ずっと一緒にいた。いたかった。
おはようございます。
今回はなぜか、そこそこボリュームあるのです。
よろしくお願いします。
アンリと僕は四六時中一緒だった。朝、一緒に起きて、ご飯を食べて、勉強したり運動したり、お昼ご飯を食べて……寝るまでずっと、いや、寝てもずっと半径一メートルの距離内で。お風呂もトイレも一緒。僕はアンリのことを何でも知ってる。アンリは僕のことを何でも知ってる。
暫くすると、流石にまずいんじゃないかと言われ始めた。微笑ましく見守ってくれていた、アナマリーも母も。なにしろアンリは一年か二年で母国カリエに戻るはずだった。このままでは離れ難くなると言われて、まずは寝室を別々に戻された。
このままが良かったけど、確かに、誰かとずっと一緒にいる大人とか見た事がない。そんな大人、信用されないだろうから一人の練習も必要だろうな。もう少ししたら、流石に放置された第三王子の僕も公務的なもので一人で出かける事があるかも知れないし。
アンリと僕はアンリの部屋で、寝る前にアナマリーの故郷の御伽話を聞く。ベットの中で聞いてるアンリが眠ってから、アナマリーと僕は部屋を出る様になった。一人で自分の部屋に戻るのは辛いけど、まぁ僕の方がお兄さんだから。そんな風に過ごして数日、ベットに入った僕の部屋のドアが激しく叩かれた。
「失礼します。シャルル様。アンリ様は来ていませんか?」
アナマリーだった。
「え? さっき自分のベットで寝ついたんじゃ?」
「今ほど確認したところ、いらっしゃらないんです」
慌てて起き出して、アナマリーと二人でアンリを探す。アンリ、一人でどこに行ったの? アンリ、一人で何をしてるの?
別々に探した方がきっと効率が良かったんだろうけど、僕もアナマリーもなんだか怖くて一緒に探した。思いつく部屋を探して、いない事がわかるとアナマリーは侍従長にことの顛末を報告に行った。早く手を打たないといけないから。
アンリ……泣きそうになってふと窓を見ると、月明かりが降っていた。声がした様な気がして、窓の外を見た。アンリ!
アンリが庭の芝生広場(ガーデンパーティーとかの為。多分一度もパーティーやってないけど)で、白い寝巻き姿で小さな声で歌を歌いながら裸足でクルクル回っていた。色のない白と黒の世界だったけど、優しい月明かりに浮かぶアンリの姿が哀しくて綺麗だった。僕は急いで庭に出た。
「アンリ、アンリおいで」
きっと昼間にここで二人で遊んだからだ。アンリ、くすくす笑って楽しそうだったもの。
「アンリ、こっちにおいで」
月光の中のアンリがあんまり綺麗だから、こちらから近づいたらイタズラ妖精に拐われちゃう気がして、僕の方から近づけなかった。
「アンリ、アンリ……こっちに来てよ」
やっとアンリはクルクル回りながら、僕のところに来た。その頃には僕の後ろにアナマリーも母様もみんなが見守っていた。
アンリはなんだか半分寝ている様な感じだった。話しかけても返事はなくて虚な目をしていたけど、僕の腕の中でまた眠ってしまった。
それからアンリは何回か夜中に外に出ようとして、前より厳重になったドアの補助鍵に阻まれて、ドア前で眠ってる事があった。夢うつつの状態で階段を降りているので危ない。その後は、僕のベッドに来るようになったのでひとまず安心。そのまま一緒に寝てもいいことになったので、夜中の行方不明騒ぎは無くなった。カリエ王国が恋しい気持ちが心に重くて、そんな風になってしまうとか、アンリがここに来る事になったカリエ王家の問題が関係しているとか、そんな話だったけど。
「シャルル様、あの時、アンリ様に駆け寄らなかったのはなぜですか?」
アナマリーにそう聞かれたけど、なんか行っちゃダメな気がしてとしか言えなかった。アナマリーはシャルル様はわかってらっしゃるんですねと言った。
「何にもわかってる気がしないけど」
「そういう勘は大事ですから。ありがとうございました」