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普通の一日はっ!

 うーん。


 なんといいますか、壮観ですなあ。


 はっはっはっ。


 私がいるのは、巨大な火口を再現した教室の一つ。


 辺りで溶岩が吹きあがる中、頭上ではいくつもの影が飛び交っていた。


 赤い霧を従える茉莉。


 漆黒の爪翼をひろげたスイ。


 美しい弓を携えたエレナ。


 獣の爪牙を備えたアイリス。


 普段と変わらない、けれど確実に違う質の小夜。


 五人が相対するのは……ナユタだ。


 白銀の三対六枚の翼をはばたかせたナユタは、平然と五人と相対していた。


 あの五人相手に平然としてるとか、どんだけだよ。


 思わず苦笑が浮かぶ。


 ちなみにこれは、喧嘩とか、なにか問題が起きたわけではない。


 模擬戦というやつだ。


 私以外の特別クラスの皆が《顕現》を使いこなせるようになったということで、一度お互いの想いをぶつけあうことになったのだ。


 まあ、平和なものですよ。



「いつも、いつも……どうして担任の私の言うこと、少しも聞いて、くれないの……!」



 平和な……もの、ですよ。



「つかさぁ、私ってなんかいまいち目立たないのなんで!? あんたら出番とりすぎ!」



 平和な……もの……。



「あなた達私のことを腹黒だとか毒舌だとか、私にだってピュアなところはあるんですからね!?」



 平和な……。



「前にも言ったが私だって繊細さの一つくらいは持ち合わせている! 誰か野蛮だ!」



 へ、へいわ……。



「一人静かにしていたいというのに貴方達はどうしていつも私のことを巻き込むんですか!」



 平和って、なんだろう……。


 皆、日々の鬱憤が出ちゃってるよ……。



「そんな不満を私にぶつけること、ないと思うんだけどっ!?」



 ナユタの悲鳴はすごくもっともとだと思う。



「気の毒に……」

「そうですね」



 私と、そしてソウは溶岩に浮かぶ大きな岩に座りこんでいた。


 手にはペットボトルのお茶。


 ずずずー。


 ふぅ、溶岩で飲むお茶はまた格別だね!


 おっとペットボトルが溶けそうだ。



「それにしても、やっぱりナユタは強いねえ」

「ええ」

「うーん……実際、ナユタってこの世界でどれくらい強いの?」

「そうだねえ、どれくらいだろ?」

「……っ!?」



 いきなり後ろから首に腕を回された。


 振り返ると、そこにいたのはツクハだった。



「ちょっ、ツクハいきなり抱きつくとかそれ誰得って私得!」

「うーん、緋色って抱き心地がいいんだね?」

「え、そう?」

「うん、抱き枕にしたいくらい」

「いつでもどこでもあなたの抱き枕になりましょう!」

「あはは、そっか」



 あっさり流された!?


 しょぼーん。



「それで、ナユタの強さだけど……そうだなあ、大体十番目前後ってところかな」

「そうなの?」



 十番目かあ。


 意外、そんなに上なんだ。


 ……あれ?


 なんか違和感。


 どうして私、意外に感じたんだろ。


 だってナユタなら普通に十番目くらいで不思議はないのに。


 それなのに……どうし`_‐-〟_/⁻`_‐あの〟_‐‐程〟_/⁻`⁻度,-〟‐_’ ‐_/の‐,-〟‐_’‐-/‐‐塵‐,-〟屑‐が_’‐’-__-‐′‐,-〟‐_’‐-/‐‐⁻`_そ,-〟‐_’‐ -んな_‐‐_/‐‐-_‐‐高〟_/⁻`_‐位‐〟_/な⁻`_′の‐,か/‐‐⁻。



「――ッ」



 思考に突如混じったノイズ。


 頭の芯を貫かれるような激痛に、私は表情を歪めた。



「緋色?」



 ツクハが心配そうに私の顔を覗き込んでくる。



「あ、ごめ……なんでも、な――」



 ‐-‐‐〟所詮_/⁻`⁻, _/‐‐-/‐‐‐,-〟‐塵屑_’‐-/を‐‐‐,- 〟_/⁻`■■_‐〟_‐‐〟_した/〟‐_’塵‐’-_‐‐屑‐以下‐‐-_‐‐〟_/⁻`_だろう‐‐〟_/⁻`_′‐そ,-〟,れ-〟_-‐′‐,-が〟_‐-_‐どれ‐_/‐‐-‐‐`程_の‐_-‐⁻-〟,価値を-〟_-‐′‐,-持〟‐_`つ_‐-/‐‐⁻の⁻’‐-/だ‐‐⁻ろう`_,-〟‐_か’‐ -_?



