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奈落極点はっ!

 ――見ていた、皆が傷つく瞬間を。



「はははははははッ! どいつもこいつも邪魔邪魔邪魔! そうですよねえ! あなたもそう思うでしょう!?」



 ああ、耳障りだぞ。


 お前の声。


 お前の在り方。


 お前の……なにもかも。


 いいやそもそも、お前があるこの世界全て、わずらわしい。


 どうか、お願いだから。


 多くの者が願っている。


 お前の滅びを。


 お前の消失を、


 お前などいなければよかったのにと多くの者が叫んでいる。


 この惨劇、その狂気、この憎悪。


 ああ……混ざり溶けて意味がなくなっていく。



「さあ、踊りを続けましょう! 狂ったロンドを奏でましょう! あははっ!」



 ただ一つ。


 これだけは、私の想いがはっきりしている。


 ――お前は、嫌なんだ。


 勝手に狂っていればいい。


 勝手に破壊していればいい。


 勝手に傷ついていればいいだろう。


 だがそれに、他のものを巻き込むんじゃない。


 だからお前は――。




,-〟‐_’‐-/‐‐⁻〟_/⁻`_‐〟_‐’-_‐‐_/‐‐-_‐‐_/‐‐-‐_-‐⁻〟_/⁻`_‐‐〟_/⁻`_′‐,-〟,-〟_-‐′‐,-〟‐_’‐-/‐‐⁻〟_/⁻`_,-〟‐_’‐-/‐‐⁻〟_/⁻`_‐〟_‐’-_‐‐_/‐‐-_‐‐_/‐‐-‐_-‐’-_‐‐_/‐‐-_‐‐_/‐‐-‐_-‐⁻〟_/⁻`_‐‐〟_/⁻`_′‐,-〟,-〟_-‐′‐,-〟‐_’‐⁻_/⁻`_′‐,-〟,- 〟_/⁻`_‐‐〟〟_-‐′‐,-〟‐_’‐-/‐‐⁻〟_/⁻`_,-〟‐_’‐-/‐‐⁻〟_/⁻`_‐〟_‐-/‐‐⁻〟_/⁻`_



「――《真想》――」



, _′‐,-〟,-〟_⁻〟_/⁻`_-〟‐_’‐-/‐-‐′⁻〟-_‐‐_/_/⁻`_‐〟_‐’-_‐‐_/‐‐‐‐-‐_-‐⁻〟_/⁻`_‐‐〟_/⁻`‐,-〟‐_’‐-/‐‐‐,-〟‐_’‐-/‐‐⁻〟_/⁻`_‐〟_‐’-_‐‐_/‐‐-_‐‐_/‐‐-‐‐‐_/‐‐-_‐_/⁻`_‐‐〟_/⁻`_′‐, _/‐‐-‐_-‐⁻-〟,-〟_-‐′‐,-〟‐_’‐-/‐‐⁻〟_/`_,-〟‐_’‐-/‐‐⁻`_,-〟‐_’‐ -_‐‐_/‐‐-_‐‐〟_/⁻`_‐‐〟_/⁻`_′‐,-〟,-〟_-‐′‐,-




 紅蓮の翼が六枚、空を覆う。


 その羽の一枚一枚が、極大の力を秘めた刃だった。


 身にまとうのは歪み。


 堕ちるのは奈落の極点。あるいは万物の至高。


 輪郭が崩れ、形を失う。


 まるで蜃気楼。


 瞳は空っぽ。


 なにも見えない。


 それでも見えている。


 そうだ。


 ――お前を,-〟‐_’‐-/‐‐⁻〟_/⁻`_‐〟_‐’-_――。



「な……に……」



 シューレが私を茫然と見つめる。



「あなたは、それは……」

『目障りだぞ、お前』



 捻じれた響きの声。


 私は、シューレの目の前にいた。



「え――」

『どうした、なんだその声は、まるでただの小娘が驚いているようだぞ?』



 シューレの身体を吹き飛ばす。


 ほんの少し。


 軽く爪弾いた程度。


 だがそれは、少しばかり力を入れすぎたらしい。


 シューレの身体の大半がけし飛び、空間が断絶し、次元が爆発する。



「――」

『可愛らしいな、ああ、そして哀れだ……狂って見せろ狂人、狂わないお前に価値はないぞ? 道化らしく躍って見せろ……ほら、嗤えよ』



 すると、背後から漆黒の獣が飛びかかってきた。



『ふん……一つ、教えよう』



 なんだその動きは?


