第10話 夢を追いかけたいね
「帰ったニャー!」
アビスパイソンを持ち帰ったリュウイチとベヒーモス。
オーク達は規格外の獲物に「おおっ」と感嘆の声を上げた。
「こいつはかなりの大物だなー、流石ベヒーモスだ」
「やーやー村に問題はないかい?」
リュウイチは村の中を見回す。
ベヒーモス事件から、滅びた村のオーク達がこの村に集合したため、民家が急ピッチで建築中であった。
「リュウイチ様、こっちは問題ないだ、ただ土地が足りてねぇ」
早速オークの狩人バルボがリュウイチに答えた。
「土地?」
「見ての通り柵で囲っとるだろ? だから広さに限りがある」
村の周りは凶暴な魔物が沢山いるため、丸太で囲んでいる状況だ。
さながら中世ヨーロッパの城塞都市の古代版であろう。
土地が足りない、実に頭が痛い問題だ。
「だったらさ、もうちょっと外側に更に大きな柵を作るのはどう?」
「良い案だとは思うけんど、建築資材が大変だなー」
「うーん」
オークも白蛇も頭を悩ますが、良い案は中々出てこない。
柵を広げるということは、それだけ桁外れの材木が必要になる。
具体的にいえば土地を二倍に広げるなら、資材はその三倍、いや四倍以上必要になるかも知れない。
更に大変なのは村の石の斧で、木を切り倒そうにも切味が悪く、これまた苦労が多い。
土地を開拓すると言っても、膨大な建築資材、土建屋に林業、人も金も資材も足りていないのが現実だ。
「やっぱりなー、鉄が使えたらなー」
「テツ? テツってなんだ?」
「テツ……美味いのか?」
鉄というものをオーク達はご存知ないらしい。
オーク村といえば、木か石を加工したものしか見当たらないと思ったが、ここまで文明レベルが低いと逆に苦労しそうだ。
「ニャー、兄貴なにを困っているニャア?」
ベヒーモスは気になったのか、口を挟んできた。
この大きな三毛猫になにが出来るか理解らないが、相談するだけならタダか。
「いやね、材木が足りないの、いっぱい必要なのにね」
「そんニャの、アタシの魔法や爪で簡単ニャ」
白蛇はなんてことないと言うベヒーモスを真顔で見た。
そしてバルボに振り返ると。
「……これならいけるかも知れないぞ」
§
「ニャー、《ウインドカッター》ニャア!」
ベヒーモスは林業の知識を持つオークを連れて、木々を切り倒していった。
風の刃は鋭く、太さ三メートルはある巨木でさえ一太刀で切り倒してしまう。
次々森の木々が倒れていくと、その周囲の魔物たちは驚き退散していった。
「おーし、運べー!」
力自慢のオークたちは巨木も僅かな人数で村へとどんどん運んでいく。
白蛇リュウイチは現場を見て、色んな感想を持った。
「すまないねぇ罪のない魔物さんや、住処を奪っちまって」
林業というのは必要な産業ではある。
けれどほとんど未開発に近い大森林では魔物の住処を奪っているのは確かだ。
神からすれば、『弱者が奪われるのは定め』と言うだろう。
リュウイチもそう割り切るしかない。
せめて彼の気持ちを晴らせたのは元気に明るく働くオークたちがいたことだろう。
「おーい、なにか手伝えることあるー?」
リュウイチは林業を監督する親方の前に飛んでいった。
親方は麻を編み込んだ帽子を被り、テキパキと現場に指示を送る。
そんな親方も白蛇を見ると、恭しく頭を下げた。
「そんなリュウ様に手を煩わせるわけには参りません!」
「そんなこと言わずにさー」
「いいえ滅相もない! リュウ様はオーク族の守り神、ただ見ていてください! お前らリュウ様が見ているぞー!」
オークたちはもはや白蛇を神格化していた。
オーク村の老人たちも、リュウイチに積極的に政治への参加を望まれており、これはこれで忙しくなりそうだ。
幸いオークたちの士気は高い。
リュウ様の手前、ヘマはこけないと張り切るのだ。
かくして大量の材木は村へと運ばれ、村の拡張に使われる。
オーク村の人口増加にも堪え、新しいことも出来るようになるだろう。
「そういやオークって、火を扱えるんだよなー」
村には住民全員が共同で使う竈がある。
焼いた粘土で固めた竈は、意外に使用に耐えうるのだ。
つまりオーク族には焼き物、鋳物の技術ツリーがあるという訳だ。
「やっぱり鉄だよな、鉄があったら革命が起きるぜ」
石は脆くて柔らかい。
狩人バルボの黒曜石の矢もイマイチ殺傷力が低く、黒曜石の斧は頻繁に壊れる始末だ。
石器時代をリアルに生きると不便は多い。
材木加工はある程度熟すのだが、やはりリュウイチの知る文明と比べると、プラスチック時代は遥か遠くと痛感せざるを得ないな。
「日本史だと丁度縄文時代くらいだろ、えーと次はたしか弥生時代だっけ?」
弥生時代といえば、渡来人により稲作が伝来した時代だ。
それ以外にも馬や、仏教など様々なものが流れてきた。
「農耕、か」
オーク族は狩猟採取民族である。
その日の食事にありつけるかは、酷く不安定で、酷いと三日も狩りが成功しないこともあったそうだ。
ベヒーモスのおかげで、食料供給はグッと増えたが、それも一定ではない。
狩猟採取文明は移動が常である、例外は縄文文明だそうだが。
幸い大森林は多種多様な動植物に恵まれているから、定住生活も成り立っている。
だがなにかの拍子で生物多様性が崩れたらどうなるだろう。
「うん、先ずは農耕が先だよな」
やはり安定した食料供給は必要である。
そう確信すると、彼は森の中を飛翔する。
植物に向けて「《ステータスオープン》」と唱えると、目に見える範囲の植物の名前が次々と表示される。
「あるといいなーあれば夢あるなー」
飛びながら鑑定鑑定鑑定、次々と表示される植物の情報を精査する。
そして……。
【植物:稲 イネ科の植物】
「見つけたーっ!」
大森林に白蛇の歓喜の雄叫びが響き渡った。




