第29話 仲間を加えよう
ダンジョン、当然モーアの大森林にもダンジョンは存在する。
最も有名なのは、大森林の中央に位置する封印洞窟だろう。
そこは主である暗黒竜をボスとして、最高ランクの魔物がひしめいている。
下手すれば最強クラスの冒険者一行でさえ、初戦で全滅もありうる世界最高峰の攻略難易度のダンジョンだ。
当然、そんな危険なダンジョン……というか大森林深部には近づきたくもないリュウイチ。
狙うのは手頃な難易度のダンジョンなのだ。
とりあえず洞窟とかに詳しそうなのはそりゃドワーフだろと、白蛇はレギの仕事場へと向かった。
レギの鉄火場では、今日も弟子を指導しながら、彼女は涼やかに真っ赤な鉄を打っている。
そんな彼女にリュウイチは声を掛けた。
「オイース、レギ」
「ん? 白蛇様、レギになにか用?」
「そうそう、レギに聞きたいんだが、近くに手頃なダンジョンがないか分からない?」
「ダンジョン、んー、ダンジョンはわからない」
「そっかー」
意外だが、レギの持つスキルは鉱脈は探知出来るが、ダンジョンは探知出来ない。
ダンジョンと鉱脈が重なっている場合は探知出来るが、それがダンジョンを含むかはわからないのだ。
「白蛇様、どうしてダンジョンを?」
ドワーフ族にとってダンジョンは切っても切り離せない関係がある。
地底に国を作るドワーフ族は、知らずにダンジョンに穴を開けることがあるのだ。
その結果、大量の魔物がドワーフの国へと侵入し、滅びるドワーフの国は暇がない。
逆に歴史のあるドワーフ王国はそれだけ凄まじい力があると言える。
「パーティを組んでなー、レベル上げしたいんだ」
「レベル上げ……レギももっと研鑽がいる」
「おっ、レギも来るか?」
「んー、でもレギは先ず鍛造を極めたい」
レギの期待値は大英雄クラスだ。
もしもレギのレベル限界であるレベル999まで上がりきったなら、きっと一人で万軍を相手に出来るような力を得るだろう。
だが同時に数多くの者が、己の限界も知らず、そして一生の間にレベル限界まで上がることもない。
レギの寿命で999までレベルを上げるには、気の遠くなる年月を要求するだろう。
「それじゃあ仕方ないな、レギも忙しいもんな」
「んー、でも白蛇様と一緒にいたいし……んー」
あのレギが本気で迷っている。
一緒に居たい、そう言われると白蛇もじ~んと目頭が熱くなる。
「俺もレギと一緒に冒険したいぞー」
「ん、やっぱり行く! レギもレベル上げ」
レギは立ち上がると白蛇の仲間に加わった。
「テレレレーン♪ レギが仲間に加わった」
白蛇はファンファーレを口遊むと、レギを歓迎した。
「それじゃあ準備が整ったらダンジョンへ行くからなー」
白蛇は光の翼でバイバイと振ると、工房を出た。
レギがやる気を出してくれたことだし、先ずはダンジョンを見つけないとな。
そうなると、後頼れそうなのは誰だろうか。
ベヒーモスなら色々知っているだろう、だがリュウイチはベヒーモスに聞く気はない。
何故なら絶対に場違い難易度のダンジョンに案内されるからだ。
ベヒーモスは可愛い三毛猫の姿に反して、かなりの戦闘狂だ。
ヒリつくような強敵に勝つことに喜びがあり、それらは当然白蛇には歯が立たない。
ようするに難易度が合わないのだ。
「リュウイチ様じゃねーか」
「ふえっ? て、バルボか」
相変わらず毛皮のコートを纏ったオーク族のバルボは、リュウイチに気付くと直ぐに頭を下げた。
リュウイチは直ぐに駆け寄る。
「バルボ、今日も狩りか?」
「いや……最近は狩りはしてねぇ」
「え? なんで?」
バルボは下を俯くと、その理由を静かに吐露する。
それはバルボの悩みであった。
「農業が軌道に乗って、狩りで食料を得るのも、オラじゃもう役には立てねぇ」
「そんなどうして? バルボは優秀な狩人じゃないか」
「そう言っても貰えるのは嬉しいけんど、現実獲物じゃベヒーモスには敵わねえし、量じゃゴブリン族に勝てねぇ」
つまり狩人に食料を依存する圧力そのものが大幅に低下したのだ。
バルボが沈んでいるのは狩人の在り方に疑問を覚えたためだ。
「もうオラみたいな狩人は時代遅れなのかも知れねぇ」
「うーん、それでも俺はバルボって格好良いと思うけどな」
「リュウイチ様? オラが格好良いだなんて」
「オークは皆バルボに感謝している、尊敬されているって、それはバルボの功績だろう?」
バルボは子供や昔ながら住民には必ず挨拶されている。
それどころかゴブリン族にもバルボは一目置かれているのだ。
「おしっ、それならさ俺と一緒にパーティ組んで、ダンジョンへ行かないか?」
「ダンジョンだ? 危険な場所だぞ?」
「だからそこでランクアップして、これからを考えてみようぜ?」
バルボは真剣な表情で沈思黙考した。
現状ではバルボが尊敬を失うのは必定。
いつまでもこんな穀潰しを社会は許さないだろう。
それならリュウイチ様の言葉は一理ある。
「わかっただ、オラリュウイチ様に従うだ」
