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第24話 転生者の対決

 新市街を丸ごと覆う巨大な石壁(ストーンウォール)、ゴブリンたちは進軍を止めざるを得なかった。


 「クソッ、なんて防壁だ……オレたちにもこんな壁があったらなぁ」


 石の壁に手を当てると、一人の兵士がそう愚痴を(こぼ)した。


 「お前開拓村出身か?」

 「あぁそういうお前もだろ?」

 「聖女様のおかげで、開拓村も大分安定してきたからなぁ」


 そう言って空を見上げるゴブリンの兵士はタバコを咥えた。

 人族との交易で手に入れたタバコはゴブリン兵士たちに流行していた。

 新市街は可燃物質が少なく、こちらの火矢もあまり有効ではない。

 突然石の壁で遮ってきたのはオーク側の英断だろう。


 「それで、女を捕まえればいいんだろう?」

 「つっても、こっちはオークだけどなぁ」


 そう言って、ゴブリンは捕まえた捕虜の一団を見やった。

 ここまで捕虜にしたのは女性オークが20名ほど。

 捕虜の前にはゴブリン族の指導者、聖女がいた。


 「フェッフェッフェ、大きくなったねぇ聖女アイや」

 「あなたは老いたわね、オークのシャーマン、マハーラ」


 村の本来の指導者マハーラは、今や政治から退き旧村落で予後を過ごしていた。

 宣戦布告なく行われた襲撃はマハーラ自身予想もしていなかった。

 聖女アイが仕掛けた電撃戦に逃げる間もなく捕まったようだ。


 「かつては直にやりあった、けれどあなたに恨みはないわ」

 「そりゃ結構だね、フェッフェッフェ」

 「エルフとドワーフをこちらに渡して、そうしたらゴブリンは全て撤退させるわ」


 老婆マハーラは気味悪く笑う。

 アイは少しだけ目を細めた。


 「あなたなら、オークは従う、そうでしょう?」


 かつてはオークのシャーマンとして、ゴブリンとの戦いにも魔法で激戦を繰り広げた彼女は、老いてもまだ権力はあるだろうと践んでいる。

 しかしマハーラは首を横に振る。


 「いいや、無理だね」

 「なぜ? あなたほどの英雄なら」

 「白き翼の龍よ」

 「?」


 白き翼の龍、なんの謎掛けであろうか。

 彼女が託宣(ハンドアウト)と称してこのような謎掛けを行うのは知っている。

 文化的にはゴブリンとオークは比較的近いのだから。

 アイは怪訝(けげん)な表情で考察するが。


 「アイ、お前は間違いなく千年に一度の英雄じゃろう……じゃがこちらには那由多(なゆた)に一度の英雄がおる」

 「どういうこと? ベヒーモスなら今は村にいない筈」

 「違うな、ベヒーモスさえ従えるのじゃ」


 まさか……生ける天災が従うというのか?

