デートはっ!
「……まあ、こんなこったろうとは思ってましたよ」
げんなり。
そんな表現が今の私にはぴったりだと思う。
「まあまあ、そんなことは言わないでさ」
そんな私の横を歩くのは、ツクハ。
そして――。
「そろそろ昼食にしましょうか?」
「そうだな……」
嶋搗夫妻が歩いています。
「なんだよぅ、デートとか言ってさあ、ただの惚気避けじゃねえかよぅ」
「そんなことないよ。これはダブルデートって言うんだよ」
「絶対違う」
そもそもどうしてこうなったのかと言えば……。
†
「ねえツクハ。今度、買い物にいかない?」
「あ、悠希。いいね、そうしよっか」
「今度の休みでいいかしら」
「うん」
「あ、おい悠希。今度休みが取れたんだが、ひさしぶりに買い物にでも行くか?」
「え……本当? ならツクハと三人で行きましょう」
「……こいつぁやべぇぜ☆」
†
とうことらしい。
「なんで断らなかったのさ! 急用ができた、とか!」
「なんか言える雰囲気じゃなかったし……」
ツクハが溜息を吐く。
私だって溜息を吐く。
いいや、これは溜息じゃない。
目には見えない砂糖を口から吐き出しているんだ。
だって、だってだよ!?
嶋搗夫妻って……バカップルすぎるぁああああああああああ!
うわぁああああああああああん!
†
アクセサリーショップにて。
「ねえ、臣護。このネックレスなんてどうかしら?」
「……まあ、いいんじゃないか?」
「む。あなたはいっつもそれね。いいんじゃないか、いいんじゃないかって……少しくらい真面目に考えてよ。まあ、臣護がそういう性格なのは分かってるけどさ」
「別に……考えなしで言っているわけじゃないんだがな」
臣護さんが悠希さんの手の中にあったネックレスをとって、そのまま彼女の首にかける。
「あ……」
「……お前が似合わないものを探す方が難しいだろう。そら、見てみろ」
臣護さんが悠希さんの肩を持って、近くにあった姿見のほうを向かせる。
「俺の言った通りだろう」
仏頂面のまま、臣護さんが言い放つ。
「臣護……まったく、柄にもない臭いこと言うのね」
「たまには妻に世事を使うのも悪くない」
「世事って……もう、バカ」
†
雑貨店にて。
「そういえば新し小物入れが欲しいのよね」
「前々から思っていたんだが、小物入れなんてそんなに数が必要なものなのか?」
「そりゃもう」
悠希さんが臣護さんに肩をくっつける。
「女の子はね、小物入れに沢山思い出をしまってるのよ。まして私は、あなたから沢山の思い出をもらっているんだから、人一倍小物入れがないと駄目なの」
「……なんだそれは」
臣護さんが呆れたように溜息を吐く。
「あら、ご不満?」
「そりゃな」
臣護さんがそっぽ向く。
「俺との思い出は小物いれなんぞに収まる程度だったのか、と思わなくはない」
「あら……大丈夫よ、臣護」
悠希さんが微笑む。
「小物入れに収まらないような大切なものは全部、私の胸の中にしまってあるから」
「……なにを言っているんだ、お前は」
「ふふっ」
†
街中にて。
「ね、臣護。手を繋ぎましょうか?」
「……なんだ今更。そんなことをする歳でもないだろう」
「む。女の子を相手に年齢の話を出すんじゃないわよ」
「女の子って歳じゃないだろう」
「だーかーらー……まったく。女の子はどれだけ歳をとっても女の子なのよ」
「そうかい」
「そうなのよ」
悠希さんが半ば強引に臣護さんと手を繋ぐ。
「それに、別にさ……おじいちゃんおばあちゃんになったって、手を繋ぎたいじゃない?」
「ふん……好きにしろ」
「好きにするわよ」
繋がれた手の握る力が少し強くなる。
私はしっかり見たぞ。
握ったのは、悠希さんからじゃない。
臣護さんからだった。
†
「ねえ、ツクハ。あの二人もう私達のこと忘れてるよねえ? 完全に二人の世界にいっちゃってやがりますよねえ!?」
「……あの二人だから」
ツクハが頬を引き攣らせる。
ちっくSHOW!
羨ましすぎるぞあの二人!
いちゃいちゃしくさりおって!
私だって誰かといちゃいちゃしてぇよぉおおおおおおおお!
「ツクハ!」
「え、なに?」
「私達も、手を繋ごう!」
びしっ、と手を差し出す。
「はい?」
「こうなったらあの二人には負けていられないよ!」
ぱしっ、とツクハの手をとる。
「あのいちゃいちゃオーラに対抗するにはこれしかないんだよ!」
「……そうなの?」
「そうなの!」
力強く頷いて見せる。
「さあ、いざいちゃいちゃしようツクハ!」
「って言われても、いちゃいちゃ、ねえ?」
ツクハさんが少し視線を持ち上げて考え込む。
「いちゃいちゃ……んー……ああ、あの子を参考にすればいいのかな?」
ツクハさんが私の手をほどく。
なん……だと……?
私とは手を繋いでらんねえってことですか!?
うわぁあああああん!
こうなったらグレてやるぅうううう!
とか今にも駆け出しそうになる私の腕に、ツクハの腕が絡んできた。
「……ほぇ?」
「いちゃいちゃするなら、こっちのほうがいいんじゃない?」
「……おお」
U☆DE☆KU☆MI。
これがカップルのみに許された伝説のスキル、UDEKUMIなのですね!
「おぉう」
やっべ。
これやっべ。
すげえツクハの体温感じるんだけど。
っていうか。
「おっぱいあたってーら」
「あててんのよ」
「ぐふっ!」
かいしん の いちげき。
ひいろ は とけつ した。
「ツクハ!」
「うん?」
「もっといちゃいちゃしようぜ!」
「ベッドの上まで?」
「いいんすか!?」
「冗談」
ぐふっ!
「そ、そんなご無体な」
「まあまあ、それはほら……もっと段階を踏んでからだよ」
「ん? ごめん、今なんて言った? 聞き逃しちゃった」
「なんでもない」
ツクハがにっこりと笑う。
「それより、ほら。あの二人、さっさと先にいっちゃってるよ。追おう」
「お、イェッサー、もといイエスマム!」
そして私達は、腕を組んだまま歩き出すのだった。
あー、悠希さんと臣護さんのいちゃいちゃマジぱねぇ。
しばらく砂糖はいらねえや。