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第36話 ランクアップ・サード

 白蛇のランクアップに際し、表示された謎の選択肢。

 即ち中級進化体。

 全くもって意味不明、せめてもう少し説明が欲しいところであるが。


 (蛇神様ー、中級進化ってなんですかー?)

 『どうもね君のランクってさ、バグってるぽいんだよねー』

 (ぽいのかー、じゃなくてせめてどんな姿か説明プリーズ!)

 『うーんと、シルエットだけど』


 蛇神様は神界からわざわざ調べてくれている。

 リュウイチには未知の要素が多過ぎて、神を持ってしても不可思議だ。

 そもそも眷属が魔物のようにランクを持つ筈がなく、通常はレベルのみ。

 それも眷属クラスなら最低でもレベル300以上、古参の強力な眷属ならレベル10000なんてものもいる。

 リュウイチはそう言う意味では最弱眷属だが、逆に言えば無限のランクアップの可能性を秘める文字通り天井が分からない存在だ。

 

 『まず選択肢A、シンプルな蛇型に見えるけど、奇妙な装飾が見られるね』


 リュウイチの脳内にはシルエットだが、ニョロニョロの蛇っぽいのが映る。

 だが頭部ヒレのような装飾や、尻尾が扇のように広がる特徴が見られる。


 『次選択肢B おおこれは中々強そうじゃない』


 次のシルエットはラミア体型だが、上半身がムキムキマッチョである。

 ラミアの上位体かのようなイメージだが、もしかしたら全く違うのかも。


 【次選択肢C、これはヒュドラ系だな】


 蛇神の言うとおり、シルエットは三つの頭を持つ蛇だ。

 ヤマタノオロチやヒュドラを連想する姿はこれも蛇の可能性なのだと納得する。


 だがしかし、そこでリュウイチはあることに気づいた。

 この選択肢――。


 「どれ一つ足が無い!」


 待ち望んで仕方がないちゃんとした足。

 蛇神は『足なんて飾りです、偉い人には分からんのですよ!』と無慈悲に言ってくれるが、元人間のリュウイチにとって、蛇の身体は苦労もまた多い。

 ラミアになったならワンチャン二足歩行もあるんじゃないかと期待したが、そんなに世界は甘くないらしい。


 『まぁラミア化でさえ滅茶苦茶渋ったんだもん、絶対人化なんてするはずがない』

 (それ誰の声ですか?)

 『作者(かみさま)


 ちくせう、望みが断たれたか。

 いとも簡単に人化する世の転生系作品のアンチテーゼのつもりか。

 作者(かみさま)は人化するなら注意書きちゃんと書けやーと、血涙を流しているからな。


 【あのー、早く決めてもらえません? ハリーハリーハリー】


 今回は大分我慢強かったが、そろそろ決めろと急かされる。

 とはいえ、魚っぽいの、ムキムキラミア、三叉の蛇。


 (うーん、正直言って、全部嫌だ)


 特に三叉、奴にはなりたくない。

 後々を考えればヤマタノオロチやキングギ○ドラみたいな超有名な存在にもランクアップ出来るかも知れないが、まず見た目がキモい。

 そもそも頭複数で思考はどうなるんだ?

 いきなりリュウイチ2が誕生したら、ちょっと引くぞ。

 というわけで、三叉は論外。

 となるとムキムキか魚っぽいのの二択か。

 うーん、迷う。

 ムキムキは見た目が好きじゃない、マッスルが嫌いじゃないが、なりたいとは思わない。

 じゃあ魚かといえば、それもなんか嫌だ。

 ていうか本当に蛇なのか、これどれ選んでも最悪では?


 【決めないならこっちで勝手に決めますよー、はいルーレットスタート】

 「えっ!? ちょ!?」


 リュウイチの身体が激しく輝き出す。

 まさかのルーレット選択!?


