母との別れ
お疲れ様です。
このところ、文字数多くなって来ましたね。
まぁそんなこと言って、急にすくなくなったりしますけども。
よろしくお願いします。
またアンリと一緒にずっといられるようになって、僕は満ち足りた毎日を過ごしていたんだけど、母がだんだん寝付くようになった。シルヴィが亡くなった一年前から少しずつ体力が落ちて、それでも気分のいい日には外に出て遊んでる僕たちを見守ったりしていた。それが、一日一日、次第にベットから出られない日が増えてきた。
食事も取れない日が増えたようで、もともと細い母の腕は枯れ木のようになってきた。僕とアンリは、母の様子を見て大丈夫そうな時は母の部屋で歌を歌ったり、詩を覚えて披露したりした。ただそれも母が眠っていない時なので、だんだんそんな時間は無くなっていった。そして一年が経った頃には、もうほとんど眠っているようになった。母の体の中の色んなものが機能しなくなっているようだった。触った手も冷たい。声をかけても、反応がないことがほとんどだった。
ある晩、母の部屋のドアが少し開いていて、低い声が聞こえた。隙間から覗くと、国王がベットの横に座って母の手を両手で握り、その手を自分の額に当てて祈るようにして囁いていた。
「カミーユ、カミーユよ。我が最愛の妃よ。余のために共にあってくれて、感謝する。お前と娘を守れなくて済まない。お前にとって余の側が地獄でなければ良かったんだが」
僕が知らなかっただけで、国王は今までも母の元に来ていたんだろうか? 母を愛していたんだろうか? 今でも?
「幸せでした……貴方と会って。ずっとそばにいられたらよかった……」
母の声はとても小さくてゆっくりだった。
「どうか……」
王の返事はもう聞こえなかった。聞き取れない言葉を話して、ずっと、手を取っていた。
母はそうして亡くなった。
可憐な野の花が旅人に手折られて、飾られたけど、世話をされずにそのまま萎れてしまったように。その花はそのまま野にあれば幸せだったのか? 旅人が手折らずにいれば良かったのか?
旅人は一生後悔したかも知れない。可憐な花にもう会えないことを。花の行く末を知れないことを。
花も旅人も、たとえ短い間と分かっていても一緒にいたかったんだろう。それは哀しい運命というものかもしれない。
お伽話のように、お姫様って、王子様とお城で暮らしました、めでたしめでたしってはならないんだね。
そして僕とアンリにも、哀しい運命って奴が静かに迫って来ていた。