 ベヒーモスにかかれば、ゴブリンもオークも木っ端でしかない。

 アレが従う姿はまるで想像がつかなかった。


 「おいおい、聖女様、こいつはどうするんで?」


 アイの後ろから眼帯で右目を覆った人族の男がやってきた。

 堂々と戦地にくるとは度胸があるが、男は戦いに加わるつもりはないようだ。


 「で、この婆さんは何者で?」

 「オーク族の英雄シャーマンのマハーラよ、過去に何度か交戦したことがあるわ」

 「へぇ英雄ね、こうも老いちゃザマないな」

 「フェッフェッフェ、アイよ、託宣(ハンドアウト)じゃ、この男はゴブリンを永遠の闇へと誘うであろう」


 マハーラの託宣には、アイも顔色を変えた。

 そして男は苛立つように舌打ちすると、マハーラを蹴り飛ばす。


 「なま言ってんじゃねぇぞクソババア! テメェなんざ価値はねぇんだよ、ああん!」

 「やめなさい、過剰な攻撃は後顧に響くわ」


 アイが止めると、男は追撃を取りやめる。

 もはや老婆となったマハーラには、反撃する体力もない。


 「それで、壁はどうするんで? ハイエルフにハイドワーフは奥に立て籠もっているんでしょう?」

 「そうね、エルフの方は何人か目撃している」


 エルフは定番通り弓の名人らしく、ゴブリンは取り付く島もない。

 かといって、持久戦をすればベヒーモスが戻ってくる可能性もある。


 「そろそろ聖女様のお力見せてくださいよ」


 男はニヤニヤ笑い、壁の突破を要望した。

 アイはやむを得ず魔法を唱える。


 「壁を穿て、《サンダーランス》」


 聖女の魔法は、巨大な雷の槍を生み出した。

 バチバチスパークが周囲を照らす。

 彼女は雷槍を投げると、石の壁とぶつかり大爆発。

 石の壁の一角が突き崩された。




          §




 「ん、まずい壁が突破された」


 レギはストーンウォールが崩されたのを遠くから知覚する。

 やったのは、緑色の肌の女性だ。

 レギより少し大きく、フレイアよりおっぱいが大きい。

 真っ白い祭儀服に、白星を掲げた大きな杖を持った魔法使いだろう。

 だが、魔法使いとしての才はレギやフレイアを上回っている。

 いうなればハイゴブリンといったところか。


 壁が崩れるとゴブリンたちは一斉に新市街へと雪崩れ込んでゆく。

 だが、レギに不安はない。

 白蛇様がいるからだ。


 「全員、街には踏み込まさねぇぞ!」


 白蛇が黄色い雨を空から振りまくと、前線のゴブリンたちは麻痺に苦しむ。


 「おいおい、なんだあの白蛇、聞いたことねぇぞ」

 「フェッフェッフェ、白き翼の龍、我らを遥かな高みへ昇らせるだろう、アイや、お前はどうか?」


 蹲ったまま、またマハーラは奇妙な託宣を語る。

 アイはどうするか、決まっている。


 「私は永遠の光をゴブリン族に齎してみせる!」


 アイは麻痺に苦しむ前線に向かう。

 再び魔法を唱えると。


 「星の神々よ、穢れ浄めたまえ《レスト》」


 麻痺に倒れていたゴブリンたちに、光が降りると、麻痺毒は打ち消される。

 急激に快復するゴブリンに白蛇は大きく驚いた。


 「うえ!?  状態異常快復かよ!」

 「白蛇、私が相手です」


 白蛇はこの少し幼い雰囲気の少女に目を細めた。

 ゴブリンらしく緑肌で小柄だが、出るとこは出ており、成熟した女性であった。


 「私はゴブリン族の指導者にして聖星教の聖女アイ」

 「白蛇のリュウイチだ」

 「リュウイチ? そう……龍」


 アイはマハーラの託宣を思い出す。

 白き翼の龍、すなわちこの白蛇のことだ。

 たしかにその背中にある光の翼といい、純白の蛇肌は神々しい。

 ゴブリンでは彼の降らす麻痺毒の雨に対処は出来ない。

 だが聖女アイなら別だ。


 「……《ステータスオープン》」


 【 名前 】 アイ・カネモト

 【 種族 】 ゴブリン(転生)

 【 レベル 】 56/255

 【 ランク 】 ☆☆☆☆☆☆☆

 【 攻撃力 】 89

 【 防御力 】 155

 【 魔法力 】 458

 【 魔防力 】 391

 【 敏捷力 】 97

 【 スキル 】 鬼神の加護 魔法の才 雷魔法の大知識 カリスマ 状態異常完全耐性 神の祈り


 ……見るんじゃなかった、リュウイチは後悔した。

 うわ、カネモトアイさん、間違いなく日本人転生者じゃないですかヤダー。

 能力値は魔法特化、ベヒーモスほどオールマイティに強い訳ではないが、魔法力458はリュウイチの倍以上である。

 上限も255と、これでもまだまだ発展途上と驚かされる。

 とりあえず軽く上位互換、さーてどーしましょ。


 「初めに言っておくわ、私状態異常は効かないから」

 「知ってる!」


 とりあえず光の翼でアイの周囲を飛び回ってみる。

 アイは魔法を唱えた。


 「《アロースパーク》」


 アイが杖を掲げると、周囲に無数の電撃が降り注ぐ。

 白蛇は直撃をもらってしまう。


 「うぐっ!? ニャロメ!」


 反撃、光の翼から無数のエーテル体がアイに襲いかかる。

 《エナジーショット》、今だ魔法力を使う唯一の攻撃。

 ラミアへと進化して魔法力も上がったんだぞ、と()ち込むが、アイは全くダメージを受けていない。


 (あっ、そういえばこの子魔防力も391だっけー)


 普通にリュウイチの魔法力を上回っています、はい。

 圧倒的な能力差に 魔法戦では駄目だと気付かされた。

 アイはクスリと微笑む。


 「面白(おもしろ)いスキルね、けど威力不足みたい」

 「い、痛いことを……」

 「ねぇ提案一ついい?」


 アイは静かに手を上げた。

 なんだか物静かな少女だ、蛇はゴクリと喉を鳴らして言葉を待った。


 「エルフとドワーフの女の子を引き渡してほしいの、そうすればこの戦いは直ぐに終わるわ」

 「ッ!? フレイアとレギをだと?」

 「【オークではない者】でしょ? それで戦争は終わる、簡単でしょう?」


 リュウイチはアイの言葉がにわかには信じられなかった。

 フレイアとレギを天秤に乗せてきたのだ。

 リュウイチは意地っ張りだが可愛らしいところもあるフレイアと、幼く見えてもしっかりさんのレギを思い浮かべる。


 「……ざけるな」

 「えっ?」

 「ふざけるな!! フレイアとレギはこの街の住民だ! 仲間を引き渡せるかーっ!」


 魂の啖呵を()えると、アイは静かに俯く。

 だが、アイの後ろ、彼女の肩に眼帯の男が手を乗せると。


 「なぁに聖女様、構うことはねぇ、皆殺しにしちまえば、誰も悲しみやしませんぜ」

 「ッ!? テメェ……なんなんだ? 人間、なのか?」


 リュウイチは眼帯の男が化け物に思えた。

 アイやゴブリン兵でさえ、心は人間なんだなと思えたのに、この男は人のカタチをした化け物にしか見えない。


 「ククク、白蛇、お前がエルフとドワーフの女を連れてこい」

 「な、なんだと?」

 「俺様は蛇と問答する趣味はねぇ、おい」


 男は捕虜の(そば)にいた蛮族風の髭面の男に声をかけた。

 男は巨大な曲刀(サーベル)を手に持っていた。

 目の前には手足を縛られたオーク族の女性。

 男はサーベルを振り上げる。


 「やめっ――」

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