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奈落からの目覚めはっ!


「……これでやっと、スタートライン」



 空中で膝を抱えながら、私は眼下の光景を見守ってた。


 アイリスの姿が変わる。


 彼女の強さを追い求めた《顕現》は、ついにその姿を得た。


 黒い剣のような爪。


 その背からは無数の獣の尾のようなものが後ろへと流れていく。


 美しき黒。


 そう思った。


 ……だが、それでも。


 なんともどかしいことか。


 この身が影法師でなければ、今すぐにでも皆の元に駆けつけたい。


 だが、できない。


 そしてなにより現状を生み出した遠因は、私にあるのだから。


 それでどんな顔をして出ていけばいいと言うのか。


 ……そう。


 排撃の具現たる“アレ”は私のことを笑えると評した。


 まったく、その通りだろう。


 自分が脚本を描いた舞台に自分で胸を痛めるなど。



 この身が変わるのを感じる。


 私が純化されていく。


 強さを追い求めた私の、ここが極致であると。



「緋色――!」



 動く。


 身体が。


 緋色へ手を伸ばす。


 そして届――かなかった。



『舞うな、塵屑。目障りだ』



 衝撃と同時、私は吹き飛ばされていた。



「ぐ……」



 駄目、なのか。


 私の想いはお前には届かないのか、緋色……!



『まったく、屑共が……調子に乗るなよ。気が変わった、今ここで全てを掃除してやろう』



 緋色の翼が大きく広がる。



「緋色!」



 誰かが、緋色の名を呼んだ。


 違う。


 皆が、だ。


 ナユタが、スイが、エレナが、小夜が、オリーブが、ツクハさんが、緋色へと立ち向かう。


 ならば――私とて遅れはとれない。


 私もまた、緋色に相対する。



『まずは貴様らか』



 私達の身体が、消し飛ぶ。


 圧倒的な影響力。


 緋色が邪魔と想った、それだけで私達の想いが押しつぶされていく。


 それでも、逃げない。



「緋色! 戻ってくれ!」



 いつものお前に……。


 どうか、お願いだから。



「緋色!」



 皆がお前の名を呼んでいるぞ。


 いいのか、このままで!?



『屑の音が耳障りだな』



 緋色が、ゆっくりと腕を持ち上げる。


 そして――。


 その腕に――。


 ひびが入った――。



 濁流の中で想う。


 ――嫌だ、私は皆を傷つけたくなんてない。


 ゆっくりと、私の想いが流れを断ち切る。



 異常だった。


 あれが緋色だなんて、信じられない。


 私達を屑と呼ぶ、あれはなに?


 それに緋色が言ったこと。


 エリス母さんのこと……あれはどういうことなの?


 困惑する私の視線の先で、さらなる異常が起こっていた。


 彼女の腕にひびが入ったのだ。



『これ、は……』



 緋色の腕からひびが広がる。


 それはあっというまに彼女の全身へと広がり――。


 砕けた。


 舞い散る想いの残滓。


 その向こうに、緋色の姿があった。


 いつも通りの、緋色が。



「緋色っ!」



 咄嗟に私は駆け出していた。


 緋色のことを抱きしめようとして――彼女異変に気付く。




「……いやだ……」



 なにをしたの?


 私は、なにをしたの?


 なにかが私の中に流れ込んできて。


 全てが私の想いを押しつぶして。


 私が、私じゃなくなって。


 でも、あれは私で。


 全部と混ざり合った私で……。


 それで……それ、で……。


 強大になったんだ。


 私は。


 目に移る全てが屑だった。


 大切な、皆なのに。


 なのに、それすらも……さっきの私は、同じ塵屑としか見ていなかった。


 なにそれ。


 おかしいよ。


 だって……そんなわけないのに。


 誰も絶対、屑なんかじゃないのに。


 どうして私はあんなこと……。


 ――ううん、そんなことは、まだいい。


 なによりも、どうして?


 どうして私は――シューレを殺したの?


 そう。


 そうだ。


 そうだ……!


 私は殺してしまったんだ。


 シューレを。


 あの泣き叫んでいた少女を。


 助けてくれと言っていたのに。


 ごめんなさいと謝っていたのに。


 それを笑って、私は殺した。


 痛めつけて、ぼろぼろにして、破壊した。


 なんで私、あんなこと。


 あんなこと……。


 どうしよう。


 殺しちゃった。



「殺しちゃったんだよ……」



 まだ、辺りに残っている。


 シューレだったもの。


 赤黒い肉片が。



「あ、あ……」



 頭を抱える。


 おかしくなってしまいそうだった。


 私はなに?


 一体、どういうことなの?



「あ……あぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

「緋色っ!」



 抱きしめられる。


 私のことを抱きしめてくれていたのは、ツクハだった。


 ……ああ。


 あったかい。


 でも私は……もう……。



 そこで、意識が途切れた。


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