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第14話 困惑と安心

 物置の奥で怯え竦むフレイア、白蛇の圧力のようなものが、僅かにプレッシャーのように圧迫してくる。

 フレイアは震える翆色の瞳で白蛇から目を離せなかった。

 理由は定かじゃない、だが白蛇から巨大ななにかの影をハイエルフの超感覚で(つか)んだのだ。

 白蛇は全く相手を脅すようなつもりもない、ただ諭すように。


 「ここはオークの村だ、オークには敬意を払え」

 「け、敬意ですって?」

 「オークが一度だって、フレイアに危害を加えたか? オークたちは皆心配しているんだぞ? 自分が偉いと思っているなら、とんだ思い上がりだ! 皆生きている限り、平等なんだぜ?」


 その言葉は神である蛇神の眷属の最大の譲歩でもある。

 オークたちは皆感動し、感涙の涙で頷いた。


 「リュウ様ったら、平等だなんて、なんてお優しいの」

 「あの、とりあえず誰か着るものを持ってきてくれませんか?」

 「はいはーい、リュウ様のご命令であれば、ふんふんふーん!」

 「あらあの子ったらズルいわ!」

 「リュウ様、お腹空いてません? 私が用意しますわ?」


 リュウイチはオークにモテモテであった。

 フレイアからすると、なんだか胡散臭い白蛇をオークが崇拝しているのはわかる。

 けれど平等? なにを言っているの?

 フレイアは幼い頃、両親からオークがどんな危険な魔物か教わった。

 エルフの男は皆殺しにし、女は強姦して喰らうと、子供の頃は本当に怖くて仕方がなかった。

 両親は悪いことをするとオークに食べられちゃうぞと、脅していたくらいだ。

 そのオークはどうか、目の円なオーク婦人たちは、身なりこそ、麻布の原始的な衣服。

 しかし所作や、口調を観察する限り、これといってエルフと違いがない。

 事実オーク村のオークに限れば、非常に紳士的でさえある。

 婦人たちは皆ただフレイアを心配しているだけなのだ。


 「持ってきましたー! これ一番小さいサイズだけど合うかしら?」


 服を取りに行かせた婦人が戻ってくると、亜麻(リネン)の服をフレイアの前に置いた。


 「皆さん、出ていきましょう、フレイアお腹すいたら出てこいよ?」

 「え……あ」


 白蛇は婦人たちを引き連れ小屋を出ていく。

 パタン、扉が閉まると、小屋の中は薄暗くなった。

 フレイアは亜麻の服を手に取ると、それを広げた。

 人間たちの着る服とは違う、だが上等な織物であった。

 フレイアは目を輝かせ、服の細部を見て、あることに気づく。

 信じられないくらい綺麗に糸通しされて縫われているのだ。

 純白で光沢さえある糸はもしかして(シルク)か。

 糸ほつれもなく、人族やエルフ族の衣服にも決して劣らない。


 「信じられない、オークは野蛮で残忍なんじゃないの?」


 もしも想像の通りなら、オークが衣服など高度な物を作れるはずがない。

 しかし現実にソレは存在する。

 それはこの村では間違いなく一番高価な服だろう。

 亜麻は綺麗に織られており、触ってみても肌触りがいい。

 温暖な大森林では通気性もしっかり考慮されている。

 控えめに言っても、これは凝縮された文化そのものだ。


 「……っ」


 フレイアは意を決すると、渡された服に着替えた。

 オーク婦人はこれが一番小さいと言っていたが、フレイアにはこれでもまだ大きい。

 ブカブカだが、なんとか腰回りを絞ったりなど調整して合わせてみせた。

 彼女は小屋の扉を見た。


 ――フレイアお腹すいたら出てこいよ?


 白蛇の言葉、お腹は空き過ぎて背中とくっつきそうだ。

 そういえば、レギはどうした?

 まさかレギはもうオークたちに食べられたんじゃ!?

