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登校はっ!


「ハーロー!」



 ばーん、と特別クラスの扉を突き破る。



「やあやあ皆さんこんにちはアーンドあいらぶゆー! 今日もこの時間がやってまいりました! そう! この私、棘ヶ峰緋色ちゃんのライヴの時間だぜ! きゃは! ああ感じる皆の視線! この私の身体の芯まで熱くする! そう、これが、エクスタスィー!」



 ……。


 …………ふう。


 賢者モード。


 じゃなくって!



「一つだけ言わせてほしい!」



 私の声が教室に響く。


 そう。


 私だけしかいない教室に。



「どうしてこう言う時に限って誰もいねぇのさぁああああああああああああああああ!」



 ちっくSHOW私が折角勇気を振り絞って皆にハッピーを配りに来たっていうのにこの仕打ち!


 もうゾクゾクしちゃ――ビクビクしちゃ――プンプンしちゃいますよ!


 失礼な話ですわ奥様。


 最近の若い子ときたらまったくもー。


 しっかたねー!



「……もうこのテンションいっかぁ」



 地面にそのままへたり込む。



「うぇっへっへっ……」



 力ない笑みをこぼれた。



「空回りですなー」



 そして、溜息を吐く。



「……まあ、あれだ。予行演習だって」



 心臓の鼓動はひどく早い。


 背中はびっしり嫌な汗をかいていた。


 喉はからからだ。



「うわあ……ちょー、やべー」



 このくらいでなんなのさこの様は。


 だっらしねえやつだなあ、おい緋色ちゃんよぉ。


 ぴんと背筋伸ばしてさぁ。


 地面に二本の脚つけて。


 それで、しっかり立ちなってば。



「っ、よし!」



 びしっと立ち上がる。


 別に膝なんて震えてない。


 別に視界がかすんでることもない。


 別になんにも怖くない!


 そう、だって私は棘ヶ峰緋色だから!


 ……うむり。



「よっしゃばっちこーい!」

「おはよう」

「ひゃあああああああああああああああああああああ!?」



 ちょっ、おまっ。


 なにすんねん!


 とか心のなかでつっこみながら窓際まで後ずさる。



「え……」



 教室の入り口に立っていたのは茉莉だった。


 彼女が目を丸くする。



「あ……やほー、茉莉っち」



 きゃぴーんとウィンクとかしてみたり。



「……緋色?」

「ども、緋色ちゃんデスヨ?」

「……もう、大丈夫なの?」

「はて、大丈夫とは、一体なにがですかな?」



 最近物忘れがひどくてのぉ、みたいな。


 そんな感じでとりあえずすっとぼけときましょー!



「……よかった、緋色」



 ふ、と。


 茉莉が微笑む。



「お……おおぅ?」



 それは、花の咲くような笑顔だった。


 今まで見たことがないような、茉莉の満面も笑み。


 うわ、なんか見てたら顔、赤くなりそう。



「心配、してた」

「そりゃ、ども……あざす」



 ぺこりと頭を下げる。



「うん……大変だったよね?」

「はてさてどうでしたかね」



 必殺技、すっとぼけ発動!


 ででん!



「……ごめんね、あの時は、側にいられなくて……守ってあげられなくて」



 茉莉の眉が下がる。



「ああ、いいっていいって、そんな顔しないでよ」



 なんだか見ているこっちが悪いことした気分になる。



「謝ることじゃないよ」

「でも私、担任なのに……」



 そーいえばそーゆー設定でしたねえ。


 それは素でたまに忘れるよね。



「茉莉が私のこと心配してくれて、私のこと想ってくれてたのは、よーく分かったから」

「……でも」

「もういいのっ」



 くしゃりと茉莉の髪を撫でる。


 おお、すげーいい触りごち。



「そうして茉莉が私の為に悲しんだり喜んだりしてくれる。それだけで十分すぎるってば」

「……そう?」

「そうですとも」



 大きく頷く。



「……そっか……なら、もうこれ以上は言わない」

「そうしてください」

「あ、それと……オリーブもだって」

「え?」



 次の瞬間、どこから出てきたかもわからない紐が茉莉の髪をまとめた。


 彼女の雰囲気が変わる。


 すぐに、オリーブに変わったのだと気付いた。



「緋色」

「お?」



 いきなりオリーブに抱きしめられる。


 っていっても、身長的な問題でなんかぶら下がる見たいな……え、なにこれ可愛い。



「……良かった」

「あの、オリーブさん? そういうこう接触といいますかアレなコレは大変嬉しいのですが、ちっとばかしこうね?」



 しかしオリーブってば……茉莉の身体でもあるんだけど、軽いなあ。


 それに柔らかいっす。


 ほんとありがとうごっざいました。



「緋色……あなたはとても強いのね」

「えっと、と言いますと?」

「隠さないで」



 オリーブが私から腕をほどく。


 あ、もったいな――なんでもないです。


 彼女は私の頬に手をあてた。


 その表情は、慈母のように優しげだった。



「感じたの、あの時……あなたがどんな状態だったのか……あなたが押しつぶされて、苦しんでいるのが……」

「っ……」



 息を呑む。



「ど、うして……」

「私は歪みよ……だから、あなたの歪みも、人一倍強く感じる。理解できる……」

「歪みって……」



 その言葉は、驚くほど私の中にすとんと落ちた。


 ああなるほど。


 確かにあの時の私は、歪みと呼ぶできなのかもしれない。


 しかしオリーブまで歪みというのは一体……。



「よかった……本当に、よかったわ」



 オリーブは、私を安堵させるような微笑を浮かべた。



「だからもしかしたら、もうあなたは立ち直れないんじゃないかと思った……あなたの想いは二度と元には戻らないんじゃないかって……本当に、心配したのよ?」

「……うん、なんか、ごめん」

「いいのよ……戻って来てくれたのだから」



 感極まったように、オリーブは私のことをもう一度抱きしめた。



「私はとにかく、それを伝えたかったの」

「……ありがと、オリーブ」

「いいのよ。あなたは私や茉莉にとって、大事な人なんだから」

「なんかその響き、くすぐったいな。大事な人ってどういう意味?」

「それはもちろん――」

「え、緋色?」



 その時、新しい声が聞こえた。


 そちらを見ると、ナユタが教室の入り口にいた。


 ナユタだけじゃない。


 ソウ、アイリスにスイ、エレナ、小夜までも。



「緋色!」



 スイが私に駆け寄ってくる。



「もういいんですか?」

「うん」



 エレナにもう大丈夫だと笑って見せる。



「……緋色」

「アイリス……」

「流石だよ、お前は」

「なにそれ」



 いきなりすぎる発言に苦笑する。



「流石ってなにが?」

「さてな」



 ふっ、とアイリスは笑う。



「案外、けろりとしているんですね……」

「そりゃもう! なんなら確かめてみる? 肌と肌を重ねあわせて……」

「結構です」

「うぎゃ!」



 小夜にばっさりと切り捨てられる。



「って、あ、それでオリーブ、今なに言いかけたの?」

「……」

「おろ?」



 もうそこにオリーブはおらず、茉莉に戻っていた。



「オリーブ、また今度、だって」

「えー?」



 なんか言いかけてたよね?


 なにすげえ気になるんだけど。


 ちょっとこれが噂に名高い生殺しってやつ?


 いやん!


 オリーブのいけずぅ!


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