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反省はっ!


「やーっと見つけた」



 茉莉は校舎の屋上にいた。


 屋上の欄干に腰をおろし、足は虚空に投げ出している。


 屋上っていっても、この学園の屋上の数や広さは生半可なものではない。


 しかも日が暮れているとあって、捜索は困難を極めた。


 ……なんてこともなく。


 私のラヴ・パワーがあれば茉莉を見つけることくらい簡単さ!


 ごめん嘘。


 ほんとは魔術使って探しました。


 それも、結構時間かけたっていうね!



「緋色……」



 肩越しに茉莉が私を振り返る。



「どーしたの? こんなところに一人で……せっかく皆でわいわいやってたのに、抜け出すなんてさびしいじゃんかよー」

「……ごめん」

「ん、いいよ」



 謝ったら許す。これ、人としては当然ね!


 私も、ひらりと欄干の上、茉莉の横に腰かけた。


 空を見上げれば、月に並んで巨大なコロシアムが浮かんでいた。


 あれ、あとあと聞いた話によると学園の建築部が三時間で作り上げたものらしい。


 ぱねぇ。


 で、明日には解体されてしまうそうだ。


 またその解体方法が豪快で、攻撃魔術の授業の一環で、的として使用されるらしい。


 この学園の生徒だ。


 おそらく、コロシアムは綺麗に跡形もなく消滅するだろう。


 んー。


 ちょっと名残おしいかなあ。


 ま、だからといってそこまで思い入れがあるか、って聞かれたら、そうでもないんだけど。



「ね、茉莉はどうしてこんなところにいたの?」

「……反省」

「反省?」



 なにを反省するっていうのだろう。


 私達は、無事勝利した。


 茉莉なんて初戦で勝ちをもぎとっているのだ。


 反省点なんて、ないように思うけど。



「緋色は忘れてる」

「え?」

「私は、担任。教師。特別クラスの皆を導かなくちゃいけない」

「あ……」



 そういえばそんな設定もありましたね。


 ……い、いやっ、忘れてませんよ!?


 別に、つい同年代の友達くらいにしか思ってなかったとか、そんなこたぁねえ!


 本当だぞ?


 疑っちゃ駄目だよ!


 疑った人は土下座しろ!


 踏んでやる!



「……私は担任なのに、担任らしいこと、なにもできなかった」

「いや、そんなことはないでしょ?」

「そんなこと、ある」



 どうして、茉莉はそんなことを思うのだろう。



「……ん?」



 茉莉が私のことをじっと見つめていた。



「緋色が来る前は、特別クラスの皆は、ばらばらだった」

「ほえ?」

「ナユタとソウは、いつもふらふらしてて、アイリスやエレナ、スイは姉妹でずっと修行ばっかりしてた。小夜はあんまり他人とかかわり合いになろうともしていなかった」

「そうなの?」

「……でも、緋色が来てから、皆変わった」



 茉莉が空を見上げる。


 空に浮かぶコロシアムを。



「前だったら、皆がこんな、同じ目的のために戦うなんてできなかったと思う。同じ状況になっても、別にいいや、とか他の方法を探したりとか、してたと思う」

「そんなことはないんじゃないかなあ?」

「ううん。緋色がいたから、皆が一緒に戦った」



 茉莉が微笑む。



「緋色は、不思議な人。皆の絆を結べる人」

「……褒められてる」

「褒めてる」

「いやぁ、照れますなあ」



 なんか言われてることよく理解できてないんだけどねっ。


 てへっ。



「緋色……ありがとう。あなたが来てくれて、すごくうれしい」



 まっすぐ、茉莉は私のことを見つめてお礼を口にする。



「え……あ、うん」



 不覚にも、その真っ向からの感謝に面食らってしまう。


 えっと……うん。



「茉莉がよろこんでくるなら、私も、すごくうれしいかな?」

「……うん」



 小さく茉莉が頷く。



「緋色……」



 お?


 どうしたんだい、茉莉さん。そんな若干潤んだ目をして。


 気のせい?


 あれえ?


 でもなんか、ちょっと不安そうな目に見えなくもないぞ?


 どうしてこんな目をしているんだ?



「茉莉?」

「緋色、私ね……緋色に、話したいことがあるの」

「……は、はあ」



 話したいこと、ですか?


