第21話 ランクアップ・セカンド
リュウイチの身体が神々しい輝きに包まれた。
オスト一家の母親ククルの絶望顔から、嫌でも目が離せない。
身体が再構築されていく、コボルトたちの前には大きな太陽と小さな太陽が重なり合った。
彼等が目にしたのは――。
【新たな形質を獲得しました】
新たな形質の獲得。
小さな太陽から光が収まると、真っ白な女性が細い手を伸ばす。
なにが起きた、そんなことは今はどうでもいい。
ククルを救えるならなんだっていい、だから。
「間に合えーっ!!」
甲高い声、自分じゃないのに自分の声。
赤い瞳、端正な顔、白い彫刻のような肌、どれも自分じゃない。
だが急速にそれは自分へと馴染んでいく。
リュウイチはククルを掴むと、両手で抱き上げた。
そのまま優しく光の翼でホバリングして着地するとククルを家族の前に下ろす。
「ククルっ!」
「貴方! あ、あのっ、ありがとうございます!」
「ママー! 神様ありがとう!」
ククルはようやく無事とわかると、安堵したように腰が砕けた。
家族たちは愛する母親を皆で抱き締める。
そして目の前にいる神秘的な女性に、皆感謝を示した。
リュウイチは改めて自分の身体を確認した。
白くて細い腕、華奢に見えるが目線の高さから凡そ身長は一六〇センチ程度だろうか。
顔をペタペタ小さな手で触ると、きめ細やかな鱗がビッシリ覆っていた。
「《ステータスオープン》」
【 名前 】 リュウイチ
【 種族 】 ラミア(白蛇の姿)
【 レベル 】 1/30
【 ランク 】 ■◇
【 攻撃力 】 101
【 防御力 】 135
【 魔法力 】 201
【 魔防力 】 173
【 敏捷力 】 145
【 スキル 】 蛇神の加護 猫神の加護 能力鑑定 光の翼 身体変化 邪眼
とりあえず恒例、能力を確認してみる。
新たな形質の獲得によって、リュウイチはラミアへと進化出来た。
太い蛇の下半身、華奢な女性の上半身の正体はこれだ。
そして新しく取得したスキルは《身体変化》と《邪眼》の二つ。
それぞれ詳細情報を確認してみる、先ずは《身体変化》、ベヒーモスも持っているお馴染みスキルだ。
【身体変化:蛇形態とラミア形態を自由に変化できる】
流石にベヒーモスほど自由自在に変化は出来ないが、どうやらいつでも白蛇には戻れるようだ。
そしてこっちは新スキル《邪眼》だ。
【邪眼:視線を合わせた対象を恐怖・魅了・石化の状態異常にする。このスキルは対象が盲目でも意識すれば発動可能である】
うーん、やっぱり物騒なスキルだねー。
石化はやっぱりギリシャ神話に登場するメドゥーサが由来だろうか。
恐怖や魅了というのも、使い方によっては凶悪そうだ。
「うわー、これが俺なんだー」
とりあえず男の性か、リュウイチは自分の胸を揉んでみた。
色っぽさの欠片もない少女ボディに、別の意味でガッカリだ。
とりあえず《身体変化》と念じると、白蛇の姿に戻った。
正し体長が上がっている、白蛇でも今の体長は一三〇センチ程度か。
ほぼ倍の体長になったとはいえ、まだまだ蛇としては小さいが、随分と視線は上がったものだ。
「えーと、ククルさん怪我はない?」
白蛇は優しく微笑んだ。
ククルは胸に手を当て、深く陳謝する。
その後ろの家族たちもだ。
「いいえ、本当に感謝します!」
「神様だ、誠に神様だっ!」
「アハハー、兎に角助けられて良かったよー」
「おーいニャー!」
そこへ森からベヒーモスが飛んでくる。
よっぽど退屈したのだろうか、その顔は辟易している。
「ニャー、こっちにワイバーンが飛んできたかニャー?」
「あっ、ベヒーモスこっちだこっちー!」
リュウイチはベヒーモスを呼ぶと、ベヒーモスは尻尾を振って駆け寄ってくる。
少し離れた場所に心肺停止状態のワイバーンが仰向けで倒れていた。
「兄貴ー、ニャ? なんか大きくなったかニャ?」
「ランクアップしたんだよ、やーっと☆☆☆相当ってところかな?」
スキルは相変わらずランク度外視な感じだが、能力値は☆☆☆から☆☆☆☆相当。
まだまだベヒーモスの強さには届きそうもない。
「ニャニャ、それはおめでとうなのニャ、アレが兄貴の仕留めたワイバーンニャ?」
「いやー偶々ワイバーン倒してランクアップして助かったー」
もし僅かでもワイバーンの経験値が足りていなかったら、無残な血の染みを大地に染め上げただろう。
