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先生はっ!

「それじゃ、まずは補助魔術クラスから覗いて行ってみようか?」



 玄関で靴をはきながらナユタが言う。



「補助魔術クラス?」

「そ。防御とか、強化とか、文字通り補助に優れた魔術を教えてるクラスのこと」



 ソウは一足先に玄関を出て、扉を開けたままにしてくれていた。



「ありがと」

「どういたしまして」



 私とナユタが玄関を出たところで、ソウが扉を閉じてその表面に触れる。


 すると青白い光が扉を走った。


 ……とんでもなく高度な封印魔術だ。


 そんなもの戸締りに使うなよ、と思わなくもない。


 ちなみに私は試練中に幻影の心臓を封印して倒すという我ながらえげつねー真似をしました。


 玄関を出たところは、マンションの廊下。


 なんていうか、これまたあれですよ。


 っぽい、ってやつ。


 マンションっぽいよ。ていうか普通のマンションだよ。


 ファンタジーの影も形もないよ。


 もういいけどさあ。


 すぐ傍のエレベーターのボタンをナユタが押すと、すぐにエレベーターがやってきた。


 乗り込んで、ふと私が不思議なものをみつけた。


 ええと……壁一面ボタンで埋め尽くされとるのですが?



「ここ結構いいマンションなんだ。学園のいろんな場所に転位できるんだよ」



 言いながら、ナユタが大量にあるボタンの中から迷わず一つのボタンを押した。


 するとエレベーターの扉が開いて、あら不思議。


 ――エレベーターの向こうは、昨日も歩いた校舎の廊下でした。



「便利ー」

「でしょ?」



 笑ってナユタがエレベーターをおりる。ソウがその一歩後ろに続き、慌てて私もナユタの横に並んだ。



「補助魔術は、と……」



 この廊下にはいくつもの扉が並んでいた。



「どこがいいかな……ああ、ガレオさんのとこでいっか」



 なにか呟きながら、ナユタが扉を順番に指差していく。



「ええと、ガレオさんの授業は、と……ここか」



 そして、扉の一つにナユタが手をかけた。


 ――扉の向こうは、どこまでも続く草原でした。


 うん。


 もう驚かねー。


 驚かねーぞ。


 このくらいのこと、そりゃあるだろう。


 なんだかこの学園世界という場所が分かってきた気がする。


 つまり常識は捨てろということでしょ。


 はははっ。了解っすわ。



「ガレオさーん!」



 草原の一角に、二十人程度の人影が見えた。


 ナユタがその集団に向かって歩いて行く。


 その中の一人が、ナユタに顔を向けた。


 黒いマントを着た、なんかちょっと厳しそうな顔をした男の人だ。



「……ナユタか。珍しいな、貴様が補助魔術の授業を覗きに来るとは」



 わお、渋い声。



「今日はちょっと理由があってね。あ、こっちの子は棘ヶ峰緋色。それで緋色、こっちはガレオ=ヘロストラ先生」



 ほう。先生でしたか。


 まあ生徒にしてはちょっとばかり威厳がありすぎですしね。



「どうも」



 とりあえず軽く頭をさげておく。


 ぺこり。



「ふむ、新入りか?」

「そうそう。それでね、特別クラスに所属になったから私が面倒みてあげろ、ってツクハさんが」

「理事長から押し付けられたか……それにしても最初から特別クラスとは珍しい」



 そこ。押し付けられたとか言わない!


 まるで私が厄介なもののようじゃないか!


 そんなこと言うと思わず照れちゃうぞ。テヘッ。



「なるほど。ではその棘ヶ峰とやらに学校を案内しているわけか」

「そゆこと」



 ナユタが頷く。



「ふむ……」



 ガレオ先生が私のことを見つめる。


 そ、そんな熱い視線……!


 駄目ですわ、先生。教師と教え子が、そんな……!


 よいではないかよいではないか。


 あーれー。


 なんて展開を期待するわけでもなくもない。


 あったらあったで、悪いけどぶっ飛ばさせてもらうけどね!


 ぶっちゃけガレオ先生は趣味じゃねーです!


 ごめんネッ!



