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蟲共はっ!


 虫が……よくも好き勝手に暴れてくれる。


 四枚の黒い翼を広げる。



「……この学園に現れたこと、後悔させてあげるわ」



 私の愛するこの世界を傷つける?


 その愚を知れ。



「私の狂気(あい)を、教えてあげる」



 ああ、私の愛する人達。


 皆、無事でいて。


 お願いだから。


 ふと、脳裏に浮かんだのは――。



「っ、ナユタ!」

「分かってる」



 ナユタが私の言葉に頷く。



「ソウはこの辺りの虫を潰していって。私と緋色は、あそこに向かうから」

「分かりました」



 ソウの姿が消える。


 ナユタが窓を開け放ち、身を乗り出した。



「緋色、行こう」



 ナユタが私に手を差し出す。


 その手を掴む。


 私達は虫があふれ出す場所に向かって、飛び立った。


 だが、すぐに違和感に気付く。


 これは……。


 虫が、ある一定の領域から出てこないのだ。



「閉じ込められてるんだ」

「閉じ込められてる?」



 あんな虫を、一体だれが……。



「こんなことができるのは……あなた達しかいないよね」



 ナユタが空を見上げる。


 そこには二人の女性が浮かんでいた。



「ええと」



 一人は、知っていた。


 エレナのお母さんの、メルさんだ。


 もう一人は……。



「ティナ母さん」

「え?」

「私の母さんの一人だよ」



 マジか。



「はじめまして……緋色ちゃん、ですよね?」

「あ、はい。はじめまして」



 ぺこり。


 なんかすげー優しそうな人。


 ただ……メルさんのキャラが被って――。



「……」

「ひぃっ!?」



 なに今の笑顔!


 めっちゃゾクッとしたんだけど!



「なにか?」

「なんでもありませんマム!」



 ぴしっと敬礼を決める。



「……でも、二人が閉じ込めているなら、しばらくは持つね。わざわざ駆けつけることはなかったかな」

「ああ、それは……」



 メルさんが苦い笑みを浮かべる。



「ごめんなさい、ナユタ……その……」



 ティナさんも、歯切れが悪い。



「実は……ですね」

「もうそろそろ……」

「え?」



 バリン、と。


 そんな音がした。


 見れば、虫達が再び溢れだしている。



「……」



 ナユタが、口を開いたまま硬直した。



「母さん達の檻を破るなんて……冗談でしょ?」

「困ったことに事実です」



 ティナさんが空を仰ぐ。



「これは……私達の手に余ります」

「……」



 《顕現》。


 ナユタの姿が、白銀に変化する。


 彼女が手を掲げると、一帯の虫が消し飛んだ。


 だが……。



「すぐに次が……」

「あれは、親を叩かなくては尽きません」

「だったら――」



 メルさんに言われ、ナユタが虫の溢れだす場所に手を向けるが――。



「っ!?」



 なにかが飛んできて、ナユタを吹き飛ばした。



「な、なに!?」



 見れば、空中に異形が浮かんでいた。


 巨大な蓑虫、とでもいえばいいだろうか。


 何本もの腕を生やしたその体表には、びっしりと血管が浮かんでいる。


 生理的嫌悪、という言葉では物足りないほどにおぞましいもの。



「まったく……」



 吹き飛ばされたナユタが、いつの間にか戻ってきていた。



「大丈夫ですか、ナユタ」

「心配しすぎ」



 慌てて近付くティナさんに、ナユタは苦笑を浮かべる。



「大丈夫だよ。それより、私はいいから、他を助けてあげて……もう虫をまとめて抑えるのは、厳しいよね?」

「……一度、破られてしまいましたから」



 そうか。


 《顕現》の力は、どれだけ己を信じられるか。


 だったら、一度破られてしまったという事実がある以上、また先ほどのように虫を抑えるというのは簡単なことではないだろう。



「……分かりました。それでは、私とメルさんは、負傷者の保護に」

「はい」



 二人が姿を消す。



「……いいお母さんだね」

「過保護だけど」



 ナユタが蓑虫に相対する。


 私も《顕現》もどきの大鎌を手にする。



「――ごめん、緋色は他に行ってくれる?」

「あ、やっぱそうなる?」



 薄々感づいていた。


 私は足手まといだ、と。


 《顕現》の戦いに数が意味をなさない、というのは既に分かっている。


 この状態では、私はなんの役にも立たない。


 それどころかナユタを吹き飛ばすような敵だ。


 私は正に足手まといだろう。



「……」



 だから、無理は言わない。


 おとなしく、ナユタの指示に従う。


 それが一番って分かるから。



「……気をつけてね」

「うん」

「また、あとで」

「オッケー」



 ナユタはまるで遊びに行く約束でも取り付けたかのような気軽さで返事を返してくる。


 私は、身を翻し眼下の虫の波へと突っ込んだ。


 ……ちくしょう。


 大鎌で虫を吹き飛ばしながら、内心で毒づく。


 力がないのが、悔しかった。



 やっばいなあ。


 緋色には余裕見せておいたけど……さっきの衝突で理解している。


 相手の方が上だ、と。


 そう。


 理解してしまって……してしまったら、私は目の前の敵にはかなわない。


 負けないことは可能かもしれない。


 だが勝利は……。


 もちろん勝てると信じ、相手を超えれば勝てるだろう。


 だが、それのなんと難しいことか。


 ……エリス母さんなら、出来るのかな。


 きっと、できるのだろう。


 あの人なら……。



「っ……」



 私の思考の隙を突くように虫が私に飛びかかってくる。


 それを真っ向から防ぐ。



「……勝つ」



 まずは、言葉に出す。



「勝つ」



 信じる。


 信じるんだ。



「勝つ……!」



 私は純白の翼を大きく広げた。





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