暴力はっ!
この学園の教師陣は化物か。
空いた口が塞がらないとはこのことですね。
私は現在、ナユタに案内されるままに武器武術クラスにやってきております。
このクラスは武器の扱いとかいろいろな武器について教えてくれるクラスだそうで、他より魔術の才能が不足している人が所属しているらしい。
魔術が使えないから侮るな、とはナユタの言葉だったけれど、まったくもってその通りでございました。
「ほら、さっさと防がないと軽くぶった切っちゃうからね」
私達がクラスを訪れた時には、地獄絵図が広がっていた。
ちなみに、もちろん扉を開いたらそこは――状態でした。
ただし今度は草原じゃなくて、無数の巨木が生えている樹海の中だったけれど。
ほんとなんでもありだなここ。
「今の動き、最低だよ!」
そろそろ私の視線の先でなにが起きてるかを説明しよう。
ちっちゃい女の子が真っ赤なチェーンソーみたいに刃が回転してる二メートルくらいの大剣を軽々と振り回し生徒達を薙ぎ飛ばし、さらに一緒に真っ赤な竜っぽい生き物やでかい鳥みたいな生き物や頭三つある巨大な狼とかが生徒を追っかけまわしている。
あれって生き物――じゃないな。有機液体金属で出来てるっぽい。
それにあの女の子の持ってる大剣も……ていうことは、この有機液体金属全部あの子が操ってるの?
どんだけ操作上手いんだよ。
ただ大量に操って津波にして相手を押し潰すのとはわけが違う。
まるで本物の生き物のように動かすなんて、そんなの出来るもんなのか?
あ、今生徒の一人が女の子の大剣で切られて地面にたたき落とされた。
……え、死んでね?
大丈夫なのだろうか……大騒ぎしていないのだから多分大丈夫なのだろう。
多分。
血とか出てないしね?
大丈夫……だよね?
……気にしないことにしよう。
「スピード上げるよ!」
女の子は言って、巨木を駆け上り、巨木と巨木の間を飛び交う。
忍者か!
それについていくように、生徒達が木々の間を飛ぶ。
中にはなにもないはずの空中を走ってるやつまでいる。あれ魔力で足場作ってるのか。
ついてくる生徒達に向かって、女の子が右手を突き出した。
すると人の頭サイズの球体があらわれる。
それが、弾けた。
弾けて出来た無数の礫が生徒達に襲いかかる。
生徒達は慌ててそれぞれが持っている剣や槍、斧、盾などを構えるが、半数が防御しきれずに撃墜される。
あれってショットガンみたいなもんですよねえ?
当たったら普通無事じゃありませんよねぇ?
……気にしないってば!
私、気にしません、絶対に!
これは現実からどれだけ上手く目を逸らすかの戦い……。
魔法少女ジェノサイド緋色、始まります!
おっと勢い余って変な告知しちまったぜ。
「とりあえず、及第点かな」
跳びまわりながら女の子がそう言うと、残った生徒達の顔に安堵の色が浮かぶ。
「それじゃ、どうせだしいけるとこまでいってみようか」
生徒達の顔が青くなる。
おもしれー。すげえな、人間ってああやって顔青くなんの?
辺りにいた有機液体金属の生き物が霧散する。
さらに、女の子の持っていた大剣も同じく。
そして生き物たちや大剣が分解することで生まれた赤い霧が女の子の身体に吸い込まれた。
おお?
なんかやばげなオーラ出てるよ?
生徒達が「俺、死んだな」って顔してるよ?
あれが絶望の表情か……。
女の子の手から、赤い爪が伸びた。
「行くよ!」
次の瞬間、生徒の一人の前に女の子の姿があった。
早――!?
え、今なに……魔力の動きは感じなかったし……も、もしかして、純粋な身体能力っすか!?
ありえねー。
その生徒はいきなり現れた女の子にびっくりして……びっくりしている間に殴り飛ばされた。
……弧を描いていく生徒の身体は、見事に脱力していた。
あ、あれ死ん――き、気にしないぞぅ!?
「ほらほらほら、遅い遅い! 止まって見えるよ!」
あ、ありのまま今おきていることを話すぜ!
