第17話 レギは感謝したい
フレイアが稲の品種改良に試行錯誤している時、レギもまた鉄鉱石の鉱脈がある山の麓へと辿り着いていた。
「ん、ここ」
「ここって、禿山だよな?」
森の中にはこういう山が複数点在する。
大森林と一言に言っても、それは非常に広範囲で、このような未開発の鉱山は各地にあるという。
白蛇には鉱山開発など見たこともない。
昔修学旅行で足尾銅山を見学した程度か。
レギの後ろにはきっと力仕事が必要だろうと、十人ばかり屈強なオーク男性たちが待機している。
「それで、どうやって掘るんだ?」
「ん、任せて」
レギは剥げた岩肌にそっと触れると、目を閉じた。
そして次の瞬間、岩山の一部が粉々に砕け散った。
ガラガラと激しい轟音と砂煙が上がると、白蛇は激しく動揺した。
「ピィヤ!? な、なになに、なにが起きたのレギさんや!」
「地脈に魔力を注いで、道を作った、皆土砂を退けるの手伝って」
レギは土の魔法を操ると、ベルトコンベアーのように粉々になった土砂を洞窟から運び出していく。
オークたちは呆然と固まっていたが、すぐに手伝い出した。
「レギ、この中に鉄があるのか?」
「違う、鉄鉱石は洞窟にある、それをこれから採掘する」
彼女はそう言うと坑道に入っていった。
白蛇は着いていくが、レギはピッケルすら持っていないが。
「ん、白蛇様がいると、明るいね」
「あー、翼光るからなー」
「ドワーフは地底に住むから、暗闇でもなにがあるか分かる」
「へぇー俺の【熱源探知】みたいだなー」
リュウイチも熱量を感じるピット器官によって、周囲を目に頼らず認識可能である。
坑道の中は冷たく、ちょっと身震いしそうだ。
「んー、鉱人の神よ、レギが奉る、大地の恵み我らへと与え給え」
レギはまるで祈祷師のように両手を合わせると、跪く。
すると、坑道内が振動し、壁面から鉄鉱石がレギの前に次々と転げ落ちていく。
「すごいなレギ」
「凄いのは鉱人の神さま、レギはお力をお借りしただけ」
おそらくレギの持つ【鉱人神の加護】のスキルだろう。
鉱人の神様というだけに、鉱山では無双であろうな。
レギは鉄鉱石を魔法で外へと次々と運んでいく。
「ん、量が多い、どんどん村に運んで」
「おーいお前らー! 鉄鉱石を村へと運んでいけー!」
白蛇の号令があれば、オークたちは奮起した。
麻袋に鉄鉱石を詰め込むと、逞しいオークたちはそれを肩に担いで運んでいった。
「うーん、村から結構遠いんだよなー」
「なにか考えがあるの蛇神様?」
「製鉄所って、普通鉱山の近くだよな?」
「ん、その通り、けれどここに作るの?」
「いや、ゆくゆくはだな」
一日に運び込める鉄鉱石はそう大した量ではない。
少なくとも大きな物を作るならば、労働力が足りないというところか。
しかしレギは大して気にしない。
もともとのんびり屋なのも性格的にあるだろう。
「白蛇様は、オークから信仰されている」
「ちょっと恥ずかしいんだよな」
「ん、誇っていい、それだけ信頼されている」
それはレギも。
レギは村へと帰ると新市街に作ってもらった工房へとやってきた。
作業に耐えられる強度の炉はレギ自身が製作した。
レギ謹製の溶鉱炉は鉄鉱石を充分溶かせる熱量に耐えられる耐熱温度である。
本来なら大量の燃料が必要になるが、レギは魔法を唱え、炉に炎を焚べる。
早速鉄の精錬作業に入った。
工房内の気温は急激に上がる。
それを後ろで見ていた白蛇は舌を出しながら、へばってしまう。
「うへぇ、なんて暑さだ」
「こんなの全然だよ?」
ハイドワーフのレギは汗一つかいていない。
これが種族の差かと痛感しつつ、リュウイチはレギの作業を観察し続ける。
彼女は火の魔法をひたすら鉄鉱石に浴びせつづけ、やがて光り輝くほど熱せられる。
「白蛇様、目を閉じた方がいい」
「へ?」
「すっごく眩しいから」
レギはドロドロに溶けた鉄を耐熱レンガで出来た桶の中に流し込む。
その時凄まじい光が工房内を覆った。
瞼のない白蛇は凄まじい光爆に悶え苦しんだ。
「ギャー!? 痛いくらい眩しいーっ!?」
「だから言ったのに」
「蛇には瞼は無いんだよー!」
瞼の代わりに透明な鱗であるブリルに覆われて保護しているが、それゆえ光には敏感である。
たまらずリュウイチは工房から飛び出した。
レギはぼんやり逃げていく白蛇を眺めながら、鉄鉱石から不純物を取り除いていく。
やがて白く輝く鉄の塊が山積みされていくと、彼女は一品作るのだった。
「ん、これ」
「あらレグちゃん、これはナイフ?」
レグは《加工スキル》により、包丁を製作した。
鉄にドワーフ秘伝の炭素を配合して完成させた包丁は硬くて切れ味もいい。
まだまだレグからすると、渾身の快作とは言えないものの、まず最初に美味しいご飯を作ってくれたオーク婦人に手渡したかったのだ。
「包丁、切れ味抜群」
オーク村にはこれまで、黒曜石のナイフしかなく調理場に並ぶのも形がバラバラの黒曜石のナイフだけだった。
オーク婦人は包丁の柄を持つと、軽く振って使い心地を確かめる。
「思ったよりも軽いのね」
「切ってみて」
今日の食材は周囲に生息する大きな牛の魔物【マッドブル】であった。
包丁をマッドブルに差し込むと、驚くべき切れ味で包丁の刃が入っていく。
「あらまぁ、凄い切れ味ね! これをくれるの?」
「ん、欲しいものがあったら教えてほしい」
「あらウフフ、ありがとうねレギちゃん」
「本当に良い子ねぇーレギはちゃんったら」
「ん、えへへ」
レギは満面の笑みを返した。
彼女には天賦の才といえる《加工の才》がある、これはドワーフ千年の歴史の中でも上位三傑の才だ。
まだまだレギ自身は未熟と己を恥じるが、彼女の潜在値はまだ遥か高みを示している。




