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悩みはっ!


「やっほーアイリス!」

「……緋色?」



 街中――っても近代じゃなく中世ヨーロッパっぽい街並みの区画――でアイリスを見かけたので、迷わず声をかける。



「どうしたの?」

「いや、少し散歩にな。そっちは?」

「私もそんなところ。どうせだし、一緒に散歩しようよ」

「ああ、構わんぞ」

「やったね!」



 うぇっへっへっ。


 これは美少女とのデートにカウントしていいのではないだろうか。


 目指せ美少女とデート百回!



「緋色、どうだ。もうこの世界にも慣れたか?」

「んー、そうだね」



 辺りを見回す。



「まあ、まだ不思議なところだなーって感じはするけれど」



 未だに近代日本の街並みの直後に中世ヨーロッパの街並みがあってその次はいかにもニューヨークだぜへっへっみたいなこの街の造りにはよく首を傾げる。


 あとよく迷子になるし。


 そんな時は転移魔術でもなんでも使えばどうとでもなるわけなのですが。



「不便を感じるわけでもないし……慣れたと言えば、慣れたってことになるのかな?」

「ふむ。それならよかった。中には、元いた世界が恋しくて精神的にまいってしまう者も少なくないからな」

「そうなんだ?」

「ああ」



 私はあんまりそういうのないかな。


 もしかして私って薄情なのかな?



「緋色は、元の世界が恋しくはないのか?」

「え? んー……」



 そりゃ元の世界にいる両親とか、友達とかには会いたいと思うけど。



「……別に今はいっかなー」



 この世界、面白いし。



「いつかまた、会えるようになったら会いにいけばいいんじゃないの?」



 と、思わなくもない。


 ……ううむ。


 まあ薄情っていうなら、薄情でいっか。


 私はこういう考え方をしている、ってだけで、別に悪いこと考えてるわけでもないんだし。


 私は私ですよ。



「……緋色は強いな」

「へ?」



 強いって……なぜいきなりそんな話に?



「あ……いや、なんでもない」

「んー? なんか隠してる?」

「いや。そんなことは……」

「アイリス?」



 じっとアイリスを見つめてみる。


 すると彼女が視線を私から逸らした。



「ふぅむ。アイリスが視線を逸らすなんて滅多にないことをするからには、やっぱりなにかあるんだ?」

「え……そ、そうなのか?」

「そうだよ」



 アイリス、普段ならどれだけ見つめても絶対に視線を逸らしたりはしないし。



「……むぅ」

「で、なに隠しちゃってるの? あれですか、淡い恋心なんですか?」



 ……。



「誰だアイリスのハートを奪ったやつぁああああああああああ!」



 私がブチ殺してやる!



「……なにを自分の発言にキレているんだ」

「いや、ついノリで」



 てへぺろっ。



「で、実際どうしたの? なんかアイリス、おかしいよ?」

「……そうか?」

「うん」



 なんていうか、こう……覇気っていうの?


 そういうのが足りない気がする。



「それに、まあぶっちゃけるんだけど……ちょっと、最近アイリスの様子が変っていう相談をしてくる人がいまして」

「……スイか」



 なぜバレたし。



「そ、そそ、そんなことぁないですよ?」



 スイからはこの相談をしたことは秘密にするようにって口止めされてたのに。


 やべえよ。



「私の変化にいちはやく気付くとすればエレナかスイだろう。そしてエレナならば、自分のことは自分で解決すべきだ、とスパルタなことを言うだろうからな。人に相談を持ちかけるとすれば、あの不器用な妹くらいだ」



 すげえ。


 妹のことよく見てるなあ、この姉。



「……心配をかけているのだな、私は」



 アイリスが深いため息をこぼす。



「ねえ、アイリス?」

「なんだ?」

「よかったら、話聞くよ?」

「……」

「私じゃなくてもさ、スイでも、きっとエレナだって話くらい聞いてくれると思うし」

「……いや、どうにも、妹には頼れないというか……まあくだらんプライドが私にもあるのだ」

「じゃあ……」



 私じゃ、駄目だろうか?


 友達が困っているなら、私は、助けてあげたいと思うのだ。



「……そうだな」



 アイリスが苦笑する。



「情けない話なのだが、聞いてくれるか、緋色」

「もちろんっ」



「……どうにも、自分の想いとうものが分からなくなってきていてな」

「想い?」

「ああ」



 私達はあれから近くのアンティークっぽい雰囲気の喫茶店に入った。


 それぞれ紅茶を注文して、手元にきたところでアイリスが話を始める。



「そうだ。私は私がどんな想いを抱いているのか、分からないのだ」

「それって、《顕現》とか、そこに関わってくる話?」

「もちろんそれもあるが……まあ、もう少し広い意味でだ」



 広い意味で、か。


 うーん。



「……むぅ」

「すまない、変なことを言ってしまったか?」

「あ、いや。そうじゃなくて……私も、自分でそういうの分かってないから」

「なに?」



 自分の想い。


 そんなの、私だって分かっていないんだ。



「私だって、だから《顕現》出来てないし……」

「しかし緋色は少しならば使えているではないか」

「でもほら、使いこなせてない以上は同じじゃん?」



 もしかしたら、とっかかりくらいは掴んでいるのかもしれない。


 でも、それでもやっぱり分かりきっていない。


 だからこその、もどき、なのだ。



「だとしても、私よりかはマシさ」



 アイリスが苦笑する。



「え?」

「最近、こっそりと《顕現》の練習をしているのだがな……ああ、なんというか、駄目なんだ」

「駄目?」

「そう……暴走してしまうんだよ」



 暴走って……。



「前にもやっちゃったっていう?」



 私はその時気絶してたから、直接見てはいないけれど。



「そうだ……どうにもな、上手くいかないのだ。想いが抑えきれない。どこか、ねじ曲がってしまうのだ」



 アイリスが自分の掌を見つめる。



「想ってないのに、なぜか想ってしまう。蹂躙したい、と。破壊したい、と。そんなことをな」

「……」



 やべ。


 ……なんて言えばいいのか、わからない。


 難しいよ、この話。


 正直私には、アイリスの話の半分も理解できてない。


 ただ、アイリスが悩んでいるってことくらいしか分からない。



「……うん」



 でも、それだけ分かっていれば十分だろう。



「よしっ、アイリス!」



 つまりアイリスは、想いを暴走しないように、《顕現》が出来るようになりたいのだろう。


 それならば単純にいこう。



「練習しよう!」

「……は?」




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