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16話 フレイアの農業革命

 「この稲は川沿いに自生していたのね、ということは水没しても構わないってことか」


 フレイアは稲作に対してある条件をつけた。

 稲作は川に近い場所が良いと。

 白蛇はすぐにオーケーを出すとオークたちに指示する。

 オークたちが木の(クワ)を手に、近くの川から村に用水路を伸ばす工事はすぐに行われた。

 幸い水源確保のため、川は近くにあり用水路の工事は即日終わった。

 用水路は木の板で囲み、容易に氾濫しないよう水の流れを安定させる。

 旧村落に用意された畑にまで用水路が延長されると、フレイアは畑に種を撒き、祝詞(のりと)を紡いだのだ。


 「《豊穣なる神(ハーベスト)、《貴方の恵み(ディアメル)》、《大地にお授けください(ファルナ)》」


 真に意味ある呪文、古代魔法の知識を有するフレイアは畑に祝福を振りまくと、種は急速に新緑の芽を伸ばし出した。


 「うおっ、まるでアニメみてー!」

 「アニメ? なんだかよく理解らないけれど、お楽しみはここからよっ!」


 次にフレイアが行ったのは、骨粉を水と油脂で混ぜ固めたチョークで地面にある【魔法陣】を描いていった。


 「それはなに?」

 「古代ルーン魔法、ルーン魔法は陣で描くのよ、陣を描き終えたらー」


 フレイアの持つ古代魔法の知識とは、今や失伝した数々の摩訶不思議な魔法であった。


 「陣にはね、意味があるの、成長促進の意味、栄養増大の意味、外敵阻害の意味」


 意味を加えれば加えるほど、魔法陣は複雑になってゆく。

 フレイアならば、五つ程度なら書き加える(エンチャント)が可能である。

 本来は世界樹を育てるために使うルーン魔法、それをただお米食べたいという理由で使うのは、この世界の住民からすれば実に贅沢な使い方であろう。

 だがこのハイエルフは、気にした様子もない。

 魔法陣を書き終わると、彼女はパンッと両手を(たた)いて、魔法陣に魔力を注ぐ。

 魔法陣は暗紫に輝くと、回転しだした。


 「お、お?」


 回転は徐々に加速していく、やがて目にも止まらないほど加速すると、溶けるように消えてしまった。


 「はい、終わり」

 「え? まじ?」

 「見ていなさい」


 フフン、フレイアは鼻を鳴らした。

 白蛇は畑を見ると若芽だった稲は急激に成長しだした。

 水に浸った田園にはあっという間に一メートル近い稲穂が実っていく。


 「(うっそ)だろ!? もう成長したのか!?」

 「これが植物の知識と古代魔法の掛け算、名付けて《豊穣の祝福(ハーヴェスト)》よ!」


 ハイエルフだからこそ為せる奇跡、白蛇は感動のあまり、光の翼で拍手した。

 まさか即日米が出来るなど想像もしなかった……だが。


 「それじゃあ早速収穫――」

 「駄目よ、これじゃ駄目」

 「はい……? なにが駄目なんだ?」

 「この個体は収穫量も少ないし、一粒が小麦と比べても劣るわ」

 「品種の問題ってこと?」


 フレイアは稲穂に触れると、はっきり頷く。

 彼女は植物の知識から、食べずして出来上がった稲の品質が明確に理解出来た。

 これではフレイアが満足できるレベルではない。

 そもそも野生個体の種籾から出発なのだから、フレイアも期待はしてはいなかったが。


 「じゃあ……どうするんだ?」

 「簡単よ、これを何世代も繰り返して、良い形質を持つ個体を見つけて、掛け合わせるの」


 リュウイチは植物のことはさっぱりだが、授業でメンデルの法則を覚えていた。

 つまりメンデルの法則で、フレイアは品種改良を行うと言っているのだ。


 「任せなさいって、一週間以内に美味しい米を完成させてやるからっ!」


 収穫は一日一回しか出来ない。

 これは彼女の《豊穣の祝福(ハーヴェスト)》のスキルを持ってしても限界である。

 フレイアの理想では、一週間で一度収穫出来る状態が理想的だ。

