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どちらを選ぶのか

 私の後ろには、黄金の髪を輝かせる太陽神がいる。生まれたときから一緒に生きてきた最愛の人。悲しみにその金の瞳を曇らせたくはない。彼を愛したい、今までと同じように喜びも悲しみも分かち合い、お互いを支え共にありたい。そして太陽のごとく燃えるような彼の愛を永遠にこの身に受けたい。あなたは私の半身なのだ、離れることなどできようか。振り返って抱き付けば、彼は私を抱きしめて幸せそうに笑うだろう。


 目の前には、心を映さない凍った瞳の冥界の門番、闇を統べる夜の神がいる。ただ独り洞窟の奥深く、誰にも知られず戦い続ける。愛されることもなく、求めることも許されず罪人のように暗闇に生き続ける。彼の孤独を癒したい。夜の静けさの中でゆっくりと満ちる穏やかな愛に包まれていたい。そしてあなたは私の愛しい子の父親なのだ、今までそうしてきたように二人であの子を育てていきたい。私が彼の胸に飛び込めば、決して感情を表わさないその顔に、穏やかな笑みを浮かべるだろう。


 どちらを選んでも、私には愛される喜びがあり幸せになれるだろう。けれど同時に身を引き裂かれる別れがある。心の痛みはけして消えず苦しみを抱えたまま生きることになる。


 今ここで、私は選ばねばならない。


「私の進むべき道を選びました」


 告げると二人の夫は私の前に立った。

 きゃっきゃと声をあげて喜ぶ子を、シルベリオスの腕から渡され、私は愛し子を胸に抱いた。


「私には愛すべき相手が3人います。1人はファルカシュ」

 金の瞳が狂おしい想いを込めて私を見つめる。


「もう1人はシルベリオス」

 静かな黒い瞳は、哀しみをたたえて別れを覚悟しているよう。


「そしてもう1人は……私自身」


 その言葉に二人の男は意外だったのか、驚きの色を見せた。


「あなた方のどちらかを、私は選ぶつもりでした。そして選んだ相手を命の限り愛そうと思っていました。されど……私は本当にあなた方に愛されたのだろうか」


 君だけを愛しているとファルカシュが叫び、想いの丈を一心に込めてシルベリオスが見つめてきた。


「ファルカシュあなたは、私を迎えに来た時、帰らないと答えた私の意思を無視して連れ帰った。そして自分の意に沿わないからと記憶を消した。私の意思が必要ないというならば、私の顔をした人形を愛するのと同じです。我が子と引き離され、その大切な子の存在さえも記憶から消された。どれほど残酷なことを私にしたのかあなたは分かっているのでしょうか」


 苦し気に目を伏せたファルカシュの隣に立つ黒い瞳に視線を合わせた。


「シルベリオス、あなたは本当に(むご)い。幸せの絶頂にいた花嫁を攫って暗い洞窟に閉じ込めた。私はファルカシュを愛していた。あのまま彼と生きていきたかった。それなのにあなたは私を帰してはくれなかった。私に愛してほしかったのならば、奪うのではなくまず私にその想いを告げるべきだった。それをせず、ただ自分の欲を優先させて私の意思を無視した。あなたのやり方は間違っていて、私の人生をめちゃくちゃにするほどに傷つけた」


 感情を見せなかった彼の顔が歪んで、うつむいた。


「私は大切にされたかった、けれど私の意思は無視された。だから私は傷つけられてしまった私を自分自身で愛します。私はどちらも選ばない。そして私は声を大にして伝えたい。愛することと大切にすることは別物です、愛していても傷つけることはできるのです。ファルカシュもシルベリオスも間違っている。私を傷つけた二人を許しません。だから罰を与えます」


 二人の男が驚愕(きょうがく)として顔を上げた。

「どちらにも、私を与えない。さようなら、私は1人でこの子を育てます」

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