第15話 少女たちは亡命したい
フレイアとレビが朝食を終える頃、白蛇リュウイチは彼女らに問いかけた。
「改めて君たちに聞きたい、どうして危険な大森林にやってきたんだい?」
奴隷である二人の事情、フレイアは気不味く俯くが、レギがさっぱりと返答する。
「ん、奴隷商が酷い奴だから、フレイアと逃げてきた」
「奴隷か……」
白蛇は目を細める。
改めて聞いても、やっぱりいい気はしない。
白蛇になって、オークやベヒーモスなど、様々な事情や生き方と触れて、当然人間も気になるのは必然だったろう。
白蛇は更に質問する。
「人間ってのはなんだ? 君たちを奴隷にするようなヤバい奴らなのか?」
「全てがそうじゃないわ……でも中には私達を家畜扱いする者もいるわ」
恐怖だろうか、フレイアは自分を抱きしめて、震えてしまう。
レギは優しく励ますようにフレイアの細腕に触れた。
「フレイア、大丈夫?」
「レギ……うん、心配ばっかりかけて、ごめんなさいね」
「ん、一蓮托生」
二人は種族の垣根を越えて、まるで姉妹のようだ。
それを見れば白蛇もほんわか笑顔になった。
「ちっこいのに良くできたしっかり者の姉と、大きいのにおっちょこちょいの妹って感じだなー」
「は、ハァッ!? なんで私が妹なのよ!?」
「レギはドワーフだから、小さいのは種族特徴なのに……」
フレイアは妹扱いにはヒステリックに憤慨した。
レギはレギで小さいと言われてとてもショックを受けている。
なおレギの身長は一ニ〇センチそこそこ、平均的なドワーフの身長は一四〇センチなので、やっぱりチビに違いないが。
更にレビの心を敢えて抉るならば、ハイドワーフは女性でも平均身長一六〇センチあるため、殊更に小柄な事はここに留めておく。
「それじゃあ、二人はこれからどうする?」
どうするか、フレイアとレギは互いに顔を合わせた。
フレイアは表情を固くして、ギュッと拳を握り締める。
不倶戴天、なのだろう。
「レギは亡命を希望する」
「レギ? オークの村に亡命するって……」
レギはこの村を気に入っていた。
優しいオークたち、それを見守る白蛇と守護聖獣ベヒーモス。
ここは地脈を見ても、良い地層にある。
「そうか、それじゃレギはオークの村の新しい住民だなっ」
「あらあら、レギちゃんが新しい村民に? それならお祭りね!」
「あらまぁ! それじゃあ張り切らないと!」
ある程度仕事も捌けたオーク婦人たちは、レギを歓迎ムードだ。
宴が大好きなオークの性か、お祭りをやりたいらしい。
「だったらごちそうとって来なくちゃなー」
「リュウ様が取ってきてくれるの?」
「まぁ出来るならだけどねー」
マーダーグリズリー程度ならラクラク始末出来るものの、問題は蛇の身体だ。
オークと違って膂力が無く、とても大物なんて運べない。
仕留めてからバルボやベヒーモスに運んでも貰うという手はあるが、結局自分だけでは何も出来ないことが実に歯痒い。
「……貴方が働くの?」
だが、フレイアはここで守護神として崇拝と敬愛を向けられる白蛇に疑問をぶつけた。
神ならば、どっしり社で構えていればいいだろうに、この白蛇は働きものなのか。
「んー、働くって言っても、大した貢献は出来ないけどなー」
「なにを仰るの、リュウ様のおかげで村は救われたし、建物だって立派になったじゃない」
今や旧村落に比べ新市街は数倍の土地を有している。
ゆくゆくは旧村落は畑にして、農耕を始めたいと野望があるのだが、現実はどうして厳しい。
「……働かざる者食うべからずね、私もオークの村に亡命、したいわ」
未だオークに潜在的恐怖のあるフレイアだが、ここから行く宛はない。
エルフ族は森に慣れているとはいえ、この危険な大森林にはエルフ族の村もない。
正直言って、フレイア自身も大森林を一人で生きるのは不可能と判断している。
三日以内に魔物の餌が妥当な結末だろう。
それならば覚悟を決めるしかない。
「私はフレイア、植物の知識と魔法の知識なら任せて!」
「ん、レギは金属と加工、火と地の魔法なら賢者にさえ劣らないと自負する」
二人の少女は自身の得意を教える。
白蛇は一応彼女らに意識を向け、《能力鑑定》を唱えた。
