マリローズのデビュタント・ボール
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大々的なパーティとなった。
前皇帝や継母上も呼び寄せたが、ことわりの返事が来た。娘の晴れ姿、見ないとは。任せた、と言われた。
アルノーが即位する前から、帝国主催のデビュタントは開いていなかった。前皇后が前皇帝を連れて田舎に引き篭もってしまって、十年は皇家の社交らしきものは放置されていた。各領地や皇都の貴族のタウンハウスでの交流といった小規模な物は開催されていたようだった。
デビュタント・ボール、この機会に今後も続けましょうとか、宰相の爺(前皇帝の時から宰相)が浮かれていた。アルノーに出会いをと思っていたようだが、今回はマリローズのデビューだから。出会いとかアルノーは全く興味はなかった。
あぁ、でもマリエルとマリベルの時まではやってもいいな。きっと可愛いんだろうな。こんな風に気持ちが温かくなるんだな、家族って。前世から家族の縁が薄いアルノーだったが、妹たちの為に働くのも良いなと思えた。
デビュタントパーティー自体は爺の記憶と想像力でなかなか良い雰囲気の企画となった。次回から専門の部署を立ち上げて、爺の管理で続ける事にしよう。
帝国中の貴族や権力者の十六から十八歳の娘達に招待状を出した。急な開催となったが、大変な数の参加者が集まった。
当日、マリローズはバリュティス領からキャバリエ(エスコート役)を呼んでいたが到着が間に合わなかった。昼過ぎにはキャバリエ不在が分かったので、アルノーが代役を務めることになった。玉座でデビュタントの挨拶を受けるはずが、参加するなんて。玉座を空にする事はできないので、その間は爺に座ってもらうことにした。良いんだ、誰が座っても。
「感無量でございます」
と言って、入場列の先頭のアルノーとマリローズの挨拶を受けた爺は目を潤ませた。マリローズの健やかな美しさと、アルノーの幼少期からの親に関しての苦労も、アルノー自身の苦しみも知っているので、込み上げる物があるらしい。
純白の細身のドレスに王家の白地に金のサッシュのマリローズも、燕尾服のキャバリエ姿に揃いのサッシュのアルノーも輝いていた。二人の衣装の白地のサテンは東方の絹地に細かい刺繍が施されていた。真っ白な薄い生地に細い糸で入った刺繍は重さは感じさせず、サテンの光沢も邪魔してはいなかった。サッシュとアルノーの燕尾服のベストの方は密な刺繍で少しどっしりとしていた。元々、マリローズの衣装の生地の出来が良かったので、共布でアルノーのブラウスも作られたのだが、揃いで着ることが出来て一層素晴らしかった。
マリローズはハニーブロンドの髪を結い上げて、金のティアラには大きなエメラルド。白いサテンのグローブにティアラと揃いのネックレス、イヤリング。純白のドレス自体のデザインはシンプルで、その分、生地の良さが際立っていた。
アルノーは全く自分の身の回りに頓着しないので、実はもうずっと髪を伸ばしっぱなしだった。まっすぐな黒い艶やかな髪はそのままだと腰まである。今回は、ダンスの為ゆるく編まれて、片側に流していた。父譲りの長身で、無駄な肉のない、スラリとした姿だった。




