必要悪
今から3年ほど前、リーヴァのパーティーはとある魔王城にいた。
目の前には真っ二つになった魔王。
魔族サイドも一枚岩というわけではなく、当時は魔王と呼ばれる存在は複数体存在するわけだが、その内の一体をリーヴァとその愉快な仲間たちはいとも簡単に打ち滅ぼした。
さて、魔王討伐の報に王国中枢は慌てふためいた。
打ち滅ぼされた魔王ヴェンデッタは、魔王の中でも最強……つまり、このままではリーヴァのパーティーが1,000年続く魔族と人間との争いを終わらせてしまう。
それはとっても良いことのように聞こえるだろう。
しかし、考えてみても欲しい。
冒険者は魔獣を狩り、その素材を王国内で売買する。冒険者の装備品を製作する職人たちが街のそこら中にいる。
王国民の生活は、冒険者と共にある。
冒険者がいなくなれば、首を括らねばならない民草も多くいよう。
そう、王国にとって、魔王が全て滅ぼされるのは非常に困るのだ。特異点みたいな存在が、今の王国の在り方を全てひっくり返しそうになっている。
一体どっちが魔王なのか。
魔王討伐の報告を行うため、英雄リーヴァ一行は王都に向かっている。
「……帰ってきたところを闇討ちとかする?」
王は言い放った。
その場にいた全ての人間が耳を疑った。
どう考えたらそんな結論になるのか、と、従者の男は言葉を選んで言わざるを得なかった。
「……僭越ながら、該当パーティーは、その、冒険者の中でも些か常軌を逸した力の持ち主でありますので……下手をすればこの王国すら滅ぼされます」
「ヤバぁ……」
王は天を仰ぐ。
「それに……」
従者の男は、苦々しげに繋げる。
「魔王を討伐した英雄を闇討ちしたなどと知られれば、その、王の評判が……」
地に落ちるだろう。元々そんなに高くもない評判が。
「だよね。言ってみただけ」
嘘つけ、本気だっただろ。と、従者の男は思った。
さて、困った。
続々と集まる情報からすると、どうやら魔王討伐は事実らしい。
英雄パーティーは、律儀にも討伐の報告を行うために王都へ向かっている。
最悪なのは魔王討伐をはしごされることだったので、その点は不幸中の幸いだ。
そんなゴブリン感覚で討伐されても困る。
到着までまだひと月ほどはありそうだが、その間になんとしても打開策を考え付かねばならない。
そうでなければ発生してしまう。
英雄恐慌が。
「……雇用しちゃえばよくない?」
王は言った。簡単に。
「失業者をですか?しかし莫大な……」
従者の男の言葉を遮って、王は続ける。
「いや、英雄パーティーを。身分を与えて、解体しちゃえばいい。魔術師は新しい魔術学校の立ち上げをさせ、そこの校長に据えるとか。それがいい」
そんなの、上手くいくわけがない。
しかし、戻ってきた英雄パーティー一行に打診を行った結果、四人が四人とも王の提案を快諾した。
かくして、英雄パーティーは英雄のまま解体される運びとなった。
冒険者は、王国民は、守られたのであった。