二人の能力が光の映像となって現れる。
【 名前 】 フレイア・ブリュンヒルド
【 種族 】 ハイエルフ
【 レベル 】 35/999
【 職業 】 奴隷
【 攻撃力 】 32
【 防御力 】 79
【 魔法力 】 295
【 魔防力 】 279
【 敏捷力 】 187
【 スキル 】 森人神の加護 魔法の才 古代魔法の知識 植物の大知識 弓術の才 踊りの才
【 名前 】 レギ・レビ・レグ
【 種族 】 ハイドワーフ
【 レベル 】 45/999
【 職業 】 奴隷
【 攻撃力 】 120
【 防御力 】 100
【 魔法力 】 175
【 魔防力 】 261
【 敏捷力 】 82
【 スキル 】 鉱人神の加護 鍛造の才 加工の才 魔法の才 火と魔法の知識 鉱脈探知 料理の才
「ぶふっ!?」
いきなり吹いてしまう。
まず目がついたのが、レベルなのだが上限が999って……。
今はレベルも低いが潜在能力はベヒーモス以上ということか。
更にさらっと種族、ハイエルフとハイドワーフとか聞き慣れない言葉が出てきたな。
「あのー、君たちハイエルフにハイドワーフってなに?」
種族について全く無知の白蛇、フレイアは自分の胸に手を当てると、ハイエルフについて説明した。
「ハイエルフは、森人の中で、極稀に誕生する特異個体なの、歴史上英雄となったエルフの多くはハイエルフなのよ」
「ん、ハイドワーフも同じ、レギはこれでも地底王国ではお姫様だったのだ」
えっへん、レギはツルペタの胸を反って自慢した。
さらっととんでも情報だらけに、白蛇は頭がこんがらがった。
逆に言うと、この二人かなり運が悪かったのだろうな。
能力値には運の良さは含まれていないが、きっと二人共滅茶苦茶低いのだろう。
これほど恵まれたハイスペ種族が奴隷にされるなら、周囲を劣等種扱いでもしていたのだろうか?
「ん、白蛇様、レギになにか任せてみない?」
「レギにか……あ、そうだ! レギ、鉄が欲しいんだ!」
「鉄……んー、あった、レギのスキル《鉱脈探知》が反応を示している」
「マジか! ドワーフってスッゲー!」
レギは両手を頭に当てると、反応のあった方角に顔を向けた。
「ここから三キロくらい離れた場所に、かなり大きな鉱脈があるみたい」
「そうなのか?」
「ん、多分誰も開拓してこなかったから、何万年も放置されていたのかも」
「ちなみに鉄以外も探知出来るのか?」
レギは手を頭に当てながら、ゆっくりと旋回、ふたたび白蛇に向き直ると。
「少なくとも、鉄、銅、金、銀、プラチナ、コバルト、その他少量の鉱脈がある」
「うおおおお、夢が広がるー!」
白蛇はその答えに大興奮、光の翼をはためかせ、喜びを露わした。
「ちょ、ちょっとレギばっかり、私も頼りなさいよ!」
フレイアはレギがえっへんと鼻を伸ばすのが、気に入らないのか白蛇に仕事を求めた。
これでもハイエルフとして高い才があるという自負はある。
特に植物の知識ならば、森の精霊ドリアードにも劣らないと自負している。
「んーフレイアにかー、おっ、ちょっとついてきて!」
白蛇は突然なにか思いついてニョロニョロと旧村落の方へと向かった。
フレイアとレギは白蛇に着いていくと、とある藁小屋に入る。
白蛇は藁小屋に安置していたイネ科の穂を咥えると、それをフレイアに渡した。
「米を栽培したいんだよー、力を貸してくれないか?」
「え? そ、そんなことでいいの?」
「そんなことだと!? お米は貴重なんだぞー!」
白蛇のお米に対する渇望は並々ならないものがある。
情熱、いや執念と言ってもいい、白蛇の欲望は銀シャリが食べたいのだ。
「……イネ科ね、これは新種ね、ふむ数世代あれば、充分な収穫量も見込めそう」
「農作、いけるか!?」
「ふふっ、私はハイエルフよ、私に任せて!」
白蛇は全身で喜びを表した。
ずっと夢に描いていた、縄文時代から弥生時代へのブレイクスルー。
その為に必要な農耕と金属加工、それが目の前にまでやってきたのだ。
二人の少女はまさに福音であった。
オーク村に文化革命を起こす、その試金石を手に入れた。
白蛇の野望はもう目の前、彼はメラメラとやる気を滾らせるのだった。




