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何度も現れるのはっ!

 不気味なことに、あれから数日経った今も、シューレさんの動きは何一つなかった。


 どういうことなのだろう。


 アイリスのことを諦めた、とは考えにくい。



「嵐の前の静けさに思えてならないな」

「だね」



 砂漠の教室で、今日もアイリスと《顕現》の練習をしていた。


 とはいっても正直な話、進展はまるでない。


 アイリスは《顕現》しようとすると暴走しちゃうし、私も私でできていない。



「……今日はこのくらいにしておくか」

「うん、大分練習してたし」



 背中を伸ばす。



「うー……《顕現》なんて一体いつできるようになるんだろ」

「さてな。まあ、やれるだけやってやるさ」



 そういうアイリスの横顔は……なんだかかっこよかった。



「……うん。そうだね」

「さて。それじゃあ家に帰るかな。早く帰らないと、妹達に夕食が食べられないと起こられてしまう」

「あ、姉妹仲良く食事するんだ?」

「うちの決まりでな」

「ほんと、いい姉妹だねえ」

「そう言ってもらえるなら、少し嬉しいな」



 アイリスが微笑む。



「わたし達は三人とも母親が違うのは、知っているか?」

「うん」



 イリアさんと、メルさんと、ウィヌスさん、だっけ?



「だから正直、血の繋がりというところでは、他の家族には負けているのかもしれない、と子供の頃は思ったりもしたのだ」

「へえ、そうなんだ?」

「一応、長女だったしな」



 アイリスが苦笑する。



「しかしまあ、杞憂だった。わたし達は、特に喧嘩らしい喧嘩をすることもなく、姉妹としてやってこれたんだ。自分で言うのはなんだが私はそこそこいい姉でいられていると思うし、妹達も、いい妹達だ」

「……そっかあ」



 いいなあ。


 私は兄妹姉妹はいないし、あんまり羨ましいと思ったこともない。


 でも今は、羨ましいかな。


 こんな姉妹、欲しかったかも。



「絆の強さは、血の強さよりもずっと強い。わたしは妹達を愛している」

「なんとなく、分かるよ。アイリスがどれだけ、二人のことが好きなのか」

「そうか? なんだか、少しばかり恥ずかしいな」



 アイリスが頬を掻く。



「ふふふっ、じゃあ早く戻ってあげないとね。お姉さんのこと私ばかり独占していたら怒られちゃいそうだ」

「安心しろ、妹達は、お前のことも気にっているよ」

「へ?」

「なんだその反応は。もともとあの二人が他人とかかわることすら稀なのだぞ」

「そうなの?」

「そうなのだ」

「……へえ」



 そりゃまた……嬉しい話だ。



「じゃあ、アイリスは?」

「む?」

「アイリスは私のこと、どう思ってるのかなあ、って」

「緋色のこと、か……」



 アイリスが私のことをじっと見つめる。


 ……おおぅ。


 そんな見つめられると照れちゃう。


 って、なんか徐々にアイリスの顔が近付いてきているような?


 あれ?



「あの、アイリス?」

「なんだ?」



 なんだ、じゃなくて。


 ええと……ええ?



「……」

「う、うわわっ」



 すぐ目の前にアイリスの顔がある。



「……」



 吐息すら感じる距離だ。



「……ふむ」



 すっとアイリスの顔が離れた。



「え」

「緋色は大切な友人だ」

「はい?」



 くるりとアイリスが身体の向きを変える。



「それではな」



 そして歩きだす。


 ……はあ?


 いやいやいや。


 なに今の。


 え?


 なにもなし?



「……」



 私の期待を返せこのばかぁああああああああああああ!



「……」



 迂闊だ。



「なにをしているのだ、わたしは」



 首を振るう。



「……わけがわからん」



 妙に顔が熱い。


 風にあたりたい気分だった。


 一度、屋上にでも寄っていくか。


 そう考えて廊下を歩く。



「――やっぱり、直接引き出してしまうのが一番いいのでしょうかねえ」



 刹那……衝撃が私に襲いかかった。


 身体が横に吹き飛び、そのまま一つの教室に突っ込む。


 そこは、宇宙空間が広がる教室だった。


 星々の輝きに照らされた黒い海になげだされ、わたしは混乱する頭で状況を確認した。



「やれやれ。つまらない」



 いた。


 こんなことをするのは、やはりお前か。



「シューレ……!」

「どうも」



 言葉のとおり、つまらなそうな顔でシューレはわたしを見ていた。



「なんのつもりだ?」

「……いえ。どうやらここに至るまで気付いてくれないようですので……本当は自分自身から望んで堕ちてほしかったのですが」



 シューレの手がわたしに向けられる。 


 次の瞬間、わたしの身体のいたるところが引き裂かれた。



「っ!?」

「私が引き出してあげますよ。あなたのあの、醜い本質を」

「き、さま……っ!」



「ふんふんふーん」



 家に向かう帰路。


 不意に、通信があった。



「ん?」



 仮想ウィンドを手元に開いて確認すると、相手はエレナだった。



「おろ?」



 なんか用かな?


 通信を繋げる。



『もしもし』

「やー、どもども緋色ちゃんです。どうかしたの、エレナ」

『ああ、いえ。ただちょっとお聞きしたいことが』

「聞きたいこと?」



 なんだろ?



『姉さんのことなのですが、緋色、今いっしょにいますか?』

「え? いないけど……なんで?」



 ――なんとなく、嫌な予感がした。



『……まだ帰ってこないんです。連絡もとれないし。いつごろ姉さんと別れましたか?』

「ちょっと前だけど」

『それなら……アイリス姉さんはすぐに家に帰って来てくれるから……今帰ってきてないのは、おかしいです』

「……」



 まさか、と考える。



「とりあえず、探そう!」

『緋色?』

「私も一緒に探すから……そうだ。他の皆にも協力してもらって……とにかく、すぐ探そう!」

『……分かりました。お願いします』

「うん!」

『……緋色』

「ん?」

『ありがとうございます』

 なーに言ってんだか。



 こんなのお礼言われることじゃないっての。






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