元冒険者リーヴァ
冒険者ミッションは、広報課によりギルド内の掲示板に張り出される。
冒険者はその中から自分のランクと見合ったミッションを選択し、総合窓口へと提出する。
窓口職員は冒険者のランクとミッションの難易度を確認し、適切だと判断されてようやっとミッションの受注が完了する。
冒険者時代はよく世話になったものだ。とは言っても、どちらかというと途中からはギルドを介さない直接の依頼が多くなっていったのだが。
『ブラッドゲッコー出現に伴う北の沼地警戒ミッション』
さっきのバーンズの届に伴うミッションも発生している。
バーンズがたまたま偶然ブラッドゲッコーを討伐してしまったため討伐ミッションとはなっていないが、ブラッドゲッコーはつがいで行動する習性があるため、念のため、と言ったところか。
多分、つがいになれなかったはぐれゲッコーだとは思うが。
今の最難関ミッションは・・・・・・と目を滑らせていると、帰り支度を終えたアリスが駆け寄って来た。
「お待たせしました。ささ、行きましょう!ネルフさんのお店空いてるといいなぁ」
ネルフレストラン。この街ではそこそこランクの高い食事処だ。
持ち合わせあったかな・・・・・・。
アリス・ヴェンデンは、貴族ヴェンデン家のご令嬢である。
そもそも、公の職に就けるのは多くの場合、その街の有力者の子息だ。三男とか次女とか、家を継がない立場の貴族の子どもの就職先となる場合が多い。
冒険者は稼げる。
しかし、貴族の子どもは別に稼げようが稼げまいがそんなに気にしない。問題なのはある程度世間体が保てて、死の危険が伴わない職だ。王国直営の冒険者ギルド職員の事務担当はその条件に合致している。
ところが、貴族だけでギルド職員を固めてしまっては、冒険者の専門的な内容を理解できる者がいなくなってしまう。
そこで、俺のような冒険者上がりの人間が王国からスカウトを受け、働いている。
今や比率は半々くらいだろうか。見知った冒険者が隣町のギルドで働いている、なんてこともザラだ。
アリスは貴族にありがちな、地位を鼻にかけて冒険者上がりを見下すようなことはしない。
しかし、このような時に微妙に金銭感覚の違いを見せてくる。
先輩として、奢られるワケにもいかないのがなんとも。
「ローダ爺の飯屋でも俺はいいけどね」
「味は美味しいんですけど、じっくりお話するのに向いてないと思うんです。ほら、賑やかで」
確かにローダ爺の店は騒がしい。会話の内容も猥雑だ。
「そんで、今日は何が目的?」
俺がそう問うと、アリスは満面の笑みを浮かべて言った。
「決まってるじゃないですか!リーヴァさんの冒険譚の続きですよ!」
「魔王を討ち滅ぼした英雄リーヴァさんのお話なんて、全部聞かなきゃ気が済まないです!」