことはウイングスネークはパイソン系かな?」

 「ウイングスネークは魔法で狩りをするだ、身体は細っこく、樹上で群れて暮らすだ」

 「魔法……やっぱりあるんだ」


 ステータスに魔法力があった時点で、予感はあった。

 まだリュウイチは魔法と呼べるようなスキルはないが、自身の一番高いステータスは何気に魔法力である。


 「魔法ってどうやったら使えるんだ?」

 「リュウイチ様は、スゲーのに、なんも知らねぇんだなー」

 「いやー、何も知らないので教えてくださると助かるのですがー」


 思わずゴマすりする社畜マインドのリュウイチ、しかしバルボは。


 「わりぃけど、魔法はさっぱりわかんねー」

 「ガックシ! まぁ……魔法のスキル無かったもんな」


 バルボのステータスに魔法に関するステータスはなかった。

 一応低いなりに魔法力はあったので、習得は出来るんじゃないだろうか。

 バルボはマーダーグリズリーに近づくと、石のナイフで首筋を斬る。

 血抜き、だろうか。

 そのままバルボはマーダーグリズリーを持ち上げた。


 「うわっ、重くないのそれ?」

 「これくらい平気だ、オラ身体(きた)えてるからな」


 軽く一トンはあるだろう巨体を背負うオークのバルボ、それを見て人間とは規格の違う膂力に愕然(がくぜん)とする。

 まして今は蛇の姿、膂力は人間以下であろう。

 そのままバルボは森を掻き分けていく。

 やがて、薄暗かった森に、急激な光が差した。

 リュウイチは紅い瞳を細める、光に慣れると、木の(さく)に囲まれたオークの村が見えてきた。


 「おーい! 帰ったどー! 今日は大物だー!」


 バルボが叫ぶと、村の入口からオーク達が迎えに来た。

 皆横幅の大きな力士みたいな体躯、原始人のような格好でドスドスと足音を鳴らす。

 中には子供も混じっており、バルボの前で燥いでいる。


 「マーダーグリズリーじゃないか! よくこんな大物を!」

 「やったー! バルボスッゲー!」

 「いや、狩ったのはオラじゃねぇ、こっちのウイングスネーク様だ」


 マーダーグリズリーを地面に下ろすと、バルボは白蛇を指す。

 オーク達の視線は一斉にリュウイチに向いた。


 「あ、アハハ、どうもー、リュウイチと申すもので」

 「スッゲー! オレ、ウイングスネーク初めて見た!」

 「翼触っていい!? ねぇ!」


 あっという間にオークの子供達は白蛇を取り囲んだ。

 なんというか物怖じしないというか、子供といえど豚面で身長は120センチくらい、体重は80キロはあるであろう肥満体型の子供達は瞳をキラキラさせて見つめてくる。

 女の子であろうオークの少女が光の翼に触れると、エーテル体が拡散する。


 「あれれ? 触れないよー?」

 「アハハー、光の翼って言ってね、普段は実体がないんだ」

 「綺麗ー、光の翼って言うんだー」


 女の子は楽しそうに光の翼を(つか)もうとした。

 一方やんちゃそうな少年はリュウイチの身体を掴むと。


 「なぁ飛ぶんだろ! 飛んでみせてよ!」

 「こらこらお前達ウイングスネーク様に失礼だぞ」


 大人のオークはそう言うと子供達をたしなめた。

 子供達は「はーい」と元気よく答えると、ようやくリュウイチは解放される。


 「いやー、なんていうか子供はパワフルだねー」

 「ブォッホッホ! 元気なのが一番だ」


 バルボはそう言うと大笑いする。

 大人のオーク達はマーダーグリズリーを四人で持ち上げ、村の中まで運んでいった。


 「それじゃ改めて、オークの村へようこそだ」

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