母親二人はっ!
「……ふうん」
はあい。
毎日元気な緋色ちゃんデス!
でもでもぉ、緋色ちゃん今日はちょっと元気ないの。
え、なんでかって?
それは今の状況から説明しないと駄目かなっ!
はあい、じゃあ説明するので静かに聞いてね!
場所はぁ、喫茶店なのね?
テラス席のある、おしゃれな感じのお店。
私はそのテラス席にあるテーブルについているんだけど、同じテーブルに二人の女性がいるわけですよ。
一人は我らがレーさん、佳耶さん。
そしてもう一人は教務課の綺麗なお姉さんこと、リリシアさん。
……おぉう?
どうしてこうなった。
いや、突如この二人が私の家に突撃してきて私を拉致ってきたんだけれどさ。
そして今は二人にまじまじと顔を見られております。
「ふうん、この子がねえ」
「あ、あのお」
「ん、なに? あ、なんか頼む?」
佳耶さんがメニューを私に差し出してくる。
「いやそうじゃなくて……なにか、用ですか?」
「こうして呼び出した以上、用がないわけがないでしょう?」
ですよねー。
「ええっと、私特になにかした覚えがないんですけど……あ、もしかしてあれですか! 私という若い芽を交えて、三人でにゃんにゃんを……!」
「違うよ!」
「あうち」
佳耶さんに後頭部を叩かれた。
すげえ。
なにがすげえって、今のツッコミ、人間レベルの強さだったよ!
最近はツッコミが普通なら頭蓋骨陥没レベルとかそういうのだったから、新鮮!
「じゃあ、なんなんですか?」
「私達の娘達のお気に入りと少し話がしたかったのよ」
はい?
「私達の、娘……?」
「そうだよ」
「ええ」
……。
えーっと、私達の、娘ね。
あ、うん。そうだった、ここ女性同士で全然子供作れるんだよね、確か。
「えっと……娘さん、ですか?」
しかし誰だ、この人達の娘って。
「あれ、聞いてない?」
「あの子は……まったく、ああいう重大なことは明かしているくせに」
二人が意外そうな顔をしている。
「私達の娘は茉莉だよ」
「そしてオリーブも」
……あ、なる。
茉莉とオリーブね。
はっはっはっ。
そうだったのかー。
「……えぇえええええ!」
意外!
なんか意外!
あの茉莉とオリーブの親が……この二人?
なんか雰囲気違うなー。
ふぅむ。
そうだったのかあ。
なんていうか、私の周りって意外とこういうの多いな。親と子どっちとも知りあってるけど、その相関を知らなかったっていうの。
こういうのがこれからもあったりして。
……まっさかー。
流石にそれはないか。
「私達はね、茉莉とオリーブがどうして緋色を気に入ったのかな―って思ったわけ」
「本来ならオリーブの存在はそう公言していいものでもないしね」
え?
「オリーブの存在は広言していいものじゃ、ない?」
「そうよ」
「リリー」
佳耶さんがリリシアさんに軽い非難の視線を向ける。
「いいじゃない。少しくらいはね」
リリシアさんがテーブルに両肘をついて、改めて私の顔を見つめてくる。
「一つ、勘違いをしているかもしれないから言っておくのだけれど、子供は男と女が交わることで生まれる。これは、人という種の絶対の法よ」
「……はあ」
まあ、それくらい知ってますが。
この世界じゃその法も捻じ曲げられるわけなんですけどねー。
「そして、この世界でもその法は例外ではない」
「はい?」
例外じゃない?
「いや、でも茉莉とオリーブは」
「そうよ」
リリシアさんが頷く。
「一つたとえ話をしましょうか。世界を作り出せるのが神だけ、という法がある。けれどね、この世界はこの法によって作り出された世界ではない。この世界は、神以外の存在が作り出した世界なの」
「神以外の……」
なんとなく、頭に浮かぶ人がいた。
多分、エリスさんなんだろうなあ。
しかしそうか、神様だけが世界を作り出せるんだ。本来は。
意外と偉いんだねえ、神様って。いや当然か。
エリスさんの次に、神様のおじいさんの姿を思い浮かべる。
……どうでもいいや。
神とかマジ存在薄い。
「神以外に造りだされた世界だから、この世界では自然に生命が誕生する、ということがないの。草木も、動物も、この世界にあるものは全て他の世界から持ちこまれるか、人工的に育まれたものなのよ。ペナルティのようなものよ。バグと言ってもいい。法を捻じ曲げた代償は必ず発生する」
「……じゃあ」
この会話の流れからすると、つまりそういうこと。
「茉莉とオリーブも……なにかのペナルティを……」
「あの二人の場合……これ以上は秘密にしておきましょう。あの子の母とはいえ、教えられないわ。それに、教えたら怒られてしまいそうだし」
そう言ってリリシアさんが横目に佳耶さんを見る。
佳耶さんは険しい顔をしていた。
「……ともかく、あの子達は少し問題を抱えているわけ。それが悪いことだとは少しも考えてないけれど、それでも他人があの二人をどう感じるかは分からない。だから私とリリーは出来るだけあの二人に、自分達のことを他言しないようにいい含めたわけ」
「そうだったんだ……」
あの二人も大変なんだなあ。
「ねえ」
「はい?」
「あなたはどう? あの二人のこと、どう思う?」
問う佳耶さんの表情は、どことなく不安そうにも見えた。
「……?」
しかし私は、佳耶さんがどうしてそんなことを聞いて、そんな顔をするのか分からない。
おいおい。
私を見くびってもらっちゃあ困るぜ。
「二人は二人でしょう?」
それは当然のことで。
「茉莉は茉莉で、オリーブはオリーブだよ。他にどんなことがあっても、そこだけは変わらないでしょ? 正直、あの二人のこと、まだまだ分からないことだらけだけど、二人とも悪い人じゃないってのは知ってるつもりだし」
「……」
佳耶さんとリリシアさんが顔を見合わせる。
「気味が悪いとは思わない?」
「なんで?」
リリシアさんの質問は意味不明だ。
あれか。あの二重人格っぽい感じのことを言っているのか。
だとすれば、その心配は見当外れ。
二重人格なんて、ちょっとした個性みたいなもんでしょ。
いや、まああの二人のは二重人格じゃないってツクハがいってたけど。
「ごちゃごちゃ心配しなくても大丈夫ですよ。私、茉莉ともオリーブとも仲良くなりたいし、仲良くなるつもりですから。いちいちお母さん方が出てくる必要なんてありませんって。まったく心配性なんですねえ」
けらけらと笑う。
「……そうね」
リリシアさんが肩を竦めた。
「余計な心配だったみたいね、佳耶」
「……うん。そうだね」
分かってもらえたようでなによりだ。
「ねえ、緋色?」
「はい?」
「あの子達のこと、よろしく」
だーかーらー。
「言われるまでもなく!」