 「ランクアップが始まっただ」

 「ん、バルボの時より眩しい」

 「多分容姿が変わるんだわ、種族そのものが変化するのよ」


 三人は何が出てくるのか、ゴクリと喉を鳴らした。

 一方決定権を優柔不断の末放棄してしまったリュウイチは呆然(ぼうぜん)とした。

 身体が再構築される。

 やがて光が収まっていくと、三人の前にその神々しき姿を現出させた。


 ――その者、聖なる陽の如き後光を背負い、無垢なる純白の尾を揺らす。

 ――さながら鋳鉄の甲冑のような上体を強張り、その顔は少女のよう。


 【ランクアップ完了しました】


 無情な声がリュウイチの脳内に響き渡る。

 そこに立っていたのは、ラミア体型だが、逞しい上半身にアンバランスな少女のような頭が乗った魔物のような姿であった。

 最初にそれを見たフレイアは「ぷっ」と笑いを(こら)えた。

 リュウイチはなんとも言えない表情でただ「《ステータスオープン》」と呟く。


 【 名前 】 リュウイチ

 【 種族 】 ケートゥ(白蛇の姿)

 【 レベル 】 1/45

 【 ランク 】 タ5

 【 攻撃力 】 208

 【 防御力 】 192

 【 魔法力 】 210

 【 魔防力 】 201

 【 敏捷力 】 175

 【 スキル 】 蛇神の加護 猫神の加護 能力鑑定(ステータスオープン) 光の翼 身体変化(メタモルチェンジ) 邪眼(スネークアイ) 丸呑み(グラトニー) 占星術の才


 「ケートゥ?」


 随分と聞き慣れない種族名に、リュウイチはぽかんとした。

 そして新たに得たスキル、一つアビスパイソンも所持していた《丸呑み(グラトニー)》だ。


 【丸呑み:対象を捕食することで、対象のスキルを獲得出来る場合がある。ただしランク以上のスキルや固有スキルは獲得できない】


 なるほど、ようするに一種のラーニングスキルか。

 自分のランクがバグっていては、いまいち期待出来ないが、使いようによっては面白いスキルである。

 そしてもう一つ、【占星術の才】?


 【占星術の才:星を読み運命を見定める才能】


 「占星術って、また難儀そうな学問の才だなー」

 「リュウイチ様、ランクアップおめでとうだ」


 なんとも珍妙な姿に進化してしまったが、バルボは偏見なく喜んでくれる。

 リュウイチは苦笑して、すぐに白蛇の姿に身体変化する。

 どうやら身体変化のスキルも、白蛇、ラミア、ケートゥの姿を自由に行き来出来るようだ。

 言ってみればケートゥはパワー型、パワー型は古来から噛ませなんだよなーと、複雑な気持ちだ。

 とはいえ、これまで苦手としていた攻撃力面が大改善、その分敏捷がやや下がったようだが。


 「ぷぷー、ほ、本当に魔物って摩訶不思議よねー」

 「あんまり笑うなフレイア」

 「ん、見た目を貶すのはよくない」


 レギもリュウイチの新たな姿に口を挟むことはない。


 「むしろ格好良い」

 「まっ、ドワーフの美的感覚ならそりゃそうか」

 「……それはそれで複雑だぞ」


 エルフの美的感覚では嘲笑され、ドワーフの美的感覚では絶賛される。

 なんとも複雑である。


 「それじゃ目的も果たしたし、そろそろ帰るかー」

 「えっ? 先へ進まないの?」


 ゴライアスにコテンパンにやられた(くせ)に、フレイアはまだ先へと進みたい様子。

 白蛇はフレイアの呆れるほどの冒険心に苦笑した。


 「そろそろ帰らないと、日が暮れるだろ?」

 「ん、待って……ゴライアスから」


 レギがゴライアスの遺体を指差す。

 大の字に倒れていたゴライアスは光の粒子に変わると、小さな宝箱に変化した。


 「た、宝箱……まさかミミックじゃ」

 「だとしたら小さなミミックねぇ、どれどれ?」


 リュウイチは相変わらずビビり、フレイアは宝箱の下へと向かった。

 彼女が宝箱を拾う、大きさは三十センチメートルほど、何が入っているのか。


 「ん、ボス報酬楽しみ」

 「じゃ、御開帳ー」


 フレイアは皆に見せるように宝箱を開ける。

 中に入っていたのは、蒼い三日月の付いた金属の(ひも)であった。


 「なんじゃこれ?」


 白蛇には安っぽいチェーンのおもちゃに見えた。

 だがおもちゃがボスの宝箱から出てくるか?