「しかし補助魔術など見に来てもあまり面白くなどないだろう」

「そこはまあ……だから最初に来たわけだし?」

「そうか」



 ナユタの言葉にガレオさんが咽喉をならした。


 ちらりと、私はガレオさんの背後にいる生徒らしき人達の様子を窺う。


 彼ら――女の子も混じってるけど――は、なにやら明後日の方向に向かって身構えている。


 なにしてるんだろ?


 とか不思議がっていると、地平線の彼方にいくつもの光が生まれた。



「お……?」



 それはあっというまに大きくなって……違う。


 大きくなっているのではない。近づいてきているのだ。


 すぐに、それの正体が分かった。


 およそ直系十メートルほどの、巨大な炎の塊だ。


 それも飛んだ跡の地面が溶岩みたいにどろどろになってることから見て、恐ろしいほどの高熱を持っているのが分かる。


 それが一列に並んで生徒さん達に向かってきていた。



「ちょ、あれやばくね?」

「問題ない」



 ガレオさんが微かに笑う。


 炎が生徒達に着弾する。


 恐ろしい程の熱が辺りに吹き荒れた。


 触れるだけで蒸発するほどの熱は、しかし私達には届くことはなかった。


 なにかと思えば、薄く、それでいて堅牢で巨大な魔力障壁が私達の目の前にあった。


 どうやらガレオ先生が張ったものらしい。


 ……え、いつ張ったんすか?


 つかやべえ。


 この魔力障壁……ぶっちゃけ私でも破れるかどうかわからんぞ。


 どんだけだよ、ガレオ先生。


 私、これでもかなり強いつもりだったのに。


 大陸一つ二つ消し飛ばせるようになったし、私すげーんじゃね?


 みたいな。


 でも、ガレオ先生はその上をいっている。


 よくよく考えれば、ナユタだって初めて出会った時に世界を滅ぼす程の攻撃を受けとめてたし……。


 もしかして学園には、そんな連中がごろごろしてるのだろうか。


 おおぅ……。


 終わっちまったぜ。私の井の中の蛙生活が。あるいは猿山の大将生活が。


 人はそれを自意識過剰とも言う。かっこわらい。


 ……って、それはそうと。



「生徒達が消し炭に……」



 炎は未だに燃え盛っている。


 本格的にやばい気がするのですが、私だけでしょうか。



「問題ない」



 私だけっぽい。


 ガレオさんもナユタもソウも平然と見てるし。


 次の瞬間、炎が弾けるように霧散した。



「ほ?」



 なんと、驚いたことに炎の中から無傷の生徒達が姿を見せた。


 え、マジで。


 無傷?


 あれで?


 あれ軽く国潰せるレベルの威力だったと思うんですが……。



「対国レベルの魔術はもう教え終わったの?」

「一応はな。あとは練度だ。あれを一ミリ先から撃たれても平気になるくらいでなければ話にならん」



 後ろ二人の会話は聞かなかったことにしよう。


 少なくとも私はあれを一ミリ先から撃たれて防げる自信は無い。


 まあ、出来ないとは言わないけどさ。


 やりたくはないよね。絶対。


 っていうかこんな授業、ドMでもなければ受けたくないに決まってる。


 あんな威力の攻撃を防ぐ授業ってなんだよ!


 やりたくねえ!


 やりたくねえ!


 大切なことなので何度でも言いますよ!?



「どうだ棘ヶ峰。やってみるか?」



 ふと、ガレオ先生にそんなことを言われた。



「……」



 やりたくないと思った矢先に!?


 まさかまた心を読まれたのか?


 いや読心を防ぐ術はすでに身につけた。


 となると……ただの不幸か。


 不幸だぁああああああああああ!


 とかやってる場合ではない。



「ええと、遠慮させてもらいます」

「そう言うな。見たところそれなりにやれるだろう」

「い、いえ。ナユタ、そろそろ次のクラスに行こうか!」

「え? 時間なら余裕あるし折角だし――」

「いいから!」



 ナユタの腕を掴む。



「それじゃあガレオ先生、ありがとうございました!」



 私がガレオ先生にそう告げると、即座に入ってきたドアから校舎に戻った。



「……どうしたのさ、緋色」

「……」

「まあ私は気持ちは分からないでもないですけれどね」



 ソウがどことなく優しげな声でそう言ってくれる。



「……ソウさん。あんたは天使や」

「……?」



 ナユタが首を傾げる。


 それを見て思った。


 ああ、ナユタも規格外だよなあ、と。


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