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第18話 コボルトについて

 フレイアとレギの二人を村民に迎えて早二週間が過ぎていた。

 村はすっかり様変わりし、旧村落では米に麦の収穫をオークたちが行っている。

 収穫された穀物類は 同様に建築された頑丈な丸太小屋の作業場へと送られる。

 ここでは、稲の天日干しと、脱穀作業が同時に行われていた。

 管理人のフレイアにも、美味しいお米を食べるには水分量を適度に減らす。

 より具体的には14.5%の水分含有量まで減らすというノウハウが欠けていた。

 そこから天日干しに気付くには、彼女の膨大で気の長い試行錯誤があったであろう。

 お陰で今では新市街の食料保管庫には膨大な白米が保存されるに到った。


 更に果樹園では赤いリンゴがたわわに実っていた。

 甘くて少し酸っぱいリンゴは、フレイアにとって懐かしい味に近づけたものだ。

 品種が異なるが、白蛇はやオークたちの感想も聞き、今ではオークリンゴとして、村中で好評を得ている。


 一方で新市街はというと、次々と建設ラッシュも進み住民の移住も進んでいるようだ。

 白蛇の住む社も市庁舎として改修され、オークたちが会議の場に使っていた。


 「リュウ様、新市街の建設も順調ですな」

 「食料事情もかつてない程改善があります、保存庫が足りないくらいですぞ」

 「もうこれからは狩りよりも農業なのかものぅ」


 丸机の前に座るオーク族の有力者たち。

 テーブルの上に座りながら白蛇リュウイチは「うんうん」と頷いていた。


 「なにか問題は起きてない?」


 白蛇が朗らかな顔で聞くと、オークたちは「ううむ」と唸る。

 やはりなんらか問題は抱えているようだ、ある一人が手を挙げると、正直に話した。


 「リュウ様、やはり労働力が足りていないようです。オーク族だけではいかんともしがたく」


 長期的に見ればオーク村は子供たちの数も多く、これからも人口は増加していくだろう。

 だが現実的に今、出来ることに対して人手が足りない。


 「森の開発は順調ですが、材木が余っていますな、いかが致しましょう?」

 「うーん、外貨獲得……という訳にもいかないもんなぁ」

 「鉱山もですぞ、鉄の供給量の少なさは問題かと」

 「婦人会の衣服の作成も滞りがちで、やはりどこも手が足りませぬ」


 リソースの管理は内政において重要だ。

 イケイケドンドンと上昇しっぱなしのオーク村だが、現実は文明改革のスピードに追いつけていない。


 「やっぱりオークたちの技能(スキル)習得を奨励していかないとねー」


 才と違い、技能は後天的に習得出来る。

 才を持つ人と比べると、いくらか劣るとはいえ、今は総人口で対応していくしかない。


 「一つ質問なんだけど、移民の誘致ってどうかな?」

 「移民? 森林南部にゴブリンなどが住んでいますが」

 「ゴブリンって?」

 「我々オークと何度も縄張り争いする宿敵ですな」


 オークとゴブリン、長い時の中で、大森林を舞台に何度も戦争した相手だという。

 一匹一匹は弱いが、数が非常に多く知能のあるゴブリンと、フィジカルで立ち向かうオークは一進一退だという。

 最近は一進一退で、ゴブリンとは五分五分だそうだ。

 以前ベヒーモスが周囲を荒らした結果、国境地帯が空白地になっているらしいが。


 「(ほか)には?」

 「東部にオーガ族がおります、奴らは非常に好戦的で他の種族とは干渉しませんが」

 「ふむふむ」

 「北部のコボルトはどうですかな、彼らは比較的温和で、群れ単位で住んでいますぞ」


 ゴブリン、オーガ、コボルト。

 少年時代ゲームかなにかで聞き馴染んだ名前たちを聞き、白蛇は考える。

 それらの種族が手を取り合えれば、きっと今までにない凄まじい力を発揮するだろう。

 だが簡単じゃない、オークと敵対するゴブリン、不干渉のオーガ、まだマシそうなコボルト。

 夢の風呂敷は徐々に現実になり、当然リュウイチが思い浮かべる次の夢は、国家建設である。


 (言ってみれば、今は古代ギリシャ文明、ポリスが連立する市単位の世界か)