 急に不安になった彼女はレギだけは助けようと、小屋を飛び出した。


 「レギー!」


 その声にオークたちが足を止める。

 フレイアはゾクッと背筋を震えさせた。

 まだ根源的恐怖が抜けていないのだ。


 「んー! フレイアーこっちー!」

 「ハッ!? レギ!」


 レギの声がする。

 すぐにフレイアはレギの下に向かうと、露天の食堂でレギの姿を発見した。

 レギは奇妙な肉の串焼きを頬張り、ご満悦の表情だった。


 「どうだー、アビスパイソンの串焼きは!」

 「スパイスが効いて美味しい、アビスパイソン恐るべし」


 レギの隣にはあの白蛇がいた。

 二人は座敷の上に座りながら、朝食中なのだ。


 「あら白いお嬢さん、待っててね貴方の分もすぐに!」


 忙しそうに働く女性方は、笑顔でフレイアに着席を(うなが)す。

 レギは「こいこい」と余った左手で招いた。

 フレイアは、呆然自失のまま、レギの隣に座ると、頭を抱える。


 「なんてこと……オークってなんなの?」

 「オークも文明人だってことさ」


 フレイアにとってそれはカルチャーショックそのものだ。

 ずっとオークは危険で野蛮な魔物だと教えられてきたのに、現実はエルフと大差ない。

 むしろハイエルフを希少価値だからと、村を襲撃した人族のほうが野蛮ではないか。

 白蛇の言っていた通りだ、皆平等、フレイアは思い上がっていただけなのか。


 「ん、フレイアも食べる」

 「レギ、貴方リスじゃないんだから食べるか喋るか、どっちかにしなさい」


 レギは頬をリスみたいに膨らませていた。

 ごっくん、喉を鳴らし飲み込むと、オークたちは笑った。


 「アッハッハ、ちっこいお嬢ちゃんはよく食べるねー!」

 「おかわりー」

 「はいよっ!」


 奴隷として満足な食事は与えられず、やせ細っていたレギは、オークの温かい食事に満面の笑みで幸福を表していた。


 「白いお嬢さんも、ほら喰いな!」

 「え……ぁ」


 アビスパイソンの串焼き、ブロック状に切り分けられた肉に森で採取された岩塩と胡椒を振りかけられた香ばしい一品だ。

 ただブロック一つが、とてもフレイアの口に入る大きさじゃない。

 一見配慮されているように見えても、スケール観はオーク基準であった。


 ぐうううううう!


 しかし、フレイアの腹は早く満たせと、煩く鳴り響いた。


 「っ、あむ」


 フレイアは意を決すると、小さな口で串焼きにかぶり付く。

 肉汁が(あふ)れる、旨味が洪水のように口内を駆け巡った。


 「なにこれ、こんなに美味しいの……初めて、かも」


 フレイアは気がつくとポロポロと大粒の涙を(こぼ)した。

 レギは心配そうにフレイアの顔を覗き込み優しく涙を(ぬぐ)う。


 「フレイア、悲しいの?」

 「えぐっ、違うの……ただ、安心したら、涙が」

 「人は、ひもじい、さむい、死にたいの順で病むらしい」


 突然白蛇が奇妙な事を言い出した。

 フレイアは白蛇を涙目で見つめると。


 「だからな、人って衣食住が大切なんだ、この三つさえ守れば心に余裕だって持てる」

 「衣食住?」


 ふと、フレイアは自分の着ている服に気づく。

 こんな着心地のいい服を着させてもらったのだ。

 そして昨日は物置小屋だけど、ぐっすり眠ることができた。

 あんな長い眠りは随分と久し振りだった。

 そして食事、この三つが揃ったからやっと安心して涙が出たの?


 「ふっ、ようこそオーク村へ、俺は歓迎するぜ」


 白蛇は微笑んだのだろうか?

 ただ、フレイアは「ぷふっ」と吹き出してしまう。


 「なによこいつ、変なの!」

 「なにを変とはなんだー!」

 「喧嘩しないの! レギちゃん、はい」

 「ん」


 追加の肉串しを受け取ったレギは早速大口開いて齧り付いた。

 そしてリスみたいに頬を膨らませて、実に幸せそうに咀嚼する。


 「貴方よくそんなに入るわね」

 「ん、ドワーフは痩せの大食い」

 「へー、ドワーフだったのか」


 正確には【ハイドワーフ】、【鉱人(ドワーフ)】族の中でも、特に強大な力を持つ希少種族である。

 それ故に強欲な奴隷商に人攫いにあってしまった。

 彼女がハイドワーフという種族だとリュウイチが気づくのは、もう少し後のことだ。

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