第4話 進化しましょう
前略、遂にレベル上限に到達しました。
レベル上限に達すると、新たな姿を獲得するとある。
【飛行能力獲得】【水中能力強化】【膂力強化】【特殊能力獲得】の四つ。
まず最初に目に付いたのは飛行能力だった。
飛行能力の獲得とあるのだから、空を飛べるようになるのだろう。
鳥のような翼が生えるんだろうか、それとも東洋の龍のように浮遊する感じなのか。
いずれにせよ、飛べれば活動範囲はグッと広がるのは間違いない。
なんとも夢の広がる能力である。
だが水中能力強化、これも森で暮らすなら中々に有用そうではないか。
森は湿地から沼地、川にいたるまで、水源が非常に多い。
各地に天然の池や泉があり、巨大な湿地帯は雨が降ると広範囲を水没させる程だ。
この森、どれ位広いのかは白蛇の身には定かに非ずだが、少なくとも様々な顔を持っているのは紛れもない。
具体的にどういう風に強化されるかはさっぱりわからないが、水中能力強化も捨てがたいように思えるぞ。
膂力強化はどうか。
単純に考えても、今の白蛇の身体は体長60センチほど、この森ではかなり小さい部類と言える。
単純にアナコンダサイズになれるだけでも、天敵はグッと減るだろう。
そう考えると基本安全に生きたい臆病者のリュウイチには、これもかなり魅力的である。
何がなんだか分からないのが、特殊能力獲得だ。
なにか今までにないスキルでも獲得出来るのだろう。
スキル次第ではできることも増えそうだ。
だが、とんでもないハズレスキルが押し付けられそうでなんだか無性に怖い。
これだけはリュウイチの受けも悪いようだ。
「あー、迷う、迷うぞー。どれか一つしか得られないなんて!」
昔からこういう選択は苦手であった。
いつも頭を悩まし知恵熱を出したこともあった程だ。
蛇の身体を悶えさせ熟慮するが、あの声は催促するように。
【ハリーハリーハリー! 早く決めてください】
「だーもう! こうなりゃ考えるより行動!」
リュウイチの癖は、行動が先になる。
彼はままよと、思考停止して選択したのは……!
【新たな姿へとランクアップを実行します】
白蛇の身体は光に包まれると、身体を再構築していく。
新たな姿は、お馴染み白蛇の姿に光の翼が生えていた。
【新たに飛行能力を獲得しました】
「う……これって?」
首を背中に回すと、淡く輝く光の翼がある。
彼は翼に意識を向ける、すると翼はパタパタと動いた。
――開け、閉じろ、開け。
念じた通り光の翼は自由自在に動いた。
つまりこれは体の一部、まだ慣熟は済んでいないが、リュウイチは空を見上げた。
飛べ、そう軽く指令を出すと、白蛇は一瞬で雲を突き抜けた。
リュウイチが見たのはどこまでも広がる無限の蒼穹。
周囲には遮るものはなにもない、雪を被る山脈さえも眼下にあった。
「……………て、ええええええええええええええええええええええええええええええ!?」
錯乱するかのような大絶叫を上げてしまう。
地上を見渡すと、広大な森が一望出来る。
視界を地平線に向けると、地平線はなだらかに円を描いている。
この世界が球状である証だが、今はそんなことよりも。
「なんだこのスピード!? す、《ステータスオープン》!」
【 名前 】 リュウイチ
【 種族 】 白蛇
【 レベル 】 1/25
【 ランク 】 ■♂
【 攻撃力 】 20
【 防御力 】 40
【 魔法力 】 82
【 魔防力 】 54
【 敏捷力 】 55
【 スキル 】 蛇神の加護 猫神の加護 能力鑑定 光の翼
レベルは想定通り最低まで低下している。
ランクは変わらずバグっていて、注目は新規スキル。
その名も【光の翼】。
「光の翼ってなーにーっ!?」
強風が凍てつく寒さで彼を苛む中、突然補足説明が提示された。
そこにはおそるべき文言が。
【エーテル体で構成された翼、物理法則を無視して飛行可能である。また光の翼は攻防一体】
読んで呆然としたのは、まずここ【物理法則を無視し】、物理法則を無視してである!
訳の分からん異次元速度で雲の上まで飛び出したのは、文字通り物理法則を一切無視した結果である。
えっ、これってスロットル入れたらいきなり最高速ってこと?
凄まじく扱いづらいモンスターマシンに乗っている気分だ。
とりあえず寒いので、彼は慎重に降下を試みた。
「あのー、光の翼さーん、ゆーーーーーーーーーっくり、降下してください!」
光の翼が反応を示すと、彼はゆっくりと降下し始めた。
降下する時も風圧を一切感じることはない、これが物理法則を無視しているということだろう。
おそらく上昇した時も、音速を有に超えていただろうが、摩擦熱もなかったのは、その保護の為か。
やがて背の高い木々の天頂が目の前になると、彼はようやく一息吐いた。
そしてこんな疑問を浮かべてしまう。
「これ、逆に最高速ってどうなっているんだ?」
多分、考えちゃいけないんだろう。
どうせ光速超えて宇宙へ飛び出すとかいうオチな気がしてならない。
迂闊なことをすれば、白蛇の身体のほうが保たない気がする。
「よーし、光の翼さん、オートバイくらいの速度で飛んでー」
時速20キロほどだが、白蛇は空を自由自在に飛ぶことが出来た。
まだ飛ぶということが正直よくわかっていない。
説明書もなく、ラジコン飛行機を操らされている感覚だろうか。
それでも飛行するという楽しみは、まるで幼い時に初めて自転車を買ってもらった時の感動に近かった。
あるいは車を運転する感覚に近いのか、次第に慣熟訓練も実戦で熟しながら、光の翼の取り扱いも判明してくる。
「アハハッ、なんか楽しいなこれ、飛ぶって楽しいじゃないか!」
人間は飛べない、当然蛇も飛べない。
だが【蛇神の加護】を持つ白蛇のリュウイチだからこそ、このスキルを得たのだろう。
初めて飛行するという喜び、まるで複葉機で飛び立ったライト兄弟のような気分であった。
だからこそ……彼は気付かない。
己の身体に突き刺さった石の鏃に。
「ガァッ!? 石の矢……ッ!?」
喀血しながらリュウイチは錐揉み回転しながら急降下した。
なにが起きたのか訳もわからないまま、茂みへと墜落する。
うっすら彼が見たのは弓を構える、二足歩行する豚であった。
豚人間の前に落下したリュウイチは己の傷を見た。
石の鏃、加工は未熟で歪、そのおかげで身体を貫通せず、なんとか鱗一枚で済んでいる。
だが……初めてもらった痛打に彼は混乱してしまった。
「ク、ソ……! こんなところで……!」
「ブフォ? ウイングスネークが喋っただ?」
「え? 喋った?」
豚人間はなんと、リュウイチに理解る言語で喋った。
彼は直ぐに《ステータスオープン》と唱えると、豚人間を鑑定する。
【 名前 】 バルボ
【 種族 】 オーク
【 レベル 】 17/50
【 ランク 】 ☆☆☆☆
【 攻撃力 】 79
【 防御力 】 40
【 魔法力 】 24
【 魔防力 】 20
【 敏捷力 】 55
【 スキル 】 狩人の才 設置罠の才 解体技術 弓術の知識
魔物……に、違いはないが名前欄がある。
バルボというオークは狩人らしい、つまり鳥と間違われた?
「ま、待てバルボとやら! 俺は食べても美味しくないぞー!」
とりあえず命乞いしてみた。