女の子が生徒の目の前に次々に現れては遠慮なく抵抗もさせずに殴り飛ばしてるんだ。
そう、小学生でも通じそうな可愛らしい女の子が、だ!
こりゃあいったいどういうことだい! あたしにゃ分からないよ!
「元気だなあ」
「そうですね」
ああ、私の隣の二人は完全に観客ムード!
ちくせう!
こうなったら私だって!
「たまやー!」
「不謹慎だよ、緋色」
「ええ!?」
怒られんの!?
え、怒られんの!?
これ駄目?
……駄目なのか。じゃあ仕方ない。
「見ろ、まるで人がゴミのようだ!」
「確かにね」
「ええ」
同意されると同意されるでなにか虚しいものがあると感じてしまうのは私だけか……っ!
とか馬鹿なことしているうちに生徒は全員機能停止。
立っているのは、女の子一人。
完璧な虐殺です。御満足ですか?
「ふー」
女の子がいい汗かいたとでも言いたげなイイ顔で深呼吸をする。
ああ、満足そう。
『あれ?』
女の子がこっちを見た。
「あ、ナユタだ」
「はろー、レーさん」
「その呼び方やめてってば」
苦笑しながら、女の子が私達に歩み寄ってきた。
若干警戒してしまう私は悪くないと思うんだ。うん。
「あれ、ナユタ。こっちは?」
「棘ヶ峰緋色。新入りだよ。それで緋色、この人は麻述佳耶さん。武器武術クラスの教師」
「あ、教師だったんだ。へえ、こんな小さ――」
「うん?」
「――……」
説明しよう!
なぜ私がいきなり黙ったかと言えば、私の首筋に赤い刀があてられているのだ!
もちろんそれを手にしているのは他でもない佳耶先生……いいや佳耶様だ!
ああ、この人は某国家の錬金術師な人と同じタイプでありましたか。
「なんでも、ありません」
「そ」
気付けば首にあてられた刀は消えていた。
「それで? 新入りがうちに所属するなんて話は聞いていないけど?」
「うん。そうなんだけど、特別の方に入ってるから、それで見学に来たんだよ」
「ああ……そういえばそういう特権あったね。特別クラスの人ってあんまうち来ないから忘れてた。個人的にはよく遊びに来るんだけどさ」
「この間はありがとねー、いい運動になったよ」
「こっちこそ」
和気あいあいとしやがって。
……ごほん。
私を差し置いて、和気あいあいとしやがって。
…………ごほん。
寂しいじゃねえかこのやろう私を差し置いて和気あいあいとすんじゃねえよう!
「にしても、見学ねえ……棘ヶ峰さんはなにか武器使ったり、武術やってたりする?」
「あ、基本的には一通りできますです」
へんな喋り方になっちまったんだぜ。
ちなみに武器の扱いと武術は試練の中で必死に覚えました。
「例えば……」
収納空間から有機液体金属を少し取り出し、それを投げナイフに変えて佳耶先生に投擲する。
我ながら会心の攻撃だった。
常人なら気付かないうちに死んでいるだろう。
……だけど。
「ふうん」
いつの間にやら佳耶先生が手の中で私のナイフを弄んでいた。
「ナイフの扱いはそれなり。動きもまあまあだね」
佳耶先生の手がナイフを握りつぶした。
強度的には鋼鉄なんて目じゃないくらいなんですけど……ああもういいや。
「ちなみに、学園世界に来る前は普通の学生で、今は学園世界二日目だから」
横からナユタが補足すると、佳耶先生が目を細めた。
「へえ……特別クラスってのは伊達じゃないか」
あ、やべ。
興味持たれた。
こういう人に興味持たれるのって、あれじゃね?
しごきフラグ。
「それじゃあ、私は次のクラスに行きますね、佳耶さん! いい授業でした!」
敬礼して、私はナユタの腕を掴む。
「あ、ちょっと、そんな急がないでも」
「お世話様でしたぁあああああああああああああああああああ!」
引き留めようとする佳耶先生から逃げるように――まあ逃げてるんだけど――ナユタをひきずって走り出す。
なんかもう次のクラス行きたくねえええええええええええええええええ!
「さて、それじゃあ次は総合技術クラスにでも行ってみようか」
私に引きずられながら、ナユタがそんなことを言う。
……次、かあ。
溜息が零れた。