 レギは紐を手に取ると、それが何か言い当てる。


 「振り子(ペンデュラム)?」

 「とりあえず《ステータスオープン》」


 アイテムにも使えるか不明だが、そう呟くと振り子の正体がようやく判明した。


 【ブルームーンペンデュラム:迷いし時、水面に映る三日月は、旅人に行き先を告げる】


 うん、がっつりフレーバーテキストだ、これ!

 リュウイチは全然意味の分からない説明文に呆れ返った。


 「ん、魔力を感じる」

 「とりあえず白蛇が持っていたら?」

 「分かったー」

 「ん、首に巻いてあげる」


 レギは器用に白蛇の首にネックレスのように巻いてくれた。

 白蛇の首元で揺れる蒼い三日月、神秘的ではある。


 「じゃあ帰るんだな?」


 バルボはここまで来た道を指す。

 白蛇も出口に向かおうとする、が、蒼い三日月が振れると、ふと反対側を振り返った。


 「リュウイチ様、突然どうしただ?」

 「んー、なんか分かんないだけど、先に進んだほうが帰り道に近い気がする」

 「なにそれ?」

 「ん、エレベーターかな?」


 ダンジョンにはしばし、エレベーターやテレポーターといったものがある。

 白蛇は迷わず先へ進むと、一行は後ろを追った。

 ゴライアスの間を抜けると、直ぐに暗い部屋へと繋がった。

 暗いが真っ暗じゃない、その原因は蛍光緑に輝く魔法陣があったからだ。

 魔法陣は全員がゆうに乗れる大きさ、フレイアは魔法陣前で屈み込むと、魔法陣に描かれている紋様の意味を調べた。


 「間違いないテレポーターの魔法陣だわ」

 「それじゃあ本当にこっちが帰り道だか?」

 「この三日月、もしかしてこういう効果なのか?」


 リュウイチの推測だが、占星術の才とペンデュラムがなんらかシナジーを出した可能性がある。

 占いの知識なんてこれっぽっちもないが、才はどんな効果を発揮するかは未知過ぎる。

 少なくともペンデュラムは占いの道具ではあるし、道を示すような記述とも一致するが。


 「よし、皆魔法陣に乗れ」

 「ん」


 全員が魔法陣の上に立つと、魔法陣は強く発光する。

 目の前がホワイトアウトするほどの光、やがて彼らは夕暮れの密林に立っていた。


 「……不可逆の帰還用テレポーターか」


 フレイアは後ろを見る。

 茜色に染まるピラミッド、入口であった。


 「ん、ちょっと疲れた」

 「そうね、本格的なダンジョン攻略なんて初めてだったから、私も疲れたわー」

 「早く帰るだ、暗くなったら森は危険だ」


 夜行性の魔物は昼行性の魔物より危険度が高い。

 同じ魔物でも夜の方が活発化し、凶暴性を増す種類もいるのだ。

 急いで村に帰らないと、また魔物に強襲されるやも知れない。

 フレイアはうーんと背伸びし、レギは欠伸をする。


 「帰るまでが冒険だぞー、お前ら」

 「んだんだ」


 白蛇は光の翼を広げると、ゆっくり歩くような速さで先頭を飛ぶ。

 色々あったが、白蛇もバルボもランクアップし、フレイアとレギも大分レベルアップしただろう。


 「そうだ、バルボ。ダンジョンへ行く前、色々悩んでいたけど、答えは出たか?」

 「オラ、正直自分はなにが出来るか分かんなかっただ、だけどオラ、防衛隊の教官をやりてぇ」

 「教官かぁ」


 バルボには新たな道が見えた。

 自分でも苦境を越えランクアップ出来た。

 その力は、魔物街を守る為に使いたい。

 魔物街防衛隊はまだまだ組織としても未熟、周辺国の軍とは比べ物にならないだろう。

 だが、バルボが鍛え、オークやゴブリンをランクアップさせていけば、きっと街に、そしてリュウイチ様に貢献出来るだろう。

 バルボの夢、皆のランクアップ、それは着実に彼の自信になった。

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