 なんかシリアスな流れ?


 やっばい私こういうの苦手なんだけど。


 逃げていい?


 あ、駄目?


 ううむ。


 仕方あるまい。聞いてやろうじゃあないか。


 さあどんとこい。



「私ね……」

「……」



 生唾を飲み込む。


 なぜか、背中に汗をかいてしまう。


 なんだ、私。


 緊張してるのか?


 緊張する理由なんてないはずなのに。


 あれえ?



「……私、ね」




「――へえ、面白いね、あなた」




 突如、空から声が聞こえた。



「……っ!」



 見上げると、そこにいたのは影。


 見覚えのある輪郭だった。



「……ナユタ?」

「違う」



 茉莉の鋭い声が聞こえた。



「あれは、ナユタじゃない」



 見れば、茉莉の瞳は鋭く尖っていた。



「貴方は、誰?」



 くすんだ青髪が夜空に揺れた。



「……私? 私はねえ」



 黒い腰布がはためく。


 その布の隙間から見える足は……右足が欠け落ちていた。



「――フィーアだよ」



 ナユタと瓜二つのその少女が、笑った。


 直後。


 空から黒い雨が降り注いだ。



「っ!?」



 私と茉莉はとっさにその黒い雨を回避しようと、この場を移動しようとするが……出来ない。



「なに!?」



 移動しようとしたところで、なにかにぶつかる。


 触れてみて、はじめて気付いた。


 屋上を囲うように、透明なガラス板のようなものが存在していた。


 これはガラスっていうよりも、宝石?



「っ、く!」



 降り注ぐ黒い雨に対して、私は《顕現》もどきの大鎌を取り出し、振るった。


 黒い雨――無数の黒い宝石の礫が砕け散る。


 茉莉も咄嗟に《顕現》をして、黒い雨をはじいていた。


 私は大鎌を屋上を囲う物質に振り下ろした。


 だが、あっさりとはじかれる。


 硬っ……!



「ふふっ、なあんだ。姉さん以外には、変わり種が一人いるだけって言ってたけど……他にもいるじゃん、面白そうなのが」



 ゆっくりと、空からフィーアが屋上へ降り立つ。


 その瞳は、茉莉にむいていた。



「へえ? あなたは私達に似ているんだね?」

「……どういうこと?」

「不条理から生まれた、ってこと。条理に反した生を受けているってこと。つまり、あり得ざる誕生をしたということ」

「……」



 彼女は、なにを言っているのだろう?


 あり得ざる誕生?


 どういう意味だろうか。



「でも、そうか。不条理の度合いで、ある程度は安定しているんだ。だからそのくらいで留めていられる。シーソーみたい。いくらでもつり合いはとれるんだね。ある意味、羨ましいかな?」



 くすくすとフィーアが笑う。



「……」



 茉莉の眉が動く。



「……オリーブ? でも……」



 いきなり、茉莉が虚空に向かって話し始めた。


 フィーアはそれを愉快そうに見ている。



「出てくるの? いいよ、お話をしよう。興味があるかな」

「……分かった」



 茉莉が《顕現》を解く。


 そして、私のことを見た。



「ごめん。伝える前に……見せるね」

「え?」



 次の瞬間。


 変化が起きた。


 茉莉の身体が変わる。


 《顕現》だ。


 けれど、これまでの《顕現》ではない。


 茉莉の《顕現》ではない。


 茉莉の身体から、赤い靄と光の粒子があふれ出す。


 ――夜を、銀色が染め上げていく。


 純白の衣が揺れる。


 まるで何本もの尾のように、布が伸びている。


 茉莉の髪を、赤い紐がひとまとめにする。


 どこからともなく現れたのは、銀色の刀。


 彼女の周りを、白銀のほのかな輝きが包んでいた。




「――《顕現》――」




 その声色は茉莉でありながら、茉莉のものではなかった。


 いつもの違う目つき。


 いつもと違う表情で、茉莉が――ううん。誰かが微笑む。




「はじめまして」




 彼女が、私のことを見た。



「私は茉莉の妹、オリーブよ。以後、お見知りおきを願うわ」



 そして。


 白銀の斬撃が、フィーアの胴を断ちきった。





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