 止まって見える。



『お前の想いは、強さを求めること……なるほど、痛いほどに、胸を締め付けるほどに、それを理解できる。弱者の叫びだ、さぞかし強い想いであろう。だがしかし――』



 所詮、その程度の想い。



『塵か、あるいは屑か、どちらにせよ、とるにたらない、いと小さき想いだ』



 漆黒の獣がけし飛び。


 後には、瓦礫の中にアイリスという人間の身体が埋まっているだけだった。


 ああ、くだらない存在だ。


 構う必要もない。


 それよりも今は――。



『ああ、いやその前に』



 あれもまた、邪魔だな。


 塵以下。


 屑にもなれぬ。


 鼻につくな。


 ああだったら消してしまおうか。


 今この世界を覆う虫の中心。


 全ての虫の母……群れの頂点。


 それを……。



『さらばだ興味なき想い、それはひどく無価値だったな』



 踏み潰す。


 私というものが、虫全てを、虫の頂点を、群れの想いを踏みつぶした。


 潰したという感触もない。


 ただ、消えた。


 それだけ。


 ああ、今潰したものはなんだったか。


 石か木端か、ああ、そうか虫だったか?


 どうでもいいか。


 さあ、やっとだ。


 やっとお前を‐_’‐-/‐‐⁻〟_`‐‐-‐_-‐⁻``_′‐,-〟,-〟_-‐′。


 シューレ……終わりだぞ。



「なんなん、ですか……あなたは」



 《顕現》すらたもてなくなったシューレが私を茫然と見つめる。



「……理解できない」



 当然だ。


 塵屑が私を測ろうなどと、おこがましい。



「なんなの……あなたは」

『どうした、震えているのか? まるで小動物のようじゃないか』



 ああ、なんて期待外れ。


 もっと抵抗はしないのか?



『なあ狂人……それがお前か?』

「……」

『そうか……つまらないな』



 本当に、つまらない。



『狂えよ踊れよ嗤って見せろ傷つけるんだろ傷つきたいんだろう破壊を臨むんじゃなかったのかよなあおいローズ=シューレとやら』



 シューレの首を掴む。


 少し力を込めれば、跡形もなく消える塵屑。


 それを、そっと、優しく、慈しんで。



「い、や……」

『なんだ涙など流してお前にそんなものは似つかわしくないんじゃないのか?』

「いや、いやだっ!」

『泣くなよ、それならいっそ鳴け』



 私の翼から、羽が一枚伸びる。


 そしてシューレの肩を貫いた。



「あぁああああああああああああああああああああああああ!」

『大袈裟だが、いい鳴き声だな』



 そうだな。


 ただ貫かれただけではない。


 これは死すら快楽と思えるほどの激痛だ。


 だが、これはなんとおかしなことか。



『お前は痛みを求めていたはずだが』



 羽がさらにシューレの脇腹や太腿を貫いていく。


 ゆっくりと。


 焦らすように。


 あるいは撫でるように。



「あ、が……っ、ひ、ぅ……!」



 シューレの身体が痙攣する。



『ほら、望んでいたものだろう? もっと喜んだらどうだ?』

「い、や……許して」

『許すもなにも、私はお前を罰しているわけではない、責めてもいない……ただ、こうしているだけだ』



 さらにシューレの身体を貫く。



「ひっ、あ……やぁああああああああ! やだぁあああああああ!」

『まるで楽器だな……それなら私は指揮者か? それもいい、奏でろよ』

「ぁあああああああああああああ――ッ! やだ、もうやだぁっ! 痛いのは嫌、嫌なのぉ!」

『そうか、それで?』

「やめて! やめてやめてやめて! ごめんなさい! ごめんなさい!」



 壊れたようにシューレが叫ぶ。


 咽喉が張り裂けるほどに。



「傷つくのは嫌だ! 傷つけないから! 破壊なんていい! ごめんなさいごめんなさいごめんなさい! だからもうやめて、ねえ、やめてよぉ!」

『……そうか』



 ああ。


 これだから、塵は。



『それが狂人の狂い方か……狂うのをやめた時点で、狂人として終わりだろ、お前』



 役割すら果たせないか。


 ならいらないな。


 不必要だ。


 無価値ですらない。


 そうだった、そういえば私はお前が目ざわりで、消したかったんだよ。


 じゃあ、さようなら。



『消えてくれ』



 紅蓮の羽が、シューレの身体を串刺しにする。


 肉塊が辺りに飛び散った。


 †


 こうして、世界を襲った驚異は消えた。


 ――そうして、全てが変わり始めた。



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