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最強とはっ!

 何人かの人間が集まっていた。


 皆、この世界で大きな役割を持った面々だ。



「――先日の件だけど」



 ウルが切り出す。



「ひとまずシューレの死亡と虫の群れの全滅で一応の解決、ということでいいのよね」



 わざわざそれを訪ねるということは、やはり彼女も不安なのだろう。


 本当に、終わったのか。



「……そうなんでしょうか?」



 疑問を口にするのはメル。



「問題は、多く残ったと思います」

「そうだな」



 ヨモツがそれに同調した。



「特に大きな問題は、二つ」

「フュンフ……あの娘達と、そして棘ヶ峰緋色だ」



 臣護が引き継いで言う。



「フュンフとやらの方だけど、まさか臣護が負けるなんてね」

「ちょっとどころじゃなく、びっくりだったかも」



 悠希と佳耶の言葉に、誰もが同じ意見を持った。


 なにせ、《真想》を使う二人が敗北するなど、想定外にも程がある。



「……あれは、こういう言い方はなんだけれど……化け物だ」



 ライスケが苦々しい表情で言う。


 彼が化け物なんて単語を使うのだから、よっぽどだ。



「《顕現》の段階で、既に俺達の《真想》と渡り合ってた……一個人の想いで、俺や臣護、そして皆の想いを超越していたんだ」

「ありえない、と言いたいな」



 アリーゼが大きな溜息を吐いた。



「そうね……それはつまり、《真想》すら出来ない私達では、なんの役にもたたないってことだものね」



 ウィヌスが肩を竦めた。



「……一人がそうなのだ……他の御同輩方も同等の想いを持っていると、そう考えていいだろうな」



 イリアが冷静に判断を下す。


 ……まあ、そうよね。


 ナユタと瓜二つの、あの娘達は……一体どれほど……。



「というより、《顕現》でそれだってことはさ、《真想》じゃどうなるわけ?」

「……」



 ナンナの問いに、臣護もライスケも口をつぐむ。


 語りたくもない、と。



「そうなると……現状、打つ手はないね」



 私の言葉に、皆が一斉にこちらを見た。



「ツクハ……お前に一つききたいことがある」

「なにかな?」



 臣護の目つきは鋭い。



「……エリスのことだ」

「……」



 まあ、そうなるわよね。



「あいつは今なにをしている? 俺達はあいつを信頼している、だから今まで口出しはしなかった……だが、もういい加減教えてもらっても構わないか」

「……」

「エリスはなにを考えている? どうして姿を見せない?」



 それは、この場にいる誰もが抱いていた疑問だろう。


 彼女さえいれば……と。


 そう。


 確かにエリスさえいれば、どうにかなったのかもしれない。


 だが……私は問いへの答えを持ってはいない。



「私にも、エリスの気持ちはなんとなくわかる」



 辛いんだろう。


 悲しいんだろう。


 でも……私に分かるのは、そこまでなのだ。



「細かいことまでは、私も知らないの……これは本当」

「……そうか」



 それきり、臣護は目を瞑って黙り込んでしまう。



「――化け物、と言えばあれやな」



 ツィルフが口を開く。



「緋色もなかなかの化け物っぷりやばらぶばっはぁっ!」



 言葉を言い終わる前に、ウィヌスとナワエがツィルフの身体を消し飛ばした。



「言葉が過ぎますよ、ツィルフ」

「確かにあれは異常だったけれどね……彼女によってこの世界が助けられたのは事実。それに……あなただって知っているでしょ、彼女の現状」



 その言葉に、誰もが口を閉じた。


 緋色は今……。


 いや、今はそれはいい。


 考えたら、なんだか……苦しいから。



「……一つ、推測が出来る」



 私はあの緋色の状態に、ある憶測を立てていた。



「緋色のあれは《真想》であることは、皆なんとなく分かっているよね」

「まあ、な」



 ライスケが頷く。


 同じ域にいる彼や臣護が、一番強くそれを感じていたのだろう。



「《真想》は、己にとっての大切な人達の想いを束ね、背負う……己を信じる人達を信じ、より高める……そういうもの。それにおいて、あれだけの力を持ったということは……どういうことかな?」

