イベントはっ!
「やほー、小夜っぴ」
「変な呼び方をしないでください」
小夜が眉を秘める。
「今日は……二人きりなんですか?」
「そうよ、悪い?」
おろ?
なーんかスイちゃんの声色がちょいと低いような。
私の気のせいだろうか?
ううむ。
「悪いなどとは言っていないでしょう」
「あ、そう」
「それにしても驚いたー、まさか小夜の両親があの二人なんて」
「そうですか」
「教えてくれればよかったのに」
「教える義理などないでしょう」
小夜が小さな溜息をこぼす。
「それに、あの人達に近付いてもいいことなどありませんよ」
「え?」
それって、どういうことなのだろう。
「なんで……」
「あの二人に近付けば、あなたも穢れますよ……」
「えっと……え?」
よく分からない。
「小夜、それって一体……」
「別に」
詳しい説明はなく、小夜は視線を明後日の方向に向けてしまう。
「……小夜って、悠希さんと臣護さんのこと、嫌いなの?」
もしかして、と思って聞いてみる。
「ええ」
「マジで?」
嘘だあ。
まず、そう思った。
「傍から見てたら、仲のいい親子だったのに」
「仲は悪くないんじゃないですか?」
「……えー?」
嫌いなのに、仲は悪くないの?
うむ、わけわからぬ。
「あなたって、時々意味分からないわよね」
スイも、呆れたように半眼を小夜に向けていた。
「……別に理解して欲しいわけではありませんから」
「ふぅん」
「なんだよぅ、そんな寂しいこと言うなよー」
べったり、と小夜にくっつく。
「っ、離れなさい!」
「えー、やだー」
「やだじゃありません、くっ、この……!」
全力で離れない!
「離れなさい!」
「うひひー」
「ほら緋色、離れろと言っているのだから離れてやりなさいよ」
「うぎゃ」
スイにひっぺがされる。
流石に小夜とスイ、二人分の力には対抗できない。
「もっと抱きしめさせろー」
「はぁ、私はもう行きます」
「へ? 行くってどこへ?」
ま、まさか……!
「男、男のところなの!?」
「なにを馬鹿を言っているんですか。見回りですよ」
「……おお」
そういや小夜って、なんたらどうたらとかいう風紀系の人間だっけか。
すっかり忘れてました。
「えー、見回りとかサボって私達とエンジョイしようぜ!」
「やめておきます」
小夜は、深いため息をついた。
「せめてこのくらいしなくては、私は自分の存在すら許せないのです……この醜い私に、せめて役割の一つも与えてください」
ぽつりと、小夜は小さな声でそんなことを呟いた。
「小夜?」
「それでは」
小夜は身を翻すと、そのままあっというまに姿を消してしまった。
「……むう」
「ほら、緋色。私達は私達で行きましょう」
「……そうだね」
†
……む?
スイと、緋色?
「おい、エレナ」
「あら……」
エレナが二人の姿を見つけて目を丸くする。
「今日は用事があるとか言っていましたけれど、なるほど……スイは緋色とデートですか」
「……」
む。
なんだか今、一瞬イラっとしたな。
なんでだ?
「これはなかなか面白いことになっているみたいですね?」
「そうだな……」
……よし。
「あとをつけるぞ、エレナ」
「え? どうして――」
「いいから行くぞ!」
「ちょっと、待ってくださいよ姉さん!」
†
歩いていると、気になる姿を見つけた。
「……緋色」
――あら。スイと一緒、ね……。
頭の中でオリーブの声が響く。
「うん、なにしてるんだろう?」
――それはまあ、デートじゃ、ないの?
「デート……二人が?」
――まあおかしいことではないでしょ、緋色なら。あの子、周りを惹きつけるし。
「うん」
――……気になる?
「え?」
――私は気になるわ。茉莉、どうせ時間もあるのだし、追いましょう。
「話しかける?」
――……。
しばらく、オリーブの悩む気配がした。
――いえ、ここは観察しましょ。
「分かった」
†
「あれ?」
「どうかしましたか?」
ソウと学園祭を覗きにきた私は、とある人物を見つけた。
それは――。
「緋色?」
「のようですね。それと、スイも一緒のようです」
「……ふうん」
なるほどねえ。
抜け駆けってわけか。
こりゃ、見逃せないかな。
「どうするつもりなのですか?」
「そりゃ当然」
にやりと笑う。
「つけるでしょ」
†
「……ほー」
空に浮かぶ巨大な仮想モニタ―に文字が浮かび上がる。
学園祭の目玉らしいイベントが、もう間もなくというところに迫っているらしい。
そのイベント名も『ドキッ! カップル対抗ガチバトル! 愛の大きさじゃ負けないんだから!』らしい。
飛び込み参加オッケーのイベントらしいが……。
カップル対決……ってことは出場資格とかはカップル限定なのか。
へえ……リア充イベかよ滅べ。
とか思っていると、モニタに新しい文字が浮かぶ。
参加資格だ。
案の定、カップル限定。
だが、それ以外にも項目があった。
まあ、あれだ。
要約するとだ。
カップルなら同性だろうが家族だろうが異種族だろうが関係ねえ。
ってなわけで。
「っ、スイ!」
今日の緋色ちゃんは、大胆に行くぜっ!
ひゃっふー!