山越え
おはようございます。
暑い夏に涼しい雪山の話です。
後書まとめありません。
山はまだ冬だった。
三日目からは本格的な山越えとなった。狩猟小屋も木こり小屋もなく、いよいよ野宿になった。まだ雪がない所は楽だった。そのうち、広葉樹もなく尖った葉の木だけになったと思ったら、今はもう、岩と雪だけだった。
足に毛皮を巻いて、水を通さない樹液を塗った紙で巻いてからブーツを履いて、足が濡れるのを防いだ。場所によってはトゲトゲの金具を靴の裏に縛り付ける。雪で滑らないように。僕たちもバアルも毛皮を着た。毛皮のバアルはなんか違う生き物みたいになった。
山越え自体に三晩かかった。重いので水は最低限しか持たず、食料は保存食。風の当たらない場所を選んでみんなでくっついて寝た。バアルあったかい。二晩は寝る前にお湯を沸かして飲んだ。石を温めて布を巻いて暖も取れた。
昼間、岩肌に黒と赤の蝶々がいると思ったら、羽を広げてバランスをとるウォールクリーパーって鳥だった。雪雀が真っ白な冬毛で近くまで飛んで来て可愛く歌うのも聞いた。冬毛の白い貂、カモシカが岩山を軽々と登るのは羨ましかった。
夜、風が止んで雲が切れた時、月明かりが差してなんだか僕たちしか世界にいないみたいだった。空気は澄んで、星は冴え冴えとして、全く何の音も無かった。ピンと張った糸の様な凍った水面の様な、完全な静寂。不思議な事にずっと下の麓の村の灯りが見える。こんなに遠いのに、まるですぐそこにある様だ。神様の国とか、死んだ人の国とかこんな感じだろうか?月に照らされる真っ白な雪原も、星座がわからないほど沢山の星が瞬く空も、綺麗すぎて怖い。
最後の晩は雪混じりの風が吹いた。窪地にみんなで集まって、荷物で支えを作って毛布をかけて凌いだ。眠れはしなかったけど、夜明けに風が止んだので出発した。そこからは基本下りでカリエ王国に入ってからは日が差して来た。
「なんとか山を越えられて良かった」
アナマリーが言った。
雪がなくなったところで、休んで靴の中の毛皮は出した。ブーツは濡れているので、樹液の防水紙はそのまま。全員毛皮を脱いだ。濡れて膨張したブーツの中で足が滑るので、外側から紐で縛った。
「この先の隧道を抜けてしばらく行くと、私の村に出ます。何日か、休んでいきましょう。情報を取れたらその時にまた考えましょう」
「あ」
アンリが大きい石に乗り上げて、ブーツを縛った紐が切れて足を捻った。
「大丈夫? アンリ」
靴を脱がせて確認したら、軽い捻挫のようだった。ブーツの上から、足の甲と足首をクロスに縛ると痛みもなく歩ける。また捻挫しないようにゆっくり歩いた。
隧道を抜けてしばらく行くと、急に景色がひらけた。




