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駆除はっ!


 人々に、虫の波が襲い掛かる。



「させません!」



 私の盾が、それを防ぐ。



「メルさん、お願いします」

「はい!」



 私の声に応え、浅黄色の輝きを纏ったメルさんが手を広げる。


 すると、私の盾に彼女の輝きが重なった。


 メルさんの《顕現》は、彼女がいつでも大切な人が戻ってくる場所を守ったという想いの具現。


 つまり、私とほぼ同質の《顕現》だ。


 それが、虫の流出を抑える。



「ティナさん!」

「ええ、この状態を維持します!」



 自慢ではないけれど、私とメルさんが作った籠から出られるものはそうはいない。


 少なくとも、しばらくはもつはずだ。



「既に外に漏れ出した虫は、他の皆さんが……」



「臭いぞ、寄るな」



 腕を振るう。


 すると、天の魔剣が無数に降り注いだ。


 ただの天の魔剣ではない。


 《顕現》によって作り出された、私の本質だ。


 その一刃には世界を断つ力すらこもっていると自負している。


 轟音。


 破滅が、辺り一帯を更地に変える。



「ふん、ここまでやられてはどうせ建て直しだろう。なら私が綺麗にしておいてやらねばな」



 虚空から引きずり出すように漆黒の剣を握る。



「行くぞ虫けらども、掃除の時間だ」



「やれやれ、と言うべきかしらね」



 ――《顕現》――。


 爪翼が、爆発するように変質する。


 まるで死神の鎌を携えた死神のような。


 または万物を喰い殺す竜のような。


 あるいは全てを抉る獣のような。


 そんな形に、翼が形を変える。


 さらに私の足元から水がしみ出し、それは一気に量を増して渦巻き、空へと水の柱を突き立てる。


 身にまとう黒衣が、影のように不定形となった。



「さて」



 ――己が分からずとも、己は己であり、己の信じる道を進む。


 その想いが、私の背を支える。


 翼をはばたかせる。


 辺りの虫が、蒸発するように形を失った。



「さあ、来なさい……綺麗に押し流してあげるわよ?」



「ったく、食事中だっていうのに」

「……無粋だな」

「だよねえ。全くヨモツの言うとおり!」

「さっさと駆除するぞ」

「うん」



 すると、その時近くの者影からすっと現れる人物が一人。



「折角、佳耶が美味しそうに食事をしている顔を鑑賞していたのに」

「……」



 えっと……。



「リリー、いつからそこに?」

「佳耶のいるところにならいつでも現れるわよ?」

「ストーカーじゃん!」

「冗談よ」



 くすりと笑い、リリーが私の横に並ぶ。



「仲がいいのは構わんが、まずは目の前の敵を見ろ」

「あ、了解」



 ヨモツに言われて、目の前に迫る大量の虫を睨む。



「んじゃ、いっちょやりますか!」



 《顕現》。


 赤い液体があふれ出す。


 それは収束し、巨大な剣となって私の手に収まる。


 剣尖を虫に向ける。


 それだけで、剣尖を向けられた虫は弾け飛んだ。



「然弱だね」

「所詮は虫ね」



 苦笑し、リリーもまた《顕現》する。


 純銀の煌めきがリリーを包み込む。


 まるで星屑のように光を散らしながら、リリーはどこからともなく銀の刀を手にした。


 と同時、リリーの視線の先にいた虫が悉く断たれた。


 まとめて、ではない。


 一匹一匹がそれぞれ細切れにされていた。



「……しかし、数が多いわね」

「そうだな」



 ヨモツが《顕現》する。


 巨剣と巨槍が空から降り注ぎ、虫達を一掃していく。


 うわー、すっごい光景。


 隕石落下のほうがまだ穏やかな光景だよね、きっと。



「地道に踏みつぶしていくぞ。くれぐれも油断はするな」



 ヨモツの言葉に頷く。



「うん」

「ええ」



「まったく、またこのようなものに出会うとはな」



 六条の光の刃が虫を薙ぎ払っていく。


 アリーゼの《顕現》だ。


 さらに反対の方向では、やはり《顕現》をしたナンナが黒い宝石の雨で虫を潰していた。


 ……まったく、吐き気がする。


 こんなものが現れるなんて。


 そう思いながら、虹色に輝く武器を残った虫どもに放つ。


 一瞬で辺りの虫を相当し終え、溜息をつく。



「早急に怪我人の救護をしなくてはね」

「それに、今はティナやメルがおさえてくれているようだが、虫の根本を叩かねばな」

「そうね」



 アリーゼに同意する。


 この類は親を叩かねば駄目だと、よく知っている。


 だが、それが難しい。


 それもまた、私達のよく知るところだ。


 なにせあれらの親は、あれらの想いの源泉だ。


 その力は、計り知れない。



「……まあ、今は問題は棚上げして、私達は虫の駆除を行いながら怪我人の救出をしましょう」



 でも……。


 どうして、今、突然こんな物が現れたのかしら。


 偶然?


 ううん。


 そんなこと、あるの?




「こりゃまた……なんともキモいなぁ」

「そうですね」

「ついでに言うと、やばいな……悪寒しか感じんわ」

「まったくです」

「となると、始末せなあかんよなあ」

「それがいいでしょうね」

「……ちゅうわけで、いこかナワエちゃん」

「ええ、ツィルフ」



 《顕現》。


 ワイの身体が、炎へと変わる。


 この身は炎の具現であると。


 燃え盛り、全てを焼きつくす火となる。


 対しナワエちゃんは風。


 その身が姿を消す。


 だが、感じる。


 世界を駆け抜ける目には見えぬもの。


 今、その身は風のようにどこにでもあって、どこにもないものへと変わった。



「行きますよ」

「おうよ」



 風が吹く。


 虫が端から消し飛んでいく。


 っとと、負けてられんわ。


 腕を伸ばす。


 炎が広がる。


 そして、全てが灰に変わった。



「ワイの炎から、逃げられると思うなよ?」



「はあ」



 溜息を吐く。


 これは、どうしたものかしらね。


 目の前には、黒、黒、黒。


 虫ばかりだ。


 気持ち悪い。



「……《顕現》、と」



 私の《顕現》は別に、姿形はなにも変わらない。


 《顕現》の中では、珍しいそうだ。


 とはいえ、臣護も似たようなものだけれどね。


 そっと指を振る。


 空から極大の光線が無数に降り注いで、虫を焼き払った。


 さらに指を動かす。


 誰かに、ピアノを弾いているようだ、と言われたことがある。


 自分でもちょっとそう思わなくはない。


 ただ私としては、引き金を引いているつもりなのだけれどね。


 指で引き金を押し込むたび、そらからは必滅の極光が降り注ぐ。


 さて。


 この調子でさっさと消毒していこうかしらね。



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