第20話 コボルトの危機
「神様?」「神様ってアレだよね?」「白蛇がなんで神様?」
黒毛のオストの背後にいるコボルトたちは、リュウイチの神様発言に顔を見合わせた。
如何にも怪しい宗教を前にした態度だろうか、まぁ無理もないかなとリュウイチも頷く。
やっぱり白蛇がオーク族の神様っていうのが変なんだろう。
「あのさ、なんなら交易でもいいんだ、オークの街では今米や麦、リンゴなんかも栽培しているし、肉だって取り引き出来るんだぜ」
「米ってなんですか? 麦は人族が育てていると聞いたことがありますが」
どうやらコボルトも農業はしない種族のようだ。
本来オークとて、狩猟採集民族だった、魔物が農業するのは珍しいのだろう。
「君たち、パンを食べたことはあるかい?」
「え、えぇ、イーリス族と交易で何度か」
後ろにいた小さなコボルトの少女がグウゥゥゥと腹を鳴らした。
口に指を突っ込み涎を垂らしている、彼らにとってパンはきっとごちそうだったのだろう。
「オークの街なら、パンも手に入るぜ、美味しいものは一杯あるから遊びに来てね」
最後にリュウイチはにこやかに微笑む。
オストたちは最後までは猜疑心を見せ、不安げに顔を家族たちと合わせる。
だが、一番小さな子供が。
「パパ、あたちパン食べたーい」
「こ、こらモモや」
どうやらモモという女の子らしい。
リュウイチはモモちゃんに優しく話しかけた。
「モモちゃん、何歳かなー?」
「モモー? んーと」
モモは左手を顔の前に持ってくると、指を折って数えた。
ひとつ、ふたつ、みっつと、一本一本指を折っていくと、モモは満面の笑みで答えた。
「三歳っ!」
「三歳かー、犬なら成犬だねー」
コボルト族は犬そっくりでも、成長の仕方は犬とは異なるようだ。
モモはパンを食べたいと、母親にねだった。
大人と違って子供はそこそこ好感触に感じる。
一先ずコボルトとの交渉はここらでいいだろう。
まだ彼等の警戒感を解くところから始めないと、話なんて纏まらない。
「アハハ、それじゃあ俺はもうこの辺りで」
ベヒーモスも今頃待ちくたびれているかもしれない。
今回は単なる挨拶だ、コボルトをオークの街に来てもらうには、もう少し交流が必要だろう。
次は手土産にオークの街で生産するパンを持ってくるのも悪くないだろう。
あるいはレギが量産を進める鉄製品も悪くないかもしれない。
彼らはドワーフ王国との交易で金属加工品に慣れているし、もしかしたら気にいってくれる品もあるかも知れない。
ゆくゆくはコボルト族に移住してもらえたら大万歳だが、一先ずは領事館だけでもいい。
オークとコボルトが手を取り合えれば、双方にメリットはある筈だ。
「それじゃもうバイバ――」
その時だ、空に影がリュウイチの頭上を横切った。
彼の【熱源探知】は横切った魔物を正確に認識する。
「しまっ、ワイバーンか!?」
ベヒーモスが仕留めた空の魔物、一匹だけじゃなかったのか。
コボルトたちは急に現れた外敵に怯え、激しく吠えて威嚇するが。
ワイバーンは足の爪を広げ、コボルトの群れへと飛びかかる。
威嚇も大して効果は無く、あっという間に茶毛のコボルトの女性が捕まってしまう。
「ママーっ!」
「そんな、ククル!?」
「モモ、貴方キャアアア!?」
不味い、咄嗟に白蛇は光の翼を広げ、ワイバーンに飛びかかった。
ワイバーンは凄まじい飛翔性能で上昇する。
なんとか彼女を助けないと。
(どうする? 麻痺毒で仕留められると思うが、でも万が一彼女を落としたら!)
ワイバーンはあっという間に100メートル上空まで飛び上がってしまう。
リュウイチなら余裕で追いつける、だが万が一ククルが落ちてみろ、ククルの命はない。
だがボヤボヤしていても、ワイバーンはククルを殺すだろう。
ククルはワイバーンにとって餌、どうする……どうすればいい!?
「キシャー!!」
ワイバーンは風の魔法をリュウイチに向かって放つ。
リュウイチは目にも留まらぬ速度でワイバーンの背後へ回るが、手が出せない。
恨めしい、白蛇の小さな身体、そして低い膂力。
いかにコボルト族が弱小とはいえ、目の前で奪われたのは純粋な失態だ。
「クソッ! 兎に角動きを止めなくちゃ!」
ワイバーンに向けて慎重に、毒液を吐く。
ククルに影響が無いように、微弱な毒だが、ワイバーンは羽ばたく風圧で毒液を吹き飛ばした。
クソッタレ、白蛇は苦々しい顔で焦燥を募らせた。
そうやっている間にもオストは絶望に膝を落とし、ククルは恐怖に振り回され続けている。
ワイバーンがククルを落としたらお終いだ、どうする、どうすればいい!?
「ああああもう! こんにゃろー!!」
リュウイチはままよと背後からワイバーンの羽の付け根に噛み付く。
今度は神速のような接近だ、ワイバーンの反応では間に合わない。
ワイバーンはもがく、毒が急激にワイバーンを冒した。
ワイバーンはククルを落とすと、泡を吐いて絶命した。
「キャアアアアア!?」
「アンアンアン!! ククルーッ!」
コボルトたちの母に対する強い想い、オストは悲痛な声で叫ぶ。
墜落死は免れない、もうリュウイチにはどうすることも出来ない。
だが、その時。
【レベル上限に到達しました】
【新たな姿へとランクアップします】
彼の前に示された新たな可能性。
【水中能力強化】【膂力強化】【特異能力獲得】【新規形質の獲得】
再び表示される四択、今度は迷っている暇なんてこれっぽっちもない!
「考えるより動けえええーっ!」
彼は何も考えず決断した。
【新たな姿へとランクアップを実行します】




