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前世の約束

お疲れ様です。


エタンとバアルがちらりです。

 ゾエが言った。

「操られているとか、取り憑かれているとかではありません」


 ゾエの声は必死だった。

「ここをご覧ください」

 アルノーの書いた文章のシャルルとアンリの部分を指差した。よく見ると、綴りが違っている。他の部分はゾエの教えた、ルブラ連合帝国の共通語の綴りで間違いがなかった。が、シャルルの文字とアンリの文字が少し違ったのだ。

「綴りを間違えておるな。まだ幼い皇子だからではないか?」

 皇帝は何も問題ないと言った調子で言った。


「ここだけ、古い大陸共通語の綴りなんです。その時は気が付かなかったんですが、先の手紙の“アンリ“の部分もそうなんです。今回は“シャルル“もそうなっています。私の故郷では、いまだに大陸共通語を使う者が多いので、学校でもルブラ連合帝国語と大陸共通語を両方習うんです」

 ゾエはしゃがんでアルノーに視線を合わせて、聞いた。

「アンリ様と共に亡くなったシャルル様の生まれ変わりでいらっしゃいますか?」


 アルノーは

「うん、そうなの」

 と言ったので、全員が息を呑んだ。

「また巡り会うお約束がおありなんですね?」

「アンリ、さがす、したい」


 皇宮は大混乱となった。


 皇宮に歴史学者が集められた。北部の歴史に詳しい者が。ゾエが元々その地方出身で、山間の村で伝えられていた可哀想な王子達の話を知っていた。歴史学者達によると、確かに昔、シャルルとアンリ、二人の若い王子たちが追い詰められて侍女と共に亡くなり、その後数年して、ロバを連れた山の民の男がやってきて、可哀想な侍女と王子達の話と生まれ変わりの約束の話を広めていったと言う記録があることを証言した。物語は歌になって北部で子供達が今も歌っていた。ゾエはそれを覚えていたのだ。


「どうか、アルノー殿下に約束を果たさせていただけませんか?微力ながら、その為に私も殿下に精一杯お仕えすることをお許しくださいませ」


 最初から皇帝も皇后も反対する気持ちなどはなかった。ただ、得体の知れない不安があっただけ。皇子が皇子としての役割を果たせるなら、その他の事にとやかく言うことはなかった。魂が生まれる前の約束に囚われていても、皇子は確かに自分たちの子であった。


 また、ゾエはアルノーをうまく導くことが出来そうだったので、任せる事にした。

 

 

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