「っ……」



 頭が割れそうだった。


 けれど心配はかけたくなかったから、それを必死に隠す。



「緋色……」

「ナユタってやっぱり凄いんだね!」



 必死に明るい声を出す。



「いやぁ、さすがっていうか……《顕現》ねー私とは段違いですなあ」



 あっはっはっ、とか笑って見せる。


 う……ツクハもソウも、疑うような心配するような目を私に向けている。


 そんな目でみるなよぅ。


 ……隠させてよね。



「ねえ、緋色?」



 ツクハが私のうなじの辺りをそっと撫でた。



「大丈夫……守ってあげるからね」

「……ツクハ?」



 すっ、とツクハが私から離れる。



「さて、と」



 にやりとツクハが笑う。



「そんじゃ、私もちょっと混ざってこようかなー。皆の成長具合を確かめてあげよう!」

「え」



 ツクハさんが白いドレスを纏い、その背に黒い二対四枚の翼が広がる。


 美しい、とそう思った。


 でも、それ以上に思ったのは……やべえってこと。


 だって明らかに想いの圧力が……うん。


 その後。


 まあ言うまでもないでしょうが。


 皆、フルボッコにされてた。


 南無!



「うー、ツクハさんってば、少しは手加減してくれてもいいのに」



 不満げにナユタが呟く。


 私とナユタ、ソウの三人は一緒に帰っていた。



「あははー、とんでもなかったね」

「そう、とんでもないの、あの人は」



 ナユタが大きな溜息を吐いた。



「なにせ、エリス母さんといろいろタメ張れる人だしね……あ、臣護さんとライスケさんは抜いてだけど。あの二人は別枠だから」

「うん、分かるよ」



 よく知ってますとも。


 あの二人が規格外だってことはね。


 なにせあの時の私ですら、あの二人はちゃんと見分けられるくらいの――と。


 この考え方はやめよう。



「そんな人が軽い気分で模擬戦に参加してこないでよ、もう」



 ナユタが唇を尖らせる。


 ううむ、かわいーなー、もう。



「勝てなくて拗ねてるの?」

「拗ねてないよー」

「拗ねてるじゃん」



 ええ、もうこれは完璧にヘソ曲げてますね。



「ソウが力を貸してくれたら勝てるかなー?」



 ふと、ナユタがそんなことをこぼす。



「え、ソウが?」



 あれ、でもそれってどういうこと?


 《顕現》においては、数って意味ないもんね?


 そりゃ想いを摩耗させるという点ではなくはないけれど……基本的に、数に意味がないというのは基本だ。



「ソウの《顕現》は特別だからねー」

「そうなの?」



 ソウを見る。



「……私の想いは、担い手の力になりたい、ですからね。己を純化たる《顕現》においても異質なものなのです。すなわり私の《顕現》は限定的な《真想》なんですよ、それも担い手へと付与される」

「……?」



 よく分からん。



「つまり、ソウは人の《顕現》をさらに強くさせられるイレギュラーなの。それさえあれば私だってツクハさんにも勝てるかな、って」

「かもしれませんが……私の担い手は主のみ。いくらナユタと言えど、私は使えませんよ」

「む、分かってるけどさ」



 不満げにナユタが頬を膨らませる。


 そんな様子に、ソウが苦笑を浮かべた。



「……二人って、なかいーねー」

「そりゃまあ、私が生まれた時からソウは私と一緒にいてくれているし」

「生まれた時から?」

「そうだよ。ずっと、側にいてくれたんだ」



 ナユタが笑う。



「だから私にとってソウは、お姉ちゃんみたいなものかな」

「……」



 おや?


 おやおや?


 なぜソウさんは今顔をそむけたのでしょう。



「ねえソウもしかして恥ずかしい? ねえ、恥ずかしいの?」

「え、そうなの、ソウ?」

「……」

「ほらこっちに顔向けなよソウちゃーん? 顔が赤くなってたりするんじゃないのー?」

「私も興味ある。ソウが顔赤くするなんてレアだよレア!」

「――斬りますよ」

「「すみませんでした」」



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