 今やオークの村はすっかりオークの街へと変わってきた。

 周囲に住む他の村のオークたちも次々集まりつつあるが、それでも前途多難である。


 「わかった、とりあえず会議終了ー」


 白蛇はそう言うとニョロニョロ這って、市庁舎を出ていく。

 会議に疲れたオークたちも、それぞれの仕事に戻っていった。

 政治に参加して分かったのは、政治って大変だなーということ。

 太陽の光を浴びると、ピンッと身体を伸ばす。

 変温動物だから体温を温める必要がある。


 「ニャー、兄貴ー、会議は終わったニャー?」

 「おー、ベヒーモス」


 ベヒーモスは広場で香箱座りしていた。

 日向ぼっこでもしていたのか、大型バス並にデカくても猫は猫のようだ。


 「兄貴、一緒に狩りに行こうニャー」

 「狩りか、最近忙しくて全然レベルも上げてないもんなー」


 リュウイチの現在のレベルは24/25。

 上限まであと1、急激に成長する都市に振り回されていたのはリュウイチも同様であった。

 強くなるという大目標も、ついつい後回しになってしまったのだ。


 「いいぜ、一狩りいくか!」

 「それでこそニャー!」


 二匹は翼を広げると空高く飛び上がる。


 「ベヒーモス、ちょっと北を目指していいか?」

 「ニャ? 大物なら中央部の方がいっぱいニャよ」


 ベヒーモス基準だと、大物となるとあのアビスパイソン以上だろうな。

 間違ってもベヒーモス基準の魔物と戦うなど、今のリュウイチには不可能でしかない。

 あくまでも臆病者(チキン)のリュウイチは、出来るなら、格下を行為率良く狩りながらレベル上げしたいのだ。

 因みにどうも大森林中央より離れるほど魔物は弱体化しているっぽい。

 その原因はかつてベヒーモスが語った封印洞窟の影響らしい。

 今も封印され続ける暗黒竜の出す瘴気が地下から周囲に漏れ出し、その影響で魔物が強化されると考えられる。

 間違ってもそんな危険地帯にリュウイチが踏み込む筈がないが。


 「因みになんで北ニャー?」

 「コボルトを見てみたいんだ」

 「コボルト? あの犬ヅラかニャー?」


 犬ヅラ、その言葉通り【コボルト】とは犬の頭をした二足歩行の魔物である。

 体長は平均して100センチほど、個体差はかなり激しい種族である。

 小さい個体ならば大人でも60センチほど、逆に最大個体は250センチと、ホモサピエンスのギネス記録すら上回る。

 小さければチワワ、大きければグレートデーンと言ったところか。


 「あっ」


 不意にベヒーモスが顔を上げた。

 釣られてリュウイチも頭を持ち上げると。


 「キシャー!」


 突然コウモリのような羽を持つ飛竜が急降下してきた。

 緑色の鱗がビッシリ生え、二股に割れた舌を出して敵意をむき出しにしている。


 「えっ? なにあれ?」

 「ワイバーンニャ! こいつは珍しい!」


 ワイバーン、翼竜などと訳されたりもする、空飛ぶトカゲ。

 トカゲ……?


 「あの蛇神様っ、ワイバーンって蛇ですか!?」

 『トカゲはトカゲ、だから遠慮なくぶっ殺して良いよ』


 蛇神様の解答は実に淡白であった。

 すでにベヒーモスとワイバーンは交戦に入っている。

 しかしワイバーンは翼長4メートル、一方ベヒーモスは体長10メートル、肉弾戦は圧倒的にベヒーモス有利だ。

 しかしワイバーンは速度を活かして、風の魔法をベヒーモスに放った。


 「ニャニャ! 猪口才ニャ!」


 ベヒーモスは魔力を高めると、全方位に放電した。

 《雷属性の魔法(ライトニングフレア)》はワイバーンを感電死させる。

 若干リュウイチまで巻き込んで。


 「危なっ! こらベヒーモス!」

 「ニャニャ!? やっちまったニャ!」


 ワイバーンはプスプス煙りを放ちながら、森へと墜落していった。

 ベヒーモスは獲物を取り逃し舌打ちする。


 「チッ、逃したニャ」

 「しっかしまさか頭上をとられるなんてなぁー、あんな魔物もいるのか」

 「ワイバーンはとても飛行性能が高いニャー、とはいえ絶対数はそんなに多くニャイわ」


 リュウイチ自身初めて遭遇した魔物だ。

 光の翼有するリュウイチは兎も角、ベヒーモスとて高い飛行性能があるにも関わらず、ベヒーモスの飛行性能を上回る魔物がいたとは驚きである。


 「一芸に限れば、ベヒーモスを上回る魔物もいるんだなー」

 「ニャー、どっちかっていうと、アタシは地上の方が得意ニャし」


 あくまで飛ぶのはベヒーモスにとって副次要素なのだろう。

 その点はリュウイチも変わらないが。


 「ニャー、やっぱり中央部行かないかニャー?」

 「ダーメ、主に俺が保たない」


 雑魚魔物の一匹でしかないような白蛇に、ベヒーモス級の強敵など無理ゲーである。


 「いいかいベヒーモス、最弱の魔物をコツコツひたすら倒す方が結果的にレベルカンストの近道だったりするんだよ?」

 「ニャア、強敵を倒していくほうが早いニャ」


 どっちが良いか、論じるも平行線であろう。

 リュウイチはラクして倒せる雑魚をコツコツ派。

 一方ベヒーモスは大量の経験値を獲得出来るが、一戦に全力を注ぐ派か。

 リュウイチには雑魚を百匹倒す方がラクなのになーと、ここだけは受け入れられない。


 「あっ、あれ……コボルトニャ」


 やがて、植生が少しだけ変わってきたことに気づく。

 疎らに木の生えた広大な草原に、コボルトの群れがいた。

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