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常識外はっ!

「ってか、なにこれ!?」



 目の前には巨大な、二十五メートルプールくらいのサイズの池。


 そしてそこを飛び跳ねるのは……。



「え、金魚すくい……」

「はいダウトー!」



 なーにが金魚すくいですか!


 どこの世界に鋼鉄でも食い破りそうな凶悪なフォルムの金魚がいるんですか!


 ああいましたねここに!


 でも違う!


 これは断じて金魚すくいではない。


 つかあんな一メートル越えの凶悪金魚なんざ私は認めん!



「金魚すくいってのはもっと平和なもんでしょ!? しかもこれ、素手でやれとかどんな無理ゲー!?」



 ほらあそこの人腕喰われたよ!?


 ねえ見て血ぃぼたぼた出てるからね!?


 そりゃこの学園ならあのくらいすぐ治せるんだろうけどさあ!



「まあ、この世界だし」

「納得した自分がもう嫌だ!」



 この世界だったらなんでもアリか!


 いや、ありか!


 ちっくしょう!



「ほら、私達もやりましょ」

「ええっ!」



 スイさんあんた正気ですか!



「あの魚、結構美味しいのよ?」

「食べるの!?」



 あれ食べられるの!?


 絶対筋とか一杯ありそうなんだけど!



「まあものは試しよ?」

「スイ、ものには限度ってものがあるわけでしてね?」

「まったく、臆病ね」

「私はノーマルだと主張させて頂きたい」



 絶対にスイの方がおかしい。



「まあいいわ、それじゃあ私がとってくるわね」



 そう言うと、スイが池に近付く。



「ま、マジっすか?」

「まあ見てなさいって……よっと」

「おぉおおおお!?」



 スイの背中から黒い爪翼が生える。


 《顕現》ではない。


 スイ本来の能力なのだろう。



「これも身体の一部なんだから、一応、素手よね」



 言いながら、スイが爪翼を振る。


 丁度そこに魚が飛びあがり……。



「一丁上がり、っと」



 見事、魚はスイの爪翼に貫かれた。



「どう?」

「……美味しい、です」



 さっきの魚をフライにしたものを串に刺したものを食べながら歩く。


 ちくしょう。


 めっちゃ美味しいですよ、これ。


 淡白ながらも深みがあるっていうか、うん、とにかくしっかりした味で、それに衣がサクッていって、そこにかけられた酸味のあるソースがまた……うぐぅ。


 なんだか釈然としない。



「ならよかった」



 スイが微笑む。



「あ、ソースついてるわよ」



 私の口元についたソースをスイが指先でとってくれる。



「ん、ありがと」

「どういたしまして」



 ぺろり、と。


 スイはそのままソースを舐めた。


 おおう。



「……これは俗に言う間接――」

「なに?」

「なんでもないですっ」



 うへへ、思わずちょっとどきっとしちまったぜ。


 緋色ちゃんとしたことが不覚!



「あ、緋色、見てあれ、射的みたいよ?」

「え、マジで、どこ?」



 その時、こんな音がした。




 テューン!




 ええ。


 ビーム、でしたね。


 間違いなく。


 見てください、空に向かって一筋の光線が伸びました。



「大気圏にある的を狙うみたいだね」

「……」



 なにこの学園もう嫌だ。


 ちょっとくらい、せめてお祭りでくらいは常識を守って。


 ほら、おかしいでしょ?


 どこの世界に射的で大気圏まで弾ぶっ飛ばすの?


 ここか!



「ちょっと行ってみましょうか」

「あ、あはは……うん」



 というわけで、私達は射的の店のところにやってまいりました。


 ふぅ。


 とりあえず看板に書かれているルールなんだけどねぇ、緋色ちゃんが読んであげるぅ。


 まずひとーつ。


 的は大気圏にあります(はあと)。


 ふたぁつ。


 的は半径一キロメートルの範囲内を秒間三十四回のペースで転移します。


 みぃっつ。


 的の周りには特殊な結界が張られ、対惑星級の攻撃でないと破れません。


 よぉっつ。


 この的は破壊すると即座に再生します。


 いつぅーつ。


 この的を一秒間で五回連続破壊したら景品です。


 そして景品、どこぞの世界の大陸一つ。



「……ふっざけんなぁ!」



 なんだこれ!


 無理ゲーにも程があんだろうが!



「なに荒れてるの?」

「荒れるわっ! こんなの誰がクリアできるのさ!」

「ん……あの人とか?」

「え?」



 スイが指差したのは……悠希さんだった。



「ふぅん、射的ねえ……なんか懐かしいかな」

「お前得意だったよな、射撃」

「まね」



 悠希さんの横には、臣護さんがいた。


 二人は腕を組んでいる。


 ……めっちゃラブラブか!



「久々に射撃してみようかしら」



 悠希さんはそう呟くと、店主に料金を支払った。



「よく見てるといいよ、緋色……あれが、この世界随一の射撃センスを持った人の攻撃だから」

「そうなの?」

「うん」



 悠希さんが、手を空に向ける。


 すると、その手の中にいくつもの光の粒が生まれた。


 刹那――それが空へと放たれる。


 光が軌跡を描く。


 それは直線。


 私は咄嗟に視覚を強化して大気圏を見つめた。


 そこで高速転移を繰り返す的が――貫かれた。


 それも破壊と再生がほぼ同時に行われ、その上で八十七回も命中した。



「……えー」



 ファンファーレが辺りに響き渡る。



「あら、案外腕は鈍ってないわね。臣護、大陸ですって」

「まったく、そんなもの手に入れてなんになるんだか……誰かに管理丸投げするか。皆見あたりでいいな」

「そうね」



 ……つか。


 すげー。


 《顕現》無しでもあれって、そんだけ。



「臣護もやってみたら?」

「阿呆、俺は剣しか使えない。お前もよく知ってるだろ」

「まあね、言ってみただけ」

「ったく」



 しかしあの二人、ほんと仲いいんだなー。



「この世界でも屈指のおしどり夫婦よ」



 私の考えを呼んだかのように、スイが教えてくれた。



「へえ……」

「で、その娘が来たわよ」

「え?」



 スイの視線を追う。


 その先で、人混みの中から出てきたのは……。



「小夜?」



 え、あれ?


 小夜って……。



「あの二人の娘さんなの!?」

「知らなかったの?」

「これっぽっちも!」



 おどれーた。



「お母さん、お父さん……いつまで遊んでいるんですか、講師の巡回当番でしょう?」

「ん、そうだったか」

「そういえばあったわねー、そんなのも」

「はあ……サボらないでくださいよ。お二人とも、もう立場のある人なのですから」

「小夜はお硬いわねえ」

「誰に似たんだか」

「……」

「……」

「なんだよ?」

「いえ、なんでもないわ」

「なんでもありません」



 ……とりあえず仲のいい家族ってのは分かった。



「それじゃ、戻るとするか……小夜も少しは休憩入れたらどうだ。ほら、丁度そこにクラスメイトがいるみたいだし」



 そう言って、臣護さんがこちらを見た。


 う、気付かれてたんだ。


 ってそりゃそうか。


 あの人から隠れられるわけないよね。


 なにせエリスさんと同格だし。



「……私は」

「ほら」



 なにか言いかけた小夜の背中を臣護さんが押す。



「……まったく、余計な気遣いを」

「親って言うのはそう言うものよ。それじゃあね」



 臣護さんと悠希さんが去っていく。


 残されたのは、私とスイそして小夜だった。


 なぜかスイが不満そうな顔をしているのだが、どうしてでしょうか?




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