第13話 困惑するエルフ
「うー、ん ふわぁー?」
白蛇が大きな欠伸をすると全身を真っ直ぐ伸びた棒のように伸ばした。
クロロホロウの《睡眠波》によってぐっすり眠っていたリュウイチは目を覚ますと周囲を見た。
僅かに窓から光が差し込む、木造の内装。
床には丁寧に編まれた絨毯が敷かれ、絨毯には光の翼を広げる白い蛇が描かれている。
間違いない、リュウイチの為に建てられたお社の中だった。
「あれ、いつの間にオーク村に?」
リュウイチは光を求めて、出口に向かった。
オークたちの最新技術によって建立されたお社は高床式であり、なんと扉もある。
扉は観音開きで開く構造で、釘がなくても建てられるギリギリの工法であった。
本来なら建材に使うほどの木材は手に入らないのだが、ベヒーモスの協力もあって、大量に材木が確保出来たことで、村の中は木造建築が着々と増えていた。
とはいえ純木造はまだまだ高価だ。
門を抜けると、目の前には整備された広場が見える。
村を守る柵を拡張したことで、新市街を中心に、見新しい町が建設中だった。
丁度近くで、左官職人が藁と泥で、漆喰を壁に塗っていた。
【粘土の才】を持つオークを選抜して、元々村で使われていた藁を粘土と混ぜると壁に使えると知識を教えたのだ。
するとあっという間に漆喰は完成し、藁の家は材木と漆喰の家にランクアップしたのだ。
新市街の建物はまだ瓦屋根こそ備えていないが、景観は純和風建築に着実と近づいている。
「オーッス、性が出るねー!」
リュウイチは左官職人に気軽に声を掛けた。
左官職人のオークは白蛇に気づくと、作業の手を止め、頭を下げた。
「これはリュウ様、まだまだアッシは修練が足りやせん」
「いやいや、教えてまだ二週間くらいじゃん、物覚えが早くて助かるよー」
《能力鑑定》の賜でもあるが、ある程度才が一致すると、驚くべき速度で進歩していく。
こうやって文明は少しずつ限界突破していくのだろう。
(とはいえ、まだまだ部分的に弥生時代相当になっただけだもんなぁ)
職人の左官仕事に満足すると、彼は旧村落の方へと向かった。
新市街へと接続されている旧村落は今でも藁小屋を中心に建っており、そこにオークたちは今なお暮らしている。
村の中央広場には毛皮のコートを纏った端整な顔のオークがいた。
「バルボー」
「あっ、リュウイチ様、どうしただ?」
バルボは白蛇に気付くと、すぐに敬礼する。
オーク族の中では一番白蛇と親しいものの、バルボの敬意は堅苦しいものだった。
白蛇は一体自分になにがあったのか、バルボから聞いてみることに。
「俺、クロロホロウに眠らされたんだけど、誰が連れて帰ったんだ?」
「それならベヒーモスだ、帰りが遅いで迎えに行っただ」
なおそのベヒーモスは今日も材木の伐採をしに仕事に出かけたようだ。
時刻はまだ早朝、バルボもこれから狩りに向かうところだろう。
狩人の仕事は中々忙しいようで、バルボも装備をこまめに点検していた。
「あっ、そうだエルフっぽい少女と褐色の少女が森にいたんだよー」
「それって、ベヒーモスが連れて帰った子か?」
えっ? とリュウイチは驚く。
この村にいるの?
「それどこに?」
「それなら……」
バルボが指差したのは新市街の方角。
丁度まだ誰も使っていない物置みたいな小屋に、その二人はいた。
リュウイチはすぐに向かうと、入口でギャアギャア黄色い悲鳴が聞こえてくる。
「キャー! ち、近寄らないで!?」
「なんだなんだ?」
胡乱げな表情を浮かべ、開きっぱなしの扉を抜けると小屋の奥に二人の少女が蹲っていた。
白い少女、たしかフレイアは二人を取り囲むオークの婦人方に激しい敵意を向けている。
オーク婦人たちは、少女たちのお世話をしにきただけなのに、酷い警戒に困惑していた。
一方で褐色少女のレギは「くあー」と大きな欠伸をしている。
こっちは鷹揚と構えて、なんだか大物なような危機感が無いだけのような。
「あらあら困ったわねー、服のお召し替えだけでもさせてくれない?」
「そ、そう言って食べるつもりでしょ!? オークは信用できない!」
「……んー、お腹すいた」
レギはお腹をグ~と鳴らすと、力なく項垂れる。
「あらあらすぐに用意してあげるから、外に出てくれる?」
「ん」
レギが立ち上がると、オーク婦人の差し出す手をあっさり掴む。
「あ、あ?」フレイアはレギがオークに連れて行かれると、地獄の底に落ちたような絶望を顔に貼り付けた。
「あっ、神様」
「あら? リュウ様じゃない!」
婦人たちは白蛇に気付くと、皆笑顔で頭を下げた。
白蛇もなるべく明るく挨拶を返す。
「オイーッス、元気、みたいだね?」
「ん、お腹が空いて力が出ない」
「あら大変、それじゃあ調理場に急がなくちゃ」
オーク婦人たちの仕事は多岐に渡る。
子守から料理、裁縫とオーク婦人たちも甲斐甲斐しく働いている。
数人が急いで村の共同の調理場へと向かった。
レギはオーク婦人と手を繋ぐと、ルンルンと小屋を出て行く。
一方取り残されたフレイアは白蛇を見つめると視線を鋭くして。
「貴方ね……オークの守り神って」
「白き翼の龍様よ、私達は親愛を込めてリュウ様って呼んでいるけれど」
「仰々しいのは好きじゃない、リュウでもリュウイチでも好きに呼べばいいさ」
オーク婦人たちは口元に手を当てるとクスクスと微笑む。
フレイアとは対称的に穏やかであった。
「それで、一体なにが問題なのさ?」
白蛇はオーク婦人たちが困っている原因を聞いた。
「いやね、この子随分と着ているものが、傷んでいるでしょう? だから着替えさせようって」
「信用できない、もう一人にしてよ!」
「フレイア」
リュウイチは少しだけ怖い顔をした。
「ヒッ」とフレイアは青くした表情で悲鳴をあげた。