 魔法的にも植物的にも、過剰な土地への負担はいずれ破滅を迎える。

 今はまだ、良い形質を持つ個体の選別段階である。

 物の序で、フレイアはリュウイチにある提案をする。


 「とりあえず米だけってのも手持ちぶたさだし、複数同時に品種改良していくわ」

 「複数って他に何を育てたいんだ?」

 「理想は麦だけど、あとはそうね……リンゴとかいいんじゃない?」


 果樹園か、それはそれで夢があるなと、白蛇も納得する。

 実家から毎年山のように送られてきたミカン、人間の時は食い飽きるほどだったが、今になれば恋しいものだ。


 「というわけで、持ってきてよ」

 「へ?」

 「へ? じゃないわよ、私は農地管理で忙しいし、無いものはアンタが用意しなさいよ、神様なんでしょ?」


 ぐぬぬぅ、白蛇は途端に不満顔で舌をチロチロした。

 当然だが、オーク村に今まで農業するって感覚はなかった。

 狩猟採集文明には、農業の凄まじさを実感させて理解らせるしかない。

 フレイアはあえて、前かがみになって、猫なで声で白蛇におねだりした。


 「リンゴと麦、出して♥」

 「わ、わかんないっピ」


 こうして白蛇は泣く()く大森林を探し回る事に。

 幸い《能力鑑定(ステータスオープン)》のスキルで植物もある程度判定できるので、ひたすら気長なだけだった。

 なお、リンゴはその日に、麦は三日かけて群生地を発見、フレイアはご満悦であった。




 ……そして一週間後。

 フレイアは約一反程度の畑を四つに遮り、様々な形質を獲得した稲穂を掛け合わせていった。

 そして遂に、フレイアの手元には穂を垂れるほど大きくなった稲穂が触れていた。


 「これよ、これこそ私の求めていた品質!」

 「やったなフレイア」

 

 日本で流通しているジャポニカ米にも劣らない品質に、フレイアはグッと力拳を握った。

 白蛇はフレイアの努力を賞賛する。

 畑には白蛇と刈り入れを手伝うために集まったオークたちがいた。

 フレイアはクスリと微笑む、出来て当然のことなのに、白蛇たちが寄せた期待はすごいものだ。


 「これが農業かー」

 「よぐわかんねーけど、安全に食料手に入るなら大万歳だな」

 「おーし! みんなーっ、収穫だーっ!」


 白蛇の号令にオークたちは手に持った【鉄の鎌】で刈り入れていく。

 フレイアも手伝いながら、白蛇は楽しそうに笑った。


 「よーし、これで銀シャリが食べられるー!」

 「ところで銀シャリってなんなの?」

 「水で炊いた米だよ、知らないのか?」

 「知らないわね、平地の人族は小麦や大麦を育てているけど」


 エルフは大地の実りがあれば充分なので、農業は小規模である。

 フレイアの故郷ではリンゴの栽培をしていた程度だ。


 「おーし、折角だからこの米に名前をつけようぜ」

 「名前?」

 「名付けてフレイア米だ!」


 フレイアは自分の名前を付けられて顔を真っ赤にした。

 生産者は私ですって、お米の品種名に付けられるのは恥ずかし過ぎる。


 「め、命名権は私にあるはずよ! これはオーク村のお米だからオーク米よ!」

 「まー別にどっちでもいいけどなー」


 日本でもあきたこまちだのひとめぼれだの色々品種があるが、ここに新品種オーク米が誕生した。


 「で、どうやって籾殻を取り除くの?」

 「えっ?」

 「えっ? じゃないでしょ、私植物の知識はあっても、加工の知識はないから」


 精米技術といって、そんな知識を持つ者はオーク村にはいなかった。

 白蛇が待望した銀シャリ、悲しいかな、彼が手に入れたものは籾殻混じりの玄米であった。


 「俺は銀シャリを諦めないぞーっ!」


 とりあえずお米を炊いたものは、早速村民全員に振る舞われた。

 オークたちには中々好評、玄米には栄養もあるし、と無理矢理白蛇は涙ながら納得したという。

 なお、後日レギが脱穀機を制作してくれました。

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