「もったいぶるのね」



 リリシアがくすりと笑う。



「皆案外鈍いね。それとも複雑に考えすぎなのかな? シンプルにいこうよ……単純に……そう、足し算みたいなものだって。一足す一は二……それを超えたいなら、一足す二でも三でもすればいいんだよ」

「……つまり、お前がいいたいのはこういうことか?」



 臣護はどうやら気付いたらしい。




「――棘ヶ峰緋色は、俺やライスケなどより多くの想いを束ねていたと?」




「うん……それも、器となった緋色の人格を塗りつぶすほど大量の想いがね」

「ありえないだろ、それは」



 臣護が鼻で笑う。



「そうだな……《真想》は想いの繋がりだ……棘ヶ峰にそれほど多くの繋がりがあるのか? 想いの繋がりは、そう簡単なものじゃない」

「……」



 ライスケの言うことももっともだ。


 だが、常に例外というものはある。



「ある世界の、原初の神と呼ばれた存在。定められた存在意義から外れ暴走し、異質な能力を得た……それは理に反する変化であった」

「……」



 ライスケ達がぴくりと反応する。



「世界樹……世界を押しつぶしながら永劫成長し続ける、未だ私達ですらその正体がつかめない、世界という枠ではないなにかで存在するもの」

「……」



 臣護達がぴくりと反応する。



「それに、エリス。明らかに他とは一線を画するもの……他のなによりも大きな特異」

「……」



 残りの者達がぴくりと反応した。



「そういった前例はある……ならば、緋色もまたそうである可能性は?」



 十分にありえると、私は考える。


 なぜならエリスが彼女を選んだのだから。



「あらゆる想いに繋がるもの……私は緋色を、そう仮定する」



「つまりお前はこういうんだな。棘ヶ峰緋色の《真想》とは、ここにいる全員の想い、それに俺や、ライスケの《真想》すら飲み込み……もちろんエリスすらも飲み干した……ソレにとって文字通り俺達なんて比較対象どころか塵屑に劣りかねない……そういう存在だと?」



「その通り。異論はあるかな?」

「……」



 ない、みたいだね。



「緋色についてはこれくらいかな……他になにか話のある人はいる?」



 ……うん、どうやらないみたいだね。



「それなら、解散にしようか」



 皆がいなくなった空間で、私は一人考える。



「――エリス、出てきたら」

「よく気付いたわね」



 まるで蜃気楼のように、どこからともなくエリスが現れる。


 いや。



「影法師、か」

「ええ」



 そこにあって、そこにないもの。



「……でも私は、あなたに触れられるよ」

「そうね……こと私への影響力において、あなたはずば抜けているから」

「うん」



 エリスに歩み寄る。


 そして――。


 ――その頬を、思い切り張った。


 乾いた音がする。




「エリス……あなた、緋色になにを求めているのかしら?」




「……」

「答えるつもりはないということ?」

「そうね……その通りよ」

「はっ」



 ……久々に、エリスに苛立つ。



「私はね、エリス……あなたのことを応援しているし、守ってあげたいと思う」

「感謝しているわ、姉さん」

「でもね」



 エリスを睨みつける。



「緋色を傷つけるというのなら、私はあなたの敵よ?」

「……ええ、知っているわ」

「だったら話は早い。これ以上、あの子を苦しめないで……お願いだから」

「……」



 エリスは儚げに微笑む。



「……私は、あの子のためにならどんなこともすると、そう決めたのよ」

「エリス!」

「ごめんなさい、ツクハ……私はあなたの敵みたい」




 ――そしてエリスは、姿を消した。








最強の称号がエリスから緋色ちゃん(超越ver)に移行しました。

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