「オッケー、それならバルボも仲間だな」
「オラも?」
リュウイチは先にレギと先約していることを説明した。
レギと聞くと、増々バルボの顔は険しくなった。
あのハイドワーフの少女はスゲー魔法使いだ。
ゴブリン襲撃の時、一番貢献したのはレギだったろう。
自分とはまるで違う、バルボには大柄なオーク族の身体で皆の盾になるだけだ。
「オラ、強くなりてぇ……そしてオラの道を見つけてぇ」
「見つかると良いな!」
リュウイチは空に浮かび上がる。
仲間が二人もいれば充分だろう、ダンジョンを探そうと思うが。
「おーい、白蛇ー」
「フレイア?」
亜麻の洋服でお洒落したハイエルフの少女は白蛇を見つけて声をかける。
普段は農業試験場に籠もって日々、品種改良に勤しんでいるエルフ女が新市街でどうしたのか。
「どっか行くの白蛇?」
「そういうお前は?」
「暇潰しー、流石にずっと働いていたら、肩が凝ってしょうが無いでしょう?」
だから適当に新市街を散策していたらしい。
確かに実質過労でくたばったリュウイチからすると、労働は恐ろしいものだ。
ましてエルフ族は体力があまり無い種族である、ハイエルフが規格外とはいえ過労を舐めてはいけない。
「それで白蛇は、どっか出かけるならまた新しい品種を見つけて欲しいんだけど」
「お前今イチゴで忙しいだろう?」
「それはそれ、まだ酸味が強くて食えたもんじゃないのよね、人族の作るイチゴってなんであんなに甘いのかしら?」
フレイアが見つけた品種は小粒で酸味の強い野イチゴだ。
ベリー種は非常に種類が多く、甘くて粒の大きな品種は、正にたゆまぬ努力の証である。
やりがいはあるが、フレイアの疲れた表情を見るに、品種改良は一筋縄ではいかない様子だ。
「俺はダンジョンを探しにな」
「ダンジョン? なに、ダンジョンの恵みが目的?」
「恵みって? 魔物がいるだけじゃないのか?」
ダンジョン初心者の白蛇はただ戦う場所くらいにしか考えていなかった。
フレイアは呆れた顔で説明する。
「ダンジョンは大きく分けて二つに分類されるけれど、それは天然系と人工系よ」
「天然と人工って?」
「天然は自然が生み出したもの、人工は誰かが何らかの目的で建てたもの」
古代なんらかの理由で迷宮を作った古代人、しかしそれも今や主なく魔物が跋扈するだけとなった例を説明する。
しかし白蛇が疑問に思ったのは恵みという言葉だ。
「ダンジョンはね、どういう訳か、宝箱がよく見つかるのよ」
「宝物ってこと?」
「人工なら説明出来るけれど、天然だと謎でしょう? なんでダンジョンには宝物があるのか?」
普通天然で宝物庫は生まれないだろう、とフレイアは言う。
ゲームでは不思議とダンジョンにアイテムが落ちているのは基本だが、冷静に考えれば誰が宝箱を設置しているのか。
フレイアはダンジョンの謎は神様の悪戯だと論じる。
そういうことは神様に聞いてみようと、白蛇は神界のあの二柱に念を送った。
(蛇神様猫神様、ダンジョンには、どうして宝箱があるんでしょうか?)
『アンタ、そこに愛はあるんか?』
(は?)
早速帰ってきたのは猫神の念話、だがいきなり愛はあるかと言われても。
『えっとねー、うーん……浪漫かな?』
『だから愛やねん! ダンジョンは愛やねん!』
どうも二柱の様子はちょっとおかしい。
白蛇は一応追及する。
(ちゃんと答えてください、ダンジョンってなんなんですか?)
『うぐぅ……リュウイチ君、浪漫はね? 知らない方が夢があるだろう?』
あの蛇神がここまで聞いても濁すのがダンジョンなのか。
なんだか不気味であるなと、白蛇は喉を鳴らす。
『いいかニンゲン、世の中には知ったら極端に詰まらんようになるもんがあるねん! お前は映画とかのネタバレを聞きたいか?』
(申し訳ないが、俺は攻略情報前提でゲームを遊ぶ人間だぞ)
人によるだろうが、リュウイチは攻略本片手にプレイする派である。
イチイチ苦行に付き合うのは御免なのだ。
ついでに言えばゲームを発売初日で買うなんてありえない。
初日で買う奴は転売ヤーかクソゲーマイスターと思っている。
石橋叩いて渡るを地で行くリュウイチは映画でさえ、事前レビューを確認してからだ。
地雷作に金を払うなどまっぴら御免である。
『ぐぬぬーこれやからニンゲンは』
『兎に角! リュウイチ君、ダンジョンに行くならちゃんと装備を整えてねー』
ダンジョンの価値観にどうも大きな齟齬があるようで、神々は念話を切った。
はたして神様にとってダンジョンってなんなのか。
少なくともリュウイチの命を自己保身で守りたいあの二柱が、ダンジョン自体を否定しなかったことから、そこまで危険視はしていないようだ。
むしろ攻略してほしいという雰囲気さえあった。
「白蛇、じっと黙ってどうしたのよ?」
「うん? あぁなんでもない! それよりダンジョンだよ、どこにあるのやら」
「ダンジョンなら、近くにあるだ」
「えっ?」バルボはどうやらダンジョンを知っているようだ。