土壇場でのラミアへの進化、リュウイチは神界の神様に感謝した。
きっと犬神もお喜びであろう。
「あのっ、白蛇様っ! 是非とも我々を貴方の傘下に加えてください!」
家長オストは白蛇の前でそう言う。
傘下に加わる、つまり白蛇に庇護して欲しいともとれる。
「俺は言っちゃなんだけど、ここにいるベヒーモスよりも弱い、俺の傘下って言っても、出来るのはオークたちとコネクションを作れる程度だぜ?」
「構いません! 白蛇様さえ良ければ貢物も用意します、ですから!」
ベヒーモスはワイバーンを咥えて戻ってくると、必死な姿を見せるコボルトたちに言った。
「それがコボルト族の処世術かニャー」
弱小であるコボルト族が生き残る為には、強い者の傘下に入る。
だがコボルトにはもう一つ特徴的な処世術があった。
それは大恩は絶対に報いろ。
コボルトは恩も恨みも忘れない種族だという。
本来は人族を恐れるにも関わらず、恩から人族に仕えるコボルト族もいるというから、よっぽど義理堅い種族なのだ。
ここで恩を返せなければ、それはコボルトではない。
コボルトたちは忠犬じみて白蛇の前に並ぶと。
「我らコボルト族柴犬家、白蛇様に仕えましょう」
「……参ったね、嬉しい誤算かな」
「ニャー兄貴はこれが目的でしょニャ」
「ちょっと語弊あるぞ、移民を募集していただけだ」
ベヒーモスは悪どく笑う。
あくまでリュウイチはコボルト族が一番話しが出来そうな種族だから、確認にきただけだ。
本来ならオークも引き連れ、しっかりと交渉するべきなのだが。
「移民ですか、詳しく聞いてもよろしいでしょうか?」
オストは移民に興味を示してくれた。
オーク村は現在深刻な労働力不足にある。
そこで移民によって人口を増やし、若い労働力を求めていたのだ。
コボルト族は決して力自慢ではないが、知能が高く、技能にも期待出来る。
この柴犬種の他にもコボルト族はいるだろう。
交渉はあくまでここからだ。
「ですならば、是非我々をオークの街へ受け入れてくださいませ」
「勿論大歓迎だけど、オストたちには他のコボルト族にも移民の声掛けをして欲しい」
「なるほど、であれば直ぐに声を掛けていきましょう大金犬家や猪犬家なら直ぐにでも連絡できるでしょう」
どうやらコボルト族はある程度同族とネットワークがあるらしい。
オーク族は比較的村が遠く、交流はほどほどであったが、コボルトは横の繋がりがとても強い。
「あっ、それとイーリス族って友好的?」
「イーリス族は友好的ですよ、音楽を好むとても穏やかな種族ですし」
「ふーん……」
あの雪を被ったトロス山脈にコミュニティを持つイーリス族、やはり興味はある。
だが今は一旦オークの街へと帰るべきだろう。
「ベヒーモス、俺は一度帰るけど、念の為オストたちを警護してくれないか?」
「それはいいけどワイバーンどうするニャ?」
ワイバーンは中々に大物だ、ベヒーモスでなければ持ち帰れないと思っているのだろう。
そこでリュウイチはラミアへと変身、体長を大きくして、ワイバーンを両手で持ち上げた。
「ふんぬー、結構重たいな」
「ニャー、兄貴が姉貴になっちゃったニャー」
ベヒーモスはラミアになったリュウイチにポカンとした。
「お前も同じスキル持っているだろうが」
ベヒーモスの《身体変化》はリュウイチのそれよりも自由自在である。
体長も自由自在で、羽の他に尻尾や爪を金属化させたりなど多彩。
ランクが上がればリュウイチも出来ることは増えるのだろうか。
「よっこいしょっと、それじゃあオスト、またなー」
ワイバーンを背負いあげると、光の翼を広げ白蛇女は飛翔した。
この獲物を見たらオークたちは驚くだろうか。
きっとバルボもワイバーンは仕留めたことはないだろう。
流石にベヒーモスが持ってくるような獲物とは比べられないが、ちゃんと自分が狩った獲物だ。
今からでもどんな調理がされるか、楽しみでしょうがない。
やがて段々と大森林は茜色に染まっていく。
夜はもうすぐそこだ。
ちょっと急ぐか、と加速するとオークの街を見た。
少しずつ開拓し、大きく育っていく街、白蛇はそれが嬉しくてたまらない。
だからこそ街の為に、オーク族の為に報いてあげたい。
だが、そんな彼は街の異常な熱量を感じ取ってしまった。
夜空を煌々と照らす明るい炎の輝き。
オークの街は燃えていた。




