最強の二人はっ!
溢れだす虫を空から見下ろし、溜息をつく。
「あれはいけないものだと、そう感じるよ」
隣にいるやつが、そう呟いた。
そう。
あれはいけないものだ。
存在を許容してはならない。
ただ己の為、群れの為に全てを犠牲に広がり続けるもの。
そういったおぞましい性質のものなのだ。
放っておけば、世界が滅ぶ。
この世界だけでない。
数多の世界がだ。
それを許すわけには絶対にいかない。
「倒すぞ」
「ああ」
俺の言葉に、隣でライスケが頷いた。
想いを握りしめる。
それは《顕現》ではない。
俺達の大切な者達全ての想いを束ね、己へと込める。
皆の想いが、俺達を高みへと押し上げる。
一つになる感覚。
溢れだすものを感じる。
魂?
否。
心?
否。
存在?
否。
忘れてはいけない。
そんなものではないのだ、俺は、俺達は。
俺達は俺達だ。
魂だとか、心だとか、存在だとか、そんなくだらない形容に収まってたまるものか。
そしてその上で、俺自身の想いをしっかりと確かめる。
故に……故にだ。
俺が具現する。
俺が想い全ての者の想いが、俺を包み込む。
それは《顕現》を超えた先。
――――《真想》――――。
想い。
ただ、それだけがあった。
俺が『皆』を想う『俺』に成る。
姿は変わらない。
いつもの黒いコート。
手には銀色の剣。
見た目は変わらずとも、今や、俺は『俺』であり、『皆』だ。
隣をちらりと見ると、ライスケの身体からは輝きが流れ出し、尾のような形を作っていた。
「行こう、臣護」
「ああ」
視線を辺りの虫に向ける。
ただ、それだけ。
別に倒そうなんていう想いはこめちゃいない。
ただ、本当に純粋に、視界に収めただけ。
それで、虫は消え去った。
「格が違うんだよ、虫が」
「役者不足だ……俺達の前に出てきたことを後悔しても、もう遅い」
俺達の言葉の一つ。
指先の僅かな動き一つが、全てに影響を及ぼす。
「俺の愛する者達を守りたい、穏やかな日々を過ごしたい」
「恨むなら恨めばいい。だがお前は俺の世界には収めない、認めない」
「だから、なあおい」
「分かるだろう?」
前にこの虫のような存在を相手にした時は、三人だった。
俺と、ライスケと、そして……エリス。
しかし今やエリスはいない。
それでも問題などない。
俺達だけでも、やってやるさ。
「「――滅べよ」」
俺とライスケの想いが、虫の殲滅を願う。
その、刹那。
「それは困る、我が姉君はあの見世物を楽しみにしているのだ」
虚空から生まれた、六条の漆黒の閃光。
「っ!?」
咄嗟に剣で閃光を弾く、
だが――。
「これは……!」
ライスケも目を向いていた。
俺の銀色の剣が砕けた。
ライスケの右腕にも、傷が刻みこまれている。
すぐに再生するものの……。
ありえない。
そう言っていい事態だった。
「この程度で驚くな、塵どもが」
いつからそこにいたのか。
現れた、その姿を、俺達はよく知っていた。
彼女の娘と、瓜二……けれど、左足が欠落した、その姿。
「お前は、なんだ?」
「ふん、まずは自分から名乗れ――と言いたいが、まあ別に聞く価値もありそうにないな。いいだろう、特別に教えてやる」
彼女が鋭く笑う。
「フュンフだ。別に覚えなくていい、覚える意味はない」
冷ややかな目で、フュンフが俺達に手を突き出す。
「《真想》を扱える、上等な塵のようだが……すぐに消し滅ぼすからな」
無数の漆黒の閃光が放たれた。
それは蛇のように縦横無尽の軌道を描きながら、俺達に襲いかかる。
「ちっ……!」
「こ、のぉっ――!」
俺とライスケもまた、攻撃を放った。
銀の剣を振るう。
光の尾で薙ぎ払う。
そこに速さはない。
速さという次元の話ではないからだ。
もはや攻撃と防御という境目すらないのだ。
これはぶつかり合いだ。
音もなく、俺達の身体が切り刻まれる。
と同時、フュンフの頬に一筋の傷が入った。
「……」
フュンフが自分の頬に触れる。
傷はすぐに塞がる。
「……」
なぜか、フュンフは沈黙したままだった。
……事態は、異様だ。
俺達に対抗出来ている。
すなわちそれは、同等ということ。
《真想》をしている俺達にだ。
気配からして、フュンフが《真想》をしている様子はない。
つまり、どういうことか。
単純な話。
俺や皆の想いよりも、あいつ一人の想いの方が強大である、と。
馬鹿な、と一笑に付すべき事だった。
俺達を一人で超える?
ありえない。
俺と、俺の仲間達。それに、ライスケとライスケの仲間達。
俺とライスケが影響しあうことで、二人ともその強大な想いを抱えているのだ。
なのに……それと同等だと?
ふざけるな。
なんだそれは。
あっていいわけがあるか。
だが……事実は残酷に、目の前に存在した。
「……少し侮ったか」
フュンフが微かに笑う。
次の瞬間、その顔から表情が消えた。
だというのに、激しい怒りを感じる。
「屑を集めた《真想》とはいえ、それだけあれば私に届くか」
「屑、だと?」
「さっきから聞いていれば、ふざけんなよ……!」
「屑を屑と言ってなにが悪い。貴様らや、貴様らの後ろにある想いなど屑の一言で十分だ。いや、それでもまだ上等だろう?」
「っ、俺達の想いを、テメェに屑と呼ばれる筋合いはないっ!」
まったくライスケの言うとおりだ。
「言ったからには覚悟しろ……お前は、徹底的に叩き潰す」
「……」
フュンフが溜息を吐く。
「調子に乗るなよ、屑が」
圧力が俺達を襲う。
これは……まさか……。
「いいだろう、教えてやる。貴様らが屑に相違ないという事実をな」
フュンフが両腕を広げる。
「――――《真想》――――!」