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第35話 汝は猫、汝は蛇、汝は何者?

 「あ、ぁ……」


 一瞬、あっという間にパーティが全滅してしまった。

 いや正確には半壊だ、だが全滅と殆ど相違はない。

 白蛇は文字通り何もできずゴライアスの前で竦み上がる。

 仲間さえ守れず、白蛇の命運は風前の灯火であった。


 「し、白蛇様、逃げて」


 レギはそう言うと、前のめりに倒れる。

 これで動けるのは白蛇のみ。


 「に、逃げるたって、皆を置いて逃げられるかよっ!」

 「ゴラァ!」


 ゴライアスは蹴りを放つ。

 白蛇は瞬時に天井まで飛び上がる。


 「ち、畜生ーっ!」


 そして頭上から毒液を浴びせた。

 毒は完全に効かない。

 だが麻痺ならどうか?

 ゴライアスは身体を痺れさせる。


 「よ、よしっ! 麻痺が効く!」


 これなら心臓麻痺まで麻痺毒を浴びせれば勝てる。

 ゴライアスも生き物、心臓や肺が麻痺して無事のはずが無い。

 だがゴライアスの様子はどうもおかしい。

 よく見ると、マグマの嵐で焼け爛れていた皮膚が治癒している。

 彼はそこで、ゴライアスのスキル【再生力】を思い出す。

 自然治癒力を大幅に強化するこのスキルは、圧倒的なダメージを連続で与えなければ再生に追いつかない悪循環を生む。

 また【守護者】のスキルによって、ゴライアスはこのフィールドから出られない代わりに耐久力を大幅に上昇させている。

 正に壁ボスだと痛感出来る。

 その実力はベヒーモスにさえ、なんら劣っていない。

 それどころか倒しづらさならベヒーモス以上だ。

 そのベヒーモスなら高速で飛びながら魔法戦で圧倒しそうだが、そんな真似はこの一行にはできない。

 白蛇も魔法は《エナジーショット》のみ、威力は雀の涙だ。

 魔力が上がれば威力も上がるとはいえ、ゴライアスの魔防力は相応に高い。

 ゴライアスの魔防力を上回るなら、それこそ聖女アイ並の魔法力が必要になるだろう。


 「ゴァァァ!」


 ゴライアスの唸り上げる拳(アッパーカット)、白蛇はそれを紙一重で避ける。

 だがゴライアスは天井を破壊し、崩落する天井が白蛇を襲った。

 でかい崩落物が白蛇に直撃すると、白蛇は落下する。


 「ぐあ……く、そ」


 このままでは本当に死んでしまう。

 ゴライアスは再生力により、麻痺からの快復も速い。

 ならそれこそ連続で麻痺毒を浴びせなければならない……のに。


 「ゴオオオ」


 ゴライアスは墜落した白蛇に手を伸ばす。

 白蛇は怯えた、だが身体が言うことを聞いてくれない。

 やっぱりクソ雑魚ナメクジじゃなにもできないのか。

 もし少しでも勇気があれば、皆と一緒に戦えば、なんとかなったじゃないか。

 そんな後悔を思い浮かべると涙が溢れた。


 (バルボ、フレイア、レギ……ごめん、俺……やっぱり)


 ――その時、ある神の声が聞こえた。


 『リュウイチ君、君は誰の眷属かな?』

 (……え? 蛇神様?)

 『そんな中階層ボスがなんやねん! お前は猫神の加護があるんやで!』

 (猫神……でも、どうすれば?)

 『蛇はね、何万年も何百万年も姿の変わらなかった生き物だよ、それってどれくらい凄いことだと思う?』


 蛇神は穏やかな声で蛇がいかに偉大か話す。

 そして猫神もまた自身の加護の偉大さを語った。

 リュウイチは戸惑った、今更それが何になるのか。


 『リュウイチ君、蛇はね、あらゆる環境にも負けず、あらゆる生き物を獲物にし得る可能性を持つ変温動物の頂点だ』

 「ちょう、てん?」

 『それは断じて巨人ごときに劣る能力ではない、君はまだ加護の可能性に気づいていない』

 『猫もや、ちっとは猫の偉大さを思い知るんや!』


 【猫神の加護】、その時白蛇は世界がスローモーションに映った。

 ゴライアスの手が迫る、だがリュウイチは素早く後ろに飛び退く。

 それは明らかに蛇の挙動ではない。


 「はぁ、はぁ……これって?」

 『猫や、ニンゲン、お前は猫や、猫神の権能(チカラ)を持つ世界最強の肉食目!』


 その時、リュウイチは猫神の加護の本当の力を思い知った。

 この権能(チカラ)はただ単純に猫族を従わせるだけに非ず、蛇神の加護が、リュウイチにあらゆる蛇の能力を与えたように。

 ただ、自身は白蛇……だからこそ猫の意味を知り得なかった。

 蛇は爪を持たない、そんな当たり前の常識が、ただの思考上の障害でしかなかった、と。


 「ゴラアア!」

 「ッ! ハァ!」


 リュウイチの世界は一瞬で色彩を色鮮やかにする。

 この感覚は白蛇に転生した時も味わった。

 今まさにリュウイチの頭の中がハジけた瞬間だ!


 リュウイチは地面に《爪》を立て、駆ける。

 ゴライアスの手を上り、あっという間に首元まで届いた。


 『サーバルキャットやヒョウは木登り名人や! 蛇の特権やないで!』


 然り、ほんのり光る半透明の猫の手が白蛇と繋がっている。

 尻尾もまるで猫のように動き、蛇の身体なのに猫の動きが出来る。


 「ゴラァァ!」

 『ニンゲン、野生動物の王者はなんや! 百獣の王こそ猫様や!』


 リュウイチはまるでチーターのような速度でゴライアスの身体を駆ける。

 そしてライオンの(きば)を持って、ゴライアスの頸動脈に噛み付いた。


 「ガアアアアア!?」

 『君は蛇神だ、蛇の恐ろしさを存分と教えたまえ』


 二柱の神々がどうしてダンジョン攻略で全然警戒していなかったのか今分かった。

 敵じゃないんだ、本来の眷属としての能力(スペック)を持っているならば。

 本来神の加護を二つ持っているなんて、イレギュラー過ぎてあり得ない。

 猫の全てと蛇の全てを持っている唯一無二、それこそ白蛇リュウイチである。


 「頸動脈に麻痺毒を流し続ければ!」


 ゴライアスはもがく、信じられないほどタフだが、小さな白蛇を引き剥がせず、やがて泡を吹いて、その巨体が倒れた。

 白蛇はなんとかゴライアスを倒すと、大きく息を荒げた。

 そして白蛇は万感の思いを込めて。


 「オッシャーッ!!!」


 勝利の雄叫び。

 その声にバルボは気絶から復帰。


 「ぅ、ゴライアスが倒れている……リュウイチ様がやったのか?」


 白蛇のやかましい声には、フレイアも目くじらを立てて目覚めた。


 「うるさいわね……くそ、まだ頭痛い」


 そしてレギもまた、いつもの昼行灯な顔でむくりと顔を上げる。


 「白蛇様、勝ったんだ、やっぱり白蛇様はすごい」


 勝利に浮かれる白蛇を、三人はまるで親のような視線で見つめた。

 強敵ゴライアスへの勝利、その経験値は一行へと分配される。

 今回最も多くを得たのは当然リュウイチだ。

 そしてそれは、再びあの声が脳に響いた。


 【レベル上限に到達しました】

 【新たな姿へとランクアップします】


 遂にレベル上限。

 ゴライアスを実質単独撃破出来たことは大きかった。

 白蛇はドキドキしながら、選択肢を待つ、脳内に表示されたのは。


 【中級進化A】【中級進化B】【中級進化C】


 「なんか全く違う選択肢になっとるー!?」


 ガビーンという効果音がリュウイチの